180209 DV・セクハラを考える <婦人保護事業、現場求める「新たな法整備」>と<記者の目 世界に広がる#MeToo>などを読みながらふと思う
午後の打合せの前に、法テラスから電話があり、以前受けた案件についての照会でした。一瞬、名前を聞いて聞き覚えがあるものの、どうだったか忘れていて、ファイルを見ると2回相談を受け、法テラスでは3回無料相談できることを説明して、連絡を待っていたということがわかりました。本来は各相談ごとに相談票を法テラスに送ればいいのですが、依頼があった段階で一緒に送ろうと思って忘れていたため、法テラスから事件の進行具合について問い合わせがあったのです。
私もこれまで一つの案件で3回も無料相談を受けたことがなかったので、相談者の本気度も気になるところでした。
とはいえ、案件はDV事件で、ある意味、DV法に基づく対応が求められる事案でしたが、いろいろな事情があって、相談者が躊躇されていて、また、2度目の相談で事実関係を確認しているとDVの中身も曖昧さが残っていたため、慎重な判断が求められるかなと思っていました。
そういう前置きはこの程度にして、本題については、毎日朝刊に2つの記事があり、いずれも興味をそそられました。
ひとつはDV保護策に関連する<くらしナビ・ライフスタイル婦人保護事業、現場求める「新たな法整備」 時代に合った女性支援を>です。もう一つはセクハラに関連して世界中を席巻しているMeTooです。<記者の目世界に広がる#MeToo 小さな声を積み上げよう=中村かさね(統合デジタル取材センター)>
前者の記事では、<DV(ドメスティックバイオレンス)、性虐待などの暴力被害や貧困、障害--。生きづらさを抱える女性を支える「婦人保護事業」について、支援現場から「現行制度ではニーズに対応しきれない」と新たな法整備を求める声が高まっている。事業は1956年に制定された売春防止法を根拠とするが、60年以上経てもほとんど骨格は見直されていない。課題を探った。【反橋希美】>と「婦人保護事業」の実体と課題に迫っています。
当該施設について、<関西地方にある婦人保護施設を訪ねた。静かな住宅街で幹線道路から奥まった場所にあり、一見してそうと分からない。>
<この施設には、社会的な自立に向けて中長期的に支援する「措置入所」のほか、DVなどの暴力被害者やその子どもの「一時保護」の二つの機能がある。>としつつ、
<この施設では、措置入所者の約9割が暴力被害者で、6割弱に何らかの障害がある。ただ定員に対する利用率は4割に満たず、施設長は「社会状況を見れば、支援を必要とする人はたくさんいるはずなのに届いていない」と訴える。>と課題の一つをあげています。
このような実態について<婦人保護施設は婦人保護事業の実施機関の一つで、現在39都道府県に47カ所ある。厚生労働省の2015年度の調査によると、措置入所の利用率の平均値は26%。婦人相談所だけに入所措置を決める権限が限定されている▽福祉窓口に存在が知られていない▽一部施設は老朽化しており使いにくい▽職員不足で、これ以上入所者を受け入れる余力がない--などの事情が指摘される。>
施設の保護機能が機能していないことが明らかとなっています。
ところで、上記の貧弱な実態の背景として、記事では根拠規定が売春防止法である点を指摘しています。
たしかに、この施設の法的根拠が売春防止法であり、それが内閣府男女共同参画局のホームページで、<配偶者からの暴力全般に関する相談窓口>として、<婦人相談所>も<婦人保護施設>も紹介されていますが、根拠法として売春防止法を明記しています。配偶者暴力防止法を一緒にあげていますが、この内閣府の感覚に異常さを通り越して、DVに対する差別意識ないしは誤った家族観が潜んでいるのではないかと、感じざるを得ないのです。
売春防止法が機能する社会的事実と、配偶者暴力防止法が機能する社会的事実は、大きく異なりますし、後者はあくまでプライベートな閉鎖的関係で受ける一方的な被害者であり、その保護です。それを同じ相談所、施設で取り扱うこと自体、到底、適切な対応とは言えないでしょう。
改正の動きがようやく動き出したようです。<全婦連は16年春、幅広い女性のニーズに合わせるための新法「女性自立支援法(仮称)」の骨子をまとめ、昨年3月には厚労省に婦人保護事業の抜本的見直しと新法整備を求める要望書を提出。>と。
