今月は3冊。
1.成功のコンセプト 三木谷浩史さん 幻冬舎文庫
第1のコンセプト「常に改善、常に前進」
第2のコンセプト「Professionalizsmに徹底」
第3のコンセプト「仮説→実行→検証→仕組化」
第4のコンセプト「顧客満足の最大化」
第5のコンセプト「スピード!スピード!スピード!」
平易な言葉で、わかりやすいのです。
流通業界、IT業界以外の人でも、自分のまわりに置き換えて読めると思います。
第3のコンセプトについては、すでにブログでとりあげていますのでこちらをどうぞ。
端々にでてくる人生観は個人的に相容れない部分もありますが、経営者として、このようなビジョンを明示できるのは、すばらしいですし、こういう会社は働きやすいだろうな、って思います。
たとえ自分の会社がそういう会社でなくても、このコンセプトを自分のスキルアップのために自分ひとりでも実行していくのは、意味があることでしょう。
おすすめ。
2.「孫子」の読み方 山本七平さん 日経ビジネス文庫
原典の引用がありますが、漢文は難しい。
何十年ぶりに漢文をみると、やっぱり勉強不足を感じます。
筆者は戦争体験(フィリピン戦線/陸軍)があり、それをベースにした解釈はとても迫力があります。
第2次大戦の太平洋戦争のころの政治、外交、南方戦線に関する知識があれば、さらに深く読めると思います。
孫子は、世間的には戦術解説本と思われていますが、実際は大戦略の本ですね。
戦争をしないことが最上の利益になるケースも十分に考慮することが前提になっています。
よい本って、自分がかかえている問題の解決を考える際の引き出しになるものを指すんじゃないかな。自分に展開可能な読み方ができる、というか。
引き出しからいろんな情報を取り出して、解決方法を工夫することができるということが、生き抜く力に通じるんだと思います。そこを人に頼っているとなかなか自立できない。
昔見たリデル・ハートよりも身近には感じられました。
当時よりも人生経験が増えているからそういう風に思うのかもしれませんが。
3.ワタシの夫は理系クン 渡辺由美子さん NTT出版
日経ビジネスオンラインの
理系クンが書くマニュアルが読みづらい理由 『ワタシの夫は理系クン』鼎談・その1
評価されないスキルを磨くことに意味はあるのか? 『ワタシの夫は理系クン』鼎談・その2
「むさぼり食う」ことでも興味フラグは立つもんだ 『ワタシの夫は理系クン』鼎談・その3
したくもない「雑談」をするスキルなんて、本当はいらないんじゃない? 『ワタシの夫は理系クン』鼎談・その4
を読んで、琴線にふれるものがあったので、本も買ってみた。
結論からいうと、日経ビジネスオンラインの記事だけで十分でした。
特に本のほうが掘り下げてあるとか、そういうことはありません。
日経ビジネスオンラインの対談の記事で、おもしろかった部分をメモしておきます。
以下引用
====
●夫は「親切なお役所」? 「無意識の経験値」の差が原因かも
山中 私なんかは哲学科を出て出版社に入ったという、まごうかたなき文系タイプなんです。だけど渡辺さんの旦那様、「理系夫」には相当共感できるというか、これは俺のことだろうと思う部分も多々あったりもする。もしかしたら、「理系クン」の要素は相当数の男性が持っているものなのじゃないかと。
渡辺 あるかもしれませんね。「理系夫」本には、夫の他に夫のIT関係の友人のエピソードも入れたんですが、全員が理系濃度が濃い仕事というわけではないんです。でも、なぜか共通する性分や行動があるなあと思ったんですよ。
山中 僕はこの本にあった「理系クンは親切なお役所」というところにすごく納得しましたね。「オレンジ色の四角い箱のチョコレートを買ってきて」と言われて、対応できる男性がどれくらいいるかと思うと……。“夫”からすると、それはやっぱり「きちんと商品名とメーカー名を明記してからメモを渡してくれ」と言いたくなるよね。
山中 そういうとき男性としては、お役所チックじゃないとやっていられないよということはあると思うんです。つまり、男性側からすると要望がファジーで、「つまり君が気に入るものを買ってこいと言っているわけでしょう、でも具体的に商品名を言ってもらわないと
福地 そう。僕の本職絡みの話になっちゃうんだけれども、いわば「無意識の経験値」とでもいうのがあるんです。その対象を普段からどれくらい気にして見ているかによって、経験値が違うという。言ってみれば、牧場に牛がたくさんいて、「あの子が一番かわいいでしょう」と言われたときに、きょとんとするあの感覚とまったく同じ。
渡辺 あの感覚と言われても、どの牛がかわいいかなんて考えたこともないですよ。
福地 えっ、全部同じじゃないの、と思うでしょう。
渡辺 そう。
福地 それ、僕らがチョコレート売り場に行ったり、おしゃれができない人がファッション誌を見たときの感覚と同じですよ。
山中 うまいたとえだ。よく分かる。
福地 毎日牧場で世話している人たちからすると、どの牛がちょっと調子が悪そうだなとか、この子は色つやがいいなとか、今まで育ててきた中で一番のべっぴんさんだとかいうのが分かるんだけれども、普通の人から見ると全部同じに見えるでしょう。
見慣れていないから識別できないんです。ファッションが気になる人なら、街中を歩いていてちょっと素敵な格好をしている人がいたら、チェックしますよね。
渡辺 うん、通り過ぎるときに必ず見る。わあ、ステキだなって。
福地 ファッションに興味がない僕らなんかは、よほど特異な格好でないと、その差異に気付かない。「あのトサカ、すごいね」くらいだと反応できるんだけれども。あの人は今年の秋の流行色をもう取り入れていてセンスあるね、みたいなことは絶対ない。
渡辺 え、「トサカ」までいかないと無理なんだ……!
