180105 認知症と家族・社会 <認知症と司法 1日鑑定、発症見過ごし・・・>などを読みながら
実家から帰ってきて、今日から事務所で簡単な事務整理をしました。やはり少し疲れが溜まっているのかもしれません。認知症の母はすでに私のことを息子と認識できないでいます。とはいえ、ちょっとした会話はできます。感情というものも薄れてきたようです。帰った当初は食事も自分でできない状態でしたが、次第に回復して自分で箸を持って食べることもできるようになりました
20年くらい前から少しずつ進行していて、当初は妄想がひどく、感情も少し激しくなることがあり、同居の家族に何かをとられたと私に電話をかけてきたものでした。それが最近では電話をかけてくることもなくなり、こちらから電話をしても受話器をとることもなく、家族に電話を替わってもらって話をしようとしても、これ誰とか怖がって話しもしなくなりました。おかげで?オレオレ詐欺にあうこともなく平穏な毎日を過ごしています。
私のことも、会って話すと、きっと親しい人と思って気安く会話をしてくれます。私自身は仕事上、軽度の認知症の方、あるいは重度の認知症の方、さまざまな方ご自身、あるいはご家族から依頼を受けて仕事をしたことがあり、普通の人よりは平静に対応できると思いますが、それでも自分の母親がどんどん悪化する状態は辛いものです。とはいえ、私の母親の場合、割合笑顔を絶やすことがないのと、怒ったりすることもないので、介護施設のヘルパーさんとか、病院のスタッフ、少し以前では徘徊した当時のおまわりさんも、癒やされると言って喜ばれる?と家族は話すのですが、お世辞としてもありがたいです。
そういう意味では害のない認知症患者でしょうか。ま、90代半ばに向かっているひ弱なおばあちゃんですから、害のないのは当然でしょうか。
他方で、若年者とか、70代までの認知症だと、活動性もあれば、力も残っていますね。その点では交通事故に限らず罪を犯すリスクもあるでしょう。
今朝の毎日記事<認知症と司法 1日鑑定、発症見過ごし 専門家「画像診断含め複数検査を」>は、万引きを重ねるなどの中で認知症の疑いがある人について適切な精神鑑定の必要を訴える内容でした。
事例は<2011年12月。長野県内のスーパーで、男性(86)はソーセージなど未精算の食品16点(6890円相当)を店外に持ち出し、警察に通報された。
窃盗容疑で逮捕された2日後、男性は弁護士に「はめられた」「魔物のせいだ」と話した。不審に思った弁護士が家族に聞くと、男性の脳には障害があった。>というものでした。
この方は過去に脳外傷があり、異常な言動も見られ画像診断でも異常が見つかっていたのです。
<03年、男性は自宅の階段から転落し、脳挫傷で約2カ月間入院。08年ごろから妻(83)に手を上げたり、高速道路を逆走したりするようになった。10年、病院で受けたMRI(磁気共鳴画像化装置)や脳血流の検査で、脳挫傷の後遺症とみられる脳の空洞が見つかった。脳の障害で行動や感情が抑制できないと診断された。>
しかし、上記のスーパーでの窃盗事件について、検察側は簡易鑑定を依頼した結果、責任能力ありとなり、起訴され、弁護側が依頼した医師による4階の面接・画像診断で認知症により犯行を繰り返したとの意見がでて、裁判所の職権での鑑定ではさらに詳細の検査の結果<「事件当時、認知症で行動を制御する能力を失っていた」>とされ、男性は無罪となったのです。
精神鑑定については、その疑いがあれば通常行われますが、毎日の解説が簡単に説明しているので引用します。
<刑事事件で、容疑者や被告の精神状態や責任能力などを精神科医に依頼して調べる手続き。検察が起訴前に実施するのは、容疑者の同意が必要で数時間の診断を受けさせる「簡易鑑定」と、裁判所の令状で3カ月程度留置する「本鑑定」。本鑑定では面接や心理検査に加え脳画像診断を行うこともある。>
ところで、脳外傷により認知症が発症するかどうかについては、私自身はあまり聞かないのですが、その外傷がなんらかの影響を与えてその後の治療経過や日常生活の中で悪化していったのかもしれません。
この点、ウィキペディアの<認知症>では次のように解説していて、外傷による場合を区別していますが、医学的知見はどうかはいつか調べてみたいと思います。なお、脳脊髄漏出症も以前は外傷によるとの見方は医学界では否定的であったとされていますが、最近では外傷・外圧による場合もあることが認められていると思いますので、この点はあまり重視しないでよいかもしれません。
その定義を引用すると
<認知症(にんちしょう、英: Dementia、独: Demenz)は認知障害の一種であり、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が不可逆的に低下した状態である[1][2][3]。>
また<医学的には「知能」の他に「記憶」「見当識」を含む認知障害や「人格変化」などを伴った症候群として定義される。>一方で、先天的な障がいについては、知的障がいといわれますね。
判断力の低下としてよく話題になる統合失調症は認知症と区別され、<頭部の外傷により知能が低下した場合などは高次脳機能障害と呼ばれる。>と指摘されています。