また与党や厚労省も検討に入ったようですが、上記に内閣府のスタンスを見る限り、見通しが暗い状態です。それはなぜか、それこそその背景事情に食い込む必要があるでしょう。
私は、四半世紀前ころ、売春防止法違反事件をいくつか継続的に担当していました。いずれも組織的な団体による外国人が行うものでした。日本人女性の場合もあるでしょうけど、数としては当時でも少なかったように思います。その外国人はいずれも若く、農村から女衒のような人に売られてきた人ばかりでした。むろん自らの意思で売春を行っていたわけでなく、気の毒な人たちでした。彼女たちの保護は、それぞれの国がしっかり対応する必要があると思いますし、実際、強制送還となり、わが国の婦人保護施設に入所することはなかったです。毎日記事にもあるように、わが国の施設に入所する売春防止法対象者はわずかです。その施設利用の目的も異なるわけですから、一緒にすること自体、早期に解消・改善すべきでしょう。むろん売春防止法の施設利用自体、早急にやめるべきでしょう。
ここには女性に対する差別意識がなお、根強く残っていることが影響しているかもしれません。いやそうではないかと思うのです。(むろん女性が男性にDVすることはありますが、いくら草食男性が増えたとは言え、まだ割合的には希有というか少ないことは間違いないでしょう。)
それがわかりやすいのがセクハラの潜在的汎用性というか強固な実態でしょう。次の中村かさね記者の「記者の目」はセクハラの根強さ、それに異議を述べられない暗黙の社会秩序が少しだけ赤裸々になったといえるでしょう。
<#MeTooが米国で台頭した昨年10月、くしくもフリージャーナリストの伊藤詩織さん(28)が、元TBS記者から性暴力を受けたとして日本外国特派員協会で記者会見した。そこで彼女が口にした言葉が忘れられない。「自分の中で唯一クリアだったのはこれ(自分の体験)が真実であり、自分でそれにふたをしてしまったら、真実を伝える仕事であるジャーナリストとしてもう働けないと思った」>
伊藤さんのように発言しようと思うことさえ、意識できない、意識したとしてもためらい我慢するのが、わが国だけでなく、女性進出の先進地である欧米でも相当の程度であるわけですから、わが国においては、深刻な実態が隠れたままであると思われます。
実のところ、田舎で暮らしていると、ときどきそのような言動を見かけることがあります。知り合いであれば、後で注意しますが、ほとんどが無意識のうちに、加害者意識も、被害者意識も、薄れた状態で、行われているように思うのです。
私のところに相談に来る女性側は、たいてい、長い間その苦痛に耐えてきたというのです。ま、これは家庭内DVですが、それは職場や社会でも異なる男性から受けてもいるのです。
なぜ人は、ときとして人を差別して、支配者のように振る舞うのでしょうか。多くは普通の善人といわれ、信頼度も高い人ですが、ときに(あるいは一方で)そのような言動が行われているのです。
この問題は人間心理、あるいは社会構造なり、より丁寧な議論が必要だと思います。法的な制度だけでは解決できない問題ですが、法制度がその改善に向かって一歩も二歩も進める手段でもあるでしょう。
ところで、そんなことを考えて少しウェブ情報を検索していたら、見覚えのある名前にぶつかりました。どうやら研修所の同期でたぶん知っている人ではないかと思うのですが、卒業して長いので、判然としません。ともかく鋭い指摘をした論文を書かれていて、参考になりましたので、<「権利のための闘い-DV・セクハラをめぐる法と裁判」 小島妙子>を取りあげておきます。
小島さんの言葉の中で、とくに共感したのは次の部分です。セクハラ・DVについて<その本質は「いじめ」であり,「同一集団内(学校,職場,家庭,地域,社会等生活や活動の場を共有する人間の集合体)において,優 位にある者が劣位にある者に対して,主観的・客観的にかかわりなく,一方 的・一時的もしくは継続的に,身体的・精神的・社会的苦痛を与えるもの」 である。>
ま、そのほか、この分野では相当活躍されているようで(私が最近関わるようになったビギナーとはだいぶ違います)、蘊蓄のある指摘をされていて、参考になります。
そろそろ一時間が過ぎましたので、頃合いの良い時間となりました。また明日。
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