福地 無理です(笑)。逆に言うと、僕らは、「今度出たパソコンは、今まで1280ドットだった画面のサイズが1440ドットになって、160ドットも増えたんだよ」というようなところにすごく敏感だったりするわけです。
渡辺 そうなんですね。「理系夫」本にも書いたんですけど、夫に、「僕に服を買いに行けと言うのは、君がメモリを買いに行くようなもの。どのメモリが良いかなんて全然わからないでしょう」と言われて。
福地 まさしくそんな感じ。それを無理矢理一般化すると、「理系、文系」「男、女」という間にある溝になる。その実態は興味関心のギャップで、それがコミュニケーションのギャップにつながっていると思うんです。
●作る側とお客さんとのギャップは、誠実さだけでは埋まらない
山中 こうしてみると、理系クンというのは、共通の理解フォーマットが数字と文字だから、印象論をできるだけ省いて、網羅的に見せるのが正しい、親切だ、という思考が見えますよね。で、その思考には「お客さん」とのギャップが生じる可能性が含まれているということですね。
福地 そう。マニュアルの話に戻ると、開発側でも、お客さんとの認識ギャップを気にできる人とできない人の差が結構表れるんですよね。そして、開発者でなくても、理系でなくても、たいていの男はその認識ギャップが認識できていないと思った方がいいというのは、どうでしょう、たいていの方がご経験の通りだと思うんです。
渡辺 はい。
山中 変な話ですが、会社の男女比を考えても、善し悪しは度外視して、消費財を開発したり販売したりする人って、やっぱり男性が多くなるわけですよね。
渡辺 そう。ユーザーには女性も大勢いるのにね。
山中 作る側の人にインタビューすると、やはりジャンルを問わずお客さんとのギャップの話はよく聞くんですよ。使う側の気持ちになって考えなくてはいけない、お客様第一ですというのは、もう決まり文句以前の言葉になってしまっているにもかかわらず、たぶん、自分が客の側になったら、この商品を良しとするのか、評価できるのかという現象が、わりと当たり前に起きているような気がするんです。
それはマニュアル1つ取っても、お客様の身になると、「この膨大な量を全部読めというのか」、みたいなことをやらざるを得ないし、やってしまいますね。
福地 やってしまいます。ただ、逆もまた真なりで。彼女なり奥さんなりに、じゃあ、あなたの今の格好はひどいから、今度いいものを買いに行きましょうといって百貨店に連れていかれて、「はい、好きな服を選んで」と言われたときの僕らの心境と、分厚いマニュアルを渡されたときの渡辺さんの心境とかは、かなり近いと思うんです。
渡辺 そうですね。お互い様なんですよね。
●「誰かに見せるためにやっている」意識
福地 これは前回のマニュアルの話に繋がるんだけど、マニュアルにどの項目に重点を置くべきかという発想がないのは、理系クンの性分として、「他人に見てもらうこと」にあんまり重きを置いていなかったりするのと直結しているんです。
渡辺 そうなんですか?
福地 ものを作ることには熱心だけれども、他人に見せたいかどうかはまた別だと。
渡辺 うちの「理系夫」も、自分が使う便利ソフトを作って日々バージョンアップしてるんですけど、それを人に見せたいという欲求はないみたい。私なら、自分で作ったものはみんなに見てもらいたいのに。
うちの夫に限らず、理系クンは技術カタログを日々喜々として更新をしている。してはいるんだけど、それって、周りの人にはその努力や成果が見えにくいことが多々あるんですね。
福地 そうなんだよね。自分の技術を更新しても、商売につながる道が見えなければ、上の人からは「お前、何を遊んでいるんだ」と思われてしまうわけで。
渡辺 じゃあ、人に何かを伝えたいという欲求が少ないタイプの理系クンにとって、「人に伝える」ことというのは、どのあたりが落ち着きどころなのかと。
「理系夫」本の取材のために、夫に「コミュニケーション」の重要度について聞いたことがあるんです。そうしたら「コミュニケーションも大事だけれども、それは『コミュニケーションスキル』という、数ある技術の一つだから」と言われてしまいました。「スキル」なんですか、しかも他の技術と並列なんですかと、びっくりしてしまったんですけど。
山中 日々ものを作って技術カタログを増やしている理系クンの中でも、志向の違いというのは当然あるでしょう。福地さん、私見で結構ですが、自分のやっていることを人に伝わる形で見せたい、という人は、回りにはどれくらい?