で、この記事では、検察側が簡易鑑定に頼っている点を問題視して、本来の精神鑑定を起訴前の段階で行う必要を訴えています。しかし、実際には刑事司法の予算の限界もあるでしょうし、精神科医の人数から言っても、現在の鑑定件数の増大にさえなかなか対応できていないのが現状ではないでしょうか。
この点、もう少しAIの精神鑑定分野への導入を本格的に検討してはどうかと思うのです。画像診断能力も専門レベルに匹敵するほど飛躍的に高まっていますし、診断スピードも正確性も高まっていると思われるのです。また、最近の音声認識・発語能力・質疑能力は、長谷川式レベルで判断するよりも、極めて高度な判断ができるようになっているかと思います。直ちに導入するとまではいえないと思いますので、たとえば5年くらいの試行期間を経て、AI診断を導入することを検討することで、簡易鑑定の誤りとかを是正できるのではないかと思います。またより多くの認知症を疑う人を診断できるでしょう。
もう一つ1月3日付け記事で<認知症と司法 温厚な父が突然「犯罪者」 手にかけた妻、今も案じ>という、今度は殺人という極めて凶暴性のある犯行です。認知症の場合でどのような症状になればここまでの凶暴さが生まれるのか、気になるところです。
この点先のウィキペディアでは次のような分類を紹介しています。
まず中核症状というのがあり、それは<程度や発生順序の差はあれ、全ての認知症患者に普遍的に観察される症状を「中核症状」と表現する。 記憶障害と見当識障害(時間・場所・人物の失見当)、認知機能障害(計算能力の低下・判断力低下失語・失認・失行・実行機能障害)などから成る>というのです。
これに対し、それ以外の症状として、周辺症状という分類があり、これが問題を複雑にするのかもしれません。
<患者によって出たり出なかったり、発現する種類に差が生じる症状を「周辺症状」、近年では特に症状の発生の要因に注目した表現として「BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:行動・心理障害)」「non-cognitive symptoms」と呼ぶ。>
具体的な症状は多様で、その中には暴言暴力もあるわけですね。<主な症状としては幻覚(20-30%[2])、妄想(30-40%[2])、徘徊、異常な食行動(異食症)、睡眠障害、抑うつと不安(40-50%)、焦燥、暴言・暴力(噛み付く)、性的羞恥心の低下(異性に対する卑猥な発言の頻出など)などがある>
これをわかりやすく分類した表が掲載されていましたので引用します。
オーストラリアにおけるBPSD管理指針[13] |
||||
Tier |
診断 |
有病率 |
症状 |
管理 |
1 |
認知症なし |
- |
- |
予防に努める |
2 |
BPSDのない認知症 |
40% |
- |
予防・進行を遅らせる処置をする |
3 |
軽程度BPSDの認知症 |
30% |
夜間騒乱、徘徊、軽い抑うつ、無気力、反復質問、シャドーイング |
プライマリケア管理 |
4 |
中程度BPSDの認知症 |
20% |
大うつ病、攻撃的言動、精神病、性的脱抑制、放浪 |
専門医受診のうえプライマリケア管理 |
5 |
重いBPSDの認知症 |
10% |
深刻な抑うつ、叫び、激しい錯乱 |
専門の認知症ケアが提供される施設 |
6 |
非常に重いBPSDの認知症 |
1%以下 |
物理的攻撃、深刻な抑うつ、自殺傾向 |
老年精神施設にて管理 |
7 |
激しいBPSDの認知症 |
まれ |
物理的暴力 |
集約された特別治療施設 |
妻を殺害した事件では、蓄積した鬱状態が認められると思いますが、そこからどのような事態になれば判断能力を失って犯行に至るかは、これから解明されるべき課題でしょう。
仲の良かった夫婦、妻が統合失調症となり、一変し、妻は夫を長年にわたって追い詰め、それでも夫は逃げることも抗うこともなく、妻の世話を黙ってしてきたというのです。その夫が15年春<風呂の沸かし方が分からなくなり、湯飲みがないのに何度もお茶をつごうとした。男性が病院へ連れていくと、診断は「レビー小体型認知症」。幻視や幻聴、抑うつ症状が表れる病気だった。>というのです。それでも夫は妻の世話を続けるのですね。
それが一年後に突然、妻の首を絞めて殺してしまうのです。夫は自首して、<動機は「家事をしないことへの不満」とされたが、地裁は「一切暴力をふるうことなく生活してきたのに突如、殺害を実行するのは正常な心理状態ではない」と指摘。認知症の影響を認め、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役5年)の判決が確定した。>
認知症患者の言葉はそのとおり真に受けることはできません。この事案はこれだけではわかりませんが、鬱状態が相当深刻になり、自己を制御できないところまで至っていたのでしょうか。
ここでは精神鑑定がどのような結果だったのかは明らかではありませんが、事件前の診断も重視されたのでしょうかね。
そろそろ1時間半になります。このくらいでおしまいでしょうか。また明日。
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