福地 多くはないです。とくに学生さんを見ていて思いますね。僕の場合も、どこかのタイミングで人に見てもらおうという転換があったんです。自分の中でものが出来たら満足というところから、人に見てもらうことを意識するようになってから、大きく変わった部分があるので。
渡辺 意識が変わらないと、なかなか“商売”には繋がらないんじゃないでしょうか。
福地 まさしくその通りで、商売でも、自分の研究という意味でも、人に見てもらおうとする意識がないと立ち行かなくなってくるんですね。
●学力スキルで挫折して、多様化がはじまった
山中 実は私もある種「理系クン」っぽいメンタリティで中高時代を過ごしておりまして。共学で男連中が文化祭でバンドをやって女の子にモテたいと思っているときに、俺はアニメを見に家に帰った、みたいな。
渡辺 ああ……。異性の評価を気にするより、アニメという俺の評価軸を選んだわけですね。まあ、私もアニメ見て同人誌描いてたからまったく人様のことを言えないんですけどね。
福地 そうか。周囲に評価されるメインの評価軸から外れていたと言えば、僕もそうなんですよ。ずっと男子校みたいな環境にいたのに、なぜ自分が蛮カラ体質に鍛えられなかったのか思い出した。
山中 周囲からの、蛮カラ一辺倒に染め上げろ、ってプレッシャーはなかったんですか。
福地 全然なかったですね。男道一本やりみたいなところに行かなかった最大の理由は、そこは一応進学校で、各小学校、中学校からトップが集まってくる。みんな俺はトップだと思って来るんだけど、400人トップを集めたら当然その中に……。
山中 意外に優劣が付く。
福地 そうなんです。それで、僕とかだいたい下から100番くらいの連中は、「俺ってトップじゃなかったんだ」という感じで一瞬衝撃を受けるわけです。今までは勉強という指標で自分のステータスを上げてこられたんだけど、400人中、かないっこない人たちが上に300人ぐらいいると、ほかのことで自分の立ち位置を見つけないといけないということに気が付くわけです。そこからは、もうありとあらゆるしょうもないことをやる集団になるわけです、この下の100人が(笑)。
山中 ああ、多様性がそこから生まれるわけですね、単一の評価軸に並んだおかげで、逆にね。
福地 そうそう。するとやっぱり勉強以外の課外活動的な評価軸の勝負になりますね。まあ勝負でもないですよね、勉強じゃないから。俺鉄道、俺アニメみたいな感じで。
渡辺 どっちも女子の評価軸にはないよね。
福地 ないけどな(笑)。
●“お客様に合わせる”思考では「立ち上がる車いす」は生まれない
山中 なるほど。「POSデータを見ているだけでは、売れる新製品は生まれない」ということを、小売業界の方も言いますね。あれは本当は「仮説→検証」の道具なんだ、と。
福地 それで彼が作ったのは、iBOTという「立ち上がれる車いす」だったんです。上にういーんと伸びて、棚の高いところまで車いすに乗ったまま取れるという。そして、ユーザーの方たちに、こんなものができましたといってiBOTを使ってもらうと、みんな泣き出しちゃうんです。もう私には絶対に無理だとあきらめていたことができるようになった、という。
本当にイノベーティブに新しいものを作ろうと思うと、どこかで「ユーザー本位」というのを一瞬切り捨てて、エンジニアのエゴと捉えられてしまうかもしれないけど、とにかく開発者1人の発想だけでジャンプすることが必要なんじゃないのか、というようなことを彼は言っているんです。
だから、さっき山中さんがおっしゃった“理系クンの使い道”と言うとちょっと語弊があるけれども、どこかでストイックになってでも突き詰める力というのがないと、新しいものは出てこないんじゃないかなと。
山中 開発側の人も、自分自身の中に、普通の人と共通する欲望があると思うんです。この方はたぶん、「共通する欲望」を、ご自分の中から掘り当てたんでしょうね。
福地 恐らくそうです。漠然と表面的にリサーチしていたら絶対に見つからないものなので。
そこはどこかで……極端なことを言うと、相手を泣かせてでも聞かないと真の欲求は分からないわけじゃないですか。「本当は歩きたかった」と言わせる、というようなところまでいかないとたどり着けない。
渡辺 お客さんの感情を、その場はちょっと気にしない、オミットするところがないと、新しいものはできないということですか。
福地 うん。「オミットする」という言い方をするべきなのか、「突き刺す」という方向に動くのか、どちらの方向に行くかは、その場その場で変わると思うけれども。
渡辺 突き刺す?
福地 オミットするというのは、いったん忘れるということですよね。そうじゃなくて、もうとことんその心の奥底を掘り当てるか。
本当に欲しいものが何なのかを見通すというのは、普通に会話しているだけだと、たぶんそこまでは発見できないですよね。
渡辺 福地さんが言っている普通の会話というのは、言い換えると「当たり障りない会話」ということでしょうか。
福地 うん。「仲良くなる」という社交的なスキルだけでは、突き刺すのは難しいんじゃないかと。
山中 渡辺さんと一緒にアニメーションの監督さんにインタビューをする記事(「アニメから見る時代の欲望」)をやっているんですが、皆さんが結局何を話されているかと言えば、たぶん「自分自身が幸せになるにはどうしたらいいのか」を、ずっとうかがっているような気がするんですよ。「時代の欲望」とはつまるところ、その時代に生きている自分がどうすれば心底、本当にうれしいかという漠然とした内なる思いである。で、監督の仕事は、どうやってそれを具体的に言語化できるレベルで捕まえて、スタッフに伝えられるかだ、と。
立ち上がれる車いすの話も、開発者が、当事者に成り代わるというと何だけれども、本当にイマジネーションを膨らませて、「何が嬉しいって、それは、立ち上がることだろう」というところまで行き着いた上で、それを実際に形にしたわけですよね。それには、表面的な人の反応だけを気にするのではなく、心の奥底にある真の欲求を突き詰める能力がとても有効だと思うんです。
その「自分の欲望・好奇心を突き詰める」という一点に、この連載で言う「理系クン」と相通じるところがあるんではないかと。
●万人と会話できるスキルなんてありえない
福地 さっきの話にもどっちゃいますけど、「万人と会話できるスキル」なんてないと思うんです。もともと私たちは、共感できる相手、興味が持てる相手としか、“なにごとかにつながる”会話はできない。上辺だけうまく取り繕えばいいというなら、「オシャレな会話術」のようなものはありえると思いますが、それは旦那様のいう「コミュニケーションスキル」とは似て非なる物ではないのかと。
渡辺 私と夫が悪戦苦闘、七転八倒して本にまでしてしまったことはたしかに「オシャレな会話術」ではないですね(笑)。相手の本音を聞き出すとか、相手にとって理解できる言葉は何かを探し続けていたんでしょうね。
山中 文系妻渡辺さんと理系夫さんが『ワタシの夫は理系クン』で証明したのは、「好きなことは増やせる」ということですよ。理系文系、男性女性関係なく。
福地 ああ、なるほどね。
山中 実は自分もここ5~6年ぐらい、「なんだ、好きなことって増やせるものなんだ」とすごく思っています。かなり自分の守備範囲から遠い、縁がないジャンルかなと思っていたものでも、回りにそれが好きな人がいると、意外に面白がれちゃうんですよね。ああ、これがいわゆる「食わず嫌い」だったのか、って。
そして、自分の中の“面白いものリスト”が多くなっていくに従って、人と話をするのもどんどん楽しくなってくるんですよ。その回路が動き出すと、相手が何を言っているかはまだ分からなくても「お、新しいリストが追加できるかな?」と思えて、そうこちらが思うと、不思議に相手も話しに熱が入ってくる。そんなことがよくあります。
渡辺 「面白いものリスト」って、「技術カタログ」みたいな言い回しですね。
福地 (笑)。やっぱり僕たちは、どこまでいっても「スキルを増やす」という見立てにいっちゃいますね。それが心地いいというか。
山中 これもひとつの「訓練」なんでしょうかね。他人と話す訓練、というとなんだか自己改造セミナーみたいだけど、自分の好奇心をいかにかき立てるか、なら、ちょっと面白そうじゃないですか。案外、自分の好きなもの、自分がこれをやっていると幸せ、ということって、気づかず見過ごしているもんかもしれませんよ。ある種、意図的に掘り起こした方が得なんじゃないかと。
渡辺 フラグを立てさせるんですね。
●聞く側を幸せにしたい思いこそ
山中 興味の持てる人、好きになりたい人、そういう人たちの話をこそきちんと聞きたいですよね。共感できるポイントを見つけたらそれだけでも楽しいですよね。「コミュニケーションなんぞはそれでいいんじゃないですか」という開き直りで、もういいような気がするな、今の話を聞いていると。
福地 だと思いますよ。
さっきの「次のニュース」の話だけど、あれって旦那さんの訓練もさることながら、聞く側である渡辺さんの成長も大きな要素だと思います。興味のない話題は、興味あるフリしたり聞き流すんじゃなくて、「興味ありません」と意思表明するようになったという。
渡辺 それって成長なんですか!? さっき山中さんは「傷つく」って言っていたのに。
福地 その表明があるお陰で、相手の気持ちを汲み取るのに苦手意識のある旦那さんは、渡辺さんが興味を持てないことにいち早く気がつけるから、「次のニュース」に移れる。これって、ひとつの「聞く側のスキル」ですよね。
渡辺 「興味ありません」って、確かに他の人には言いませんね。でも夫の場合、相手がこの話題には興味がないと気づくこと、発見することのほうが大事みたいです。それは、私が夫のそういう性分を理解しているということなんですね。
福地 いいコミュニケーションには、「聞く側」からのアプローチというのもあるハズ。話す側は、聞く側のスキルをたよって、気持ちよく話すこともできるようになる。相互作用なんですよ、コミュニケーションって。
すごくあいまいな言い方をすると、相手が幸福になるから自分も幸福になれるというミラーニューロン(※)的な話というのがあって、そこでポイントになるのは、やっぱり「あの人が幸せになるようなことをすれば、私も幸せになれる」ということですよね。
渡辺 わかるわかる。
福地 そうしたときに、自分が幸せになるためには、相手が幸せになっているかどうかを見きわめるというのも1つのやり方だよねというのは、もしかしたらあるかも。
渡辺 相手が幸せになりそうなことを一生懸命想像するみたいなね。
まあ、うちの理系夫の場合だと、「相手に気を配ることによって不愉快にしてしまうことも多々ある」と答えるかもしれないですけどね。ずぶ濡れで帰ってきた私に、「この時期の天気予報はアテにならないからね」と“情報提供”するのが親切という人だから。
福地 それはね。真実を追求する性分である理系クンにとって、その場だけいい顔をするのって、やっぱり合わない。そこは、ユーザーの意見だけを取り入れていると、ユーザーの真の望みを知ることはできないという車いす開発者の話と一緒だから。耳の痛いことも言うわけ。
山中 それが言えるのも信頼あってのことでしょう。
福地 そういうこと。
渡辺 今は、耳の痛いことを言うのも、最終的には私への親切だということがわかるから、まあいいかって思うんですよ。「親切」だとわかるまでに十年かかったんですけどね。もっとわかりやすく説明して欲しい!
====
1.成功のコンセプト 三木谷浩史さん 幻冬舎文庫
第1のコンセプト「常に改善、常に前進」
第2のコンセプト「Professionalizsmに徹底」
第3のコンセプト「仮説→実行→検証→仕組化」
第4のコンセプト「顧客満足の最大化」
第5のコンセプト「スピード!スピード!スピード!」
平易な言葉で、わかりやすいのです。
流通業界、IT業界以外の人でも、自分のまわりに置き換えて読めると思います。
第3のコンセプトについては、すでにブログでとりあげていますのでこちらをどうぞ。
端々にでてくる人生観は個人的に相容れない部分もありますが、経営者として、このようなビジョンを明示できるのは、すばらしいですし、こういう会社は働きやすいだろうな、って思います。
たとえ自分の会社がそういう会社でなくても、このコンセプトを自分のスキルアップのために自分ひとりでも実行していくのは、意味があることでしょう。
おすすめ。
2.「孫子」の読み方 山本七平さん 日経ビジネス文庫
原典の引用がありますが、漢文は難しい。
何十年ぶりに漢文をみると、やっぱり勉強不足を感じます。
筆者は戦争体験(フィリピン戦線/陸軍)があり、それをベースにした解釈はとても迫力があります。
第2次大戦の太平洋戦争のころの政治、外交、南方戦線に関する知識があれば、さらに深く読めると思います。
孫子は、世間的には戦術解説本と思われていますが、実際は大戦略の本ですね。
戦争をしないことが最上の利益になるケースも十分に考慮することが前提になっています。
よい本って、自分がかかえている問題の解決を考える際の引き出しになるものを指すんじゃないかな。自分に展開可能な読み方ができる、というか。
引き出しからいろんな情報を取り出して、解決方法を工夫することができるということが、生き抜く力に通じるんだと思います。そこを人に頼っているとなかなか自立できない。
昔見たリデル・ハートよりも身近には感じられました。
当時よりも人生経験が増えているからそういう風に思うのかもしれませんが。
3.ワタシの夫は理系クン 渡辺由美子さん NTT出版
日経ビジネスオンラインの
理系クンが書くマニュアルが読みづらい理由 『ワタシの夫は理系クン』鼎談・その1
評価されないスキルを磨くことに意味はあるのか? 『ワタシの夫は理系クン』鼎談・その2
「むさぼり食う」ことでも興味フラグは立つもんだ 『ワタシの夫は理系クン』鼎談・その3
したくもない「雑談」をするスキルなんて、本当はいらないんじゃない? 『ワタシの夫は理系クン』鼎談・その4
を読んで、琴線にふれるものがあったので、本も買ってみた。
結論からいうと、日経ビジネスオンラインの記事だけで十分でした。
特に本のほうが掘り下げてあるとか、そういうことはありません。
日経ビジネスオンラインの対談の記事で、おもしろかった部分をメモしておきます。
以下引用
====
●夫は「親切なお役所」? 「無意識の経験値」の差が原因かも
山中 私なんかは哲学科を出て出版社に入ったという、まごうかたなき文系タイプなんです。だけど渡辺さんの旦那様、「理系夫」には相当共感できるというか、これは俺のことだろうと思う部分も多々あったりもする。もしかしたら、「理系クン」の要素は相当数の男性が持っているものなのじゃないかと。
渡辺 あるかもしれませんね。「理系夫」本には、夫の他に夫のIT関係の友人のエピソードも入れたんですが、全員が理系濃度が濃い仕事というわけではないんです。でも、なぜか共通する性分や行動があるなあと思ったんですよ。
山中 僕はこの本にあった「理系クンは親切なお役所」というところにすごく納得しましたね。「オレンジ色の四角い箱のチョコレートを買ってきて」と言われて、対応できる男性がどれくらいいるかと思うと……。“夫”からすると、それはやっぱり「きちんと商品名とメーカー名を明記してからメモを渡してくれ」と言いたくなるよね。
山中 そういうとき男性としては、お役所チックじゃないとやっていられないよということはあると思うんです。つまり、男性側からすると要望がファジーで、「つまり君が気に入るものを買ってこいと言っているわけでしょう、でも具体的に商品名を言ってもらわないと
福地 そう。僕の本職絡みの話になっちゃうんだけれども、いわば「無意識の経験値」とでもいうのがあるんです。その対象を普段からどれくらい気にして見ているかによって、経験値が違うという。言ってみれば、牧場に牛がたくさんいて、「あの子が一番かわいいでしょう」と言われたときに、きょとんとするあの感覚とまったく同じ。
渡辺 あの感覚と言われても、どの牛がかわいいかなんて考えたこともないですよ。
福地 えっ、全部同じじゃないの、と思うでしょう。
渡辺 そう。
福地 それ、僕らがチョコレート売り場に行ったり、おしゃれができない人がファッション誌を見たときの感覚と同じですよ。
山中 うまいたとえだ。よく分かる。
福地 毎日牧場で世話している人たちからすると、どの牛がちょっと調子が悪そうだなとか、この子は色つやがいいなとか、今まで育ててきた中で一番のべっぴんさんだとかいうのが分かるんだけれども、普通の人から見ると全部同じに見えるでしょう。
見慣れていないから識別できないんです。ファッションが気になる人なら、街中を歩いていてちょっと素敵な格好をしている人がいたら、チェックしますよね。
渡辺 うん、通り過ぎるときに必ず見る。わあ、ステキだなって。
福地 ファッションに興味がない僕らなんかは、よほど特異な格好でないと、その差異に気付かない。「あのトサカ、すごいね」くらいだと反応できるんだけれども。あの人は今年の秋の流行色をもう取り入れていてセンスあるね、みたいなことは絶対ない。
渡辺 え、「トサカ」までいかないと無理なんだ……!
福地 無理です(笑)。逆に言うと、僕らは、「今度出たパソコンは、今まで1280ドットだった画面のサイズが1440ドットになって、160ドットも増えたんだよ」というようなところにすごく敏感だったりするわけです。
渡辺 そうなんですね。「理系夫」本にも書いたんですけど、夫に、「僕に服を買いに行けと言うのは、君がメモリを買いに行くようなもの。どのメモリが良いかなんて全然わからないでしょう」と言われて。
福地 まさしくそんな感じ。それを無理矢理一般化すると、「理系、文系」「男、女」という間にある溝になる。その実態は興味関心のギャップで、それがコミュニケーションのギャップにつながっていると思うんです。
●作る側とお客さんとのギャップは、誠実さだけでは埋まらない
山中 こうしてみると、理系クンというのは、共通の理解フォーマットが数字と文字だから、印象論をできるだけ省いて、網羅的に見せるのが正しい、親切だ、という思考が見えますよね。で、その思考には「お客さん」とのギャップが生じる可能性が含まれているということですね。
福地 そう。マニュアルの話に戻ると、開発側でも、お客さんとの認識ギャップを気にできる人とできない人の差が結構表れるんですよね。そして、開発者でなくても、理系でなくても、たいていの男はその認識ギャップが認識できていないと思った方がいいというのは、どうでしょう、たいていの方がご経験の通りだと思うんです。
渡辺 はい。
山中 変な話ですが、会社の男女比を考えても、善し悪しは度外視して、消費財を開発したり販売したりする人って、やっぱり男性が多くなるわけですよね。
渡辺 そう。ユーザーには女性も大勢いるのにね。
山中 作る側の人にインタビューすると、やはりジャンルを問わずお客さんとのギャップの話はよく聞くんですよ。使う側の気持ちになって考えなくてはいけない、お客様第一ですというのは、もう決まり文句以前の言葉になってしまっているにもかかわらず、たぶん、自分が客の側になったら、この商品を良しとするのか、評価できるのかという現象が、わりと当たり前に起きているような気がするんです。
それはマニュアル1つ取っても、お客様の身になると、「この膨大な量を全部読めというのか」、みたいなことをやらざるを得ないし、やってしまいますね。
福地 やってしまいます。ただ、逆もまた真なりで。彼女なり奥さんなりに、じゃあ、あなたの今の格好はひどいから、今度いいものを買いに行きましょうといって百貨店に連れていかれて、「はい、好きな服を選んで」と言われたときの僕らの心境と、分厚いマニュアルを渡されたときの渡辺さんの心境とかは、かなり近いと思うんです。
渡辺 そうですね。お互い様なんですよね。
●「誰かに見せるためにやっている」意識
福地 これは前回のマニュアルの話に繋がるんだけど、マニュアルにどの項目に重点を置くべきかという発想がないのは、理系クンの性分として、「他人に見てもらうこと」にあんまり重きを置いていなかったりするのと直結しているんです。
渡辺 そうなんですか?
福地 ものを作ることには熱心だけれども、他人に見せたいかどうかはまた別だと。
渡辺 うちの「理系夫」も、自分が使う便利ソフトを作って日々バージョンアップしてるんですけど、それを人に見せたいという欲求はないみたい。私なら、自分で作ったものはみんなに見てもらいたいのに。
うちの夫に限らず、理系クンは技術カタログを日々喜々として更新をしている。してはいるんだけど、それって、周りの人にはその努力や成果が見えにくいことが多々あるんですね。
福地 そうなんだよね。自分の技術を更新しても、商売につながる道が見えなければ、上の人からは「お前、何を遊んでいるんだ」と思われてしまうわけで。
渡辺 じゃあ、人に何かを伝えたいという欲求が少ないタイプの理系クンにとって、「人に伝える」ことというのは、どのあたりが落ち着きどころなのかと。
「理系夫」本の取材のために、夫に「コミュニケーション」の重要度について聞いたことがあるんです。そうしたら「コミュニケーションも大事だけれども、それは『コミュニケーションスキル』という、数ある技術の一つだから」と言われてしまいました。「スキル」なんですか、しかも他の技術と並列なんですかと、びっくりしてしまったんですけど。
山中 日々ものを作って技術カタログを増やしている理系クンの中でも、志向の違いというのは当然あるでしょう。福地さん、私見で結構ですが、自分のやっていることを人に伝わる形で見せたい、という人は、回りにはどれくらい?
福地 多くはないです。とくに学生さんを見ていて思いますね。僕の場合も、どこかのタイミングで人に見てもらおうという転換があったんです。自分の中でものが出来たら満足というところから、人に見てもらうことを意識するようになってから、大きく変わった部分があるので。
渡辺 意識が変わらないと、なかなか“商売”には繋がらないんじゃないでしょうか。
福地 まさしくその通りで、商売でも、自分の研究という意味でも、人に見てもらおうとする意識がないと立ち行かなくなってくるんですね。
●学力スキルで挫折して、多様化がはじまった
山中 実は私もある種「理系クン」っぽいメンタリティで中高時代を過ごしておりまして。共学で男連中が文化祭でバンドをやって女の子にモテたいと思っているときに、俺はアニメを見に家に帰った、みたいな。
渡辺 ああ……。異性の評価を気にするより、アニメという俺の評価軸を選んだわけですね。まあ、私もアニメ見て同人誌描いてたからまったく人様のことを言えないんですけどね。
福地 そうか。周囲に評価されるメインの評価軸から外れていたと言えば、僕もそうなんですよ。ずっと男子校みたいな環境にいたのに、なぜ自分が蛮カラ体質に鍛えられなかったのか思い出した。
山中 周囲からの、蛮カラ一辺倒に染め上げろ、ってプレッシャーはなかったんですか。
福地 全然なかったですね。男道一本やりみたいなところに行かなかった最大の理由は、そこは一応進学校で、各小学校、中学校からトップが集まってくる。みんな俺はトップだと思って来るんだけど、400人トップを集めたら当然その中に……。
山中 意外に優劣が付く。
福地 そうなんです。それで、僕とかだいたい下から100番くらいの連中は、「俺ってトップじゃなかったんだ」という感じで一瞬衝撃を受けるわけです。今までは勉強という指標で自分のステータスを上げてこられたんだけど、400人中、かないっこない人たちが上に300人ぐらいいると、ほかのことで自分の立ち位置を見つけないといけないということに気が付くわけです。そこからは、もうありとあらゆるしょうもないことをやる集団になるわけです、この下の100人が(笑)。
山中 ああ、多様性がそこから生まれるわけですね、単一の評価軸に並んだおかげで、逆にね。
福地 そうそう。するとやっぱり勉強以外の課外活動的な評価軸の勝負になりますね。まあ勝負でもないですよね、勉強じゃないから。俺鉄道、俺アニメみたいな感じで。
渡辺 どっちも女子の評価軸にはないよね。
福地 ないけどな(笑)。
●“お客様に合わせる”思考では「立ち上がる車いす」は生まれない
山中 なるほど。「POSデータを見ているだけでは、売れる新製品は生まれない」ということを、小売業界の方も言いますね。あれは本当は「仮説→検証」の道具なんだ、と。
福地 それで彼が作ったのは、iBOTという「立ち上がれる車いす」だったんです。上にういーんと伸びて、棚の高いところまで車いすに乗ったまま取れるという。そして、ユーザーの方たちに、こんなものができましたといってiBOTを使ってもらうと、みんな泣き出しちゃうんです。もう私には絶対に無理だとあきらめていたことができるようになった、という。
本当にイノベーティブに新しいものを作ろうと思うと、どこかで「ユーザー本位」というのを一瞬切り捨てて、エンジニアのエゴと捉えられてしまうかもしれないけど、とにかく開発者1人の発想だけでジャンプすることが必要なんじゃないのか、というようなことを彼は言っているんです。
だから、さっき山中さんがおっしゃった“理系クンの使い道”と言うとちょっと語弊があるけれども、どこかでストイックになってでも突き詰める力というのがないと、新しいものは出てこないんじゃないかなと。
山中 開発側の人も、自分自身の中に、普通の人と共通する欲望があると思うんです。この方はたぶん、「共通する欲望」を、ご自分の中から掘り当てたんでしょうね。
福地 恐らくそうです。漠然と表面的にリサーチしていたら絶対に見つからないものなので。
そこはどこかで……極端なことを言うと、相手を泣かせてでも聞かないと真の欲求は分からないわけじゃないですか。「本当は歩きたかった」と言わせる、というようなところまでいかないとたどり着けない。
渡辺 お客さんの感情を、その場はちょっと気にしない、オミットするところがないと、新しいものはできないということですか。
福地 うん。「オミットする」という言い方をするべきなのか、「突き刺す」という方向に動くのか、どちらの方向に行くかは、その場その場で変わると思うけれども。
渡辺 突き刺す?
福地 オミットするというのは、いったん忘れるということですよね。そうじゃなくて、もうとことんその心の奥底を掘り当てるか。
本当に欲しいものが何なのかを見通すというのは、普通に会話しているだけだと、たぶんそこまでは発見できないですよね。
渡辺 福地さんが言っている普通の会話というのは、言い換えると「当たり障りない会話」ということでしょうか。
福地 うん。「仲良くなる」という社交的なスキルだけでは、突き刺すのは難しいんじゃないかと。
山中 渡辺さんと一緒にアニメーションの監督さんにインタビューをする記事(「アニメから見る時代の欲望」)をやっているんですが、皆さんが結局何を話されているかと言えば、たぶん「自分自身が幸せになるにはどうしたらいいのか」を、ずっとうかがっているような気がするんですよ。「時代の欲望」とはつまるところ、その時代に生きている自分がどうすれば心底、本当にうれしいかという漠然とした内なる思いである。で、監督の仕事は、どうやってそれを具体的に言語化できるレベルで捕まえて、スタッフに伝えられるかだ、と。
立ち上がれる車いすの話も、開発者が、当事者に成り代わるというと何だけれども、本当にイマジネーションを膨らませて、「何が嬉しいって、それは、立ち上がることだろう」というところまで行き着いた上で、それを実際に形にしたわけですよね。それには、表面的な人の反応だけを気にするのではなく、心の奥底にある真の欲求を突き詰める能力がとても有効だと思うんです。
その「自分の欲望・好奇心を突き詰める」という一点に、この連載で言う「理系クン」と相通じるところがあるんではないかと。
●万人と会話できるスキルなんてありえない
福地 さっきの話にもどっちゃいますけど、「万人と会話できるスキル」なんてないと思うんです。もともと私たちは、共感できる相手、興味が持てる相手としか、“なにごとかにつながる”会話はできない。上辺だけうまく取り繕えばいいというなら、「オシャレな会話術」のようなものはありえると思いますが、それは旦那様のいう「コミュニケーションスキル」とは似て非なる物ではないのかと。
渡辺 私と夫が悪戦苦闘、七転八倒して本にまでしてしまったことはたしかに「オシャレな会話術」ではないですね(笑)。相手の本音を聞き出すとか、相手にとって理解できる言葉は何かを探し続けていたんでしょうね。
山中 文系妻渡辺さんと理系夫さんが『ワタシの夫は理系クン』で証明したのは、「好きなことは増やせる」ということですよ。理系文系、男性女性関係なく。
福地 ああ、なるほどね。
山中 実は自分もここ5~6年ぐらい、「なんだ、好きなことって増やせるものなんだ」とすごく思っています。かなり自分の守備範囲から遠い、縁がないジャンルかなと思っていたものでも、回りにそれが好きな人がいると、意外に面白がれちゃうんですよね。ああ、これがいわゆる「食わず嫌い」だったのか、って。
そして、自分の中の“面白いものリスト”が多くなっていくに従って、人と話をするのもどんどん楽しくなってくるんですよ。その回路が動き出すと、相手が何を言っているかはまだ分からなくても「お、新しいリストが追加できるかな?」と思えて、そうこちらが思うと、不思議に相手も話しに熱が入ってくる。そんなことがよくあります。
渡辺 「面白いものリスト」って、「技術カタログ」みたいな言い回しですね。
福地 (笑)。やっぱり僕たちは、どこまでいっても「スキルを増やす」という見立てにいっちゃいますね。それが心地いいというか。
山中 これもひとつの「訓練」なんでしょうかね。他人と話す訓練、というとなんだか自己改造セミナーみたいだけど、自分の好奇心をいかにかき立てるか、なら、ちょっと面白そうじゃないですか。案外、自分の好きなもの、自分がこれをやっていると幸せ、ということって、気づかず見過ごしているもんかもしれませんよ。ある種、意図的に掘り起こした方が得なんじゃないかと。
渡辺 フラグを立てさせるんですね。
●聞く側を幸せにしたい思いこそ
山中 興味の持てる人、好きになりたい人、そういう人たちの話をこそきちんと聞きたいですよね。共感できるポイントを見つけたらそれだけでも楽しいですよね。「コミュニケーションなんぞはそれでいいんじゃないですか」という開き直りで、もういいような気がするな、今の話を聞いていると。
福地 だと思いますよ。
さっきの「次のニュース」の話だけど、あれって旦那さんの訓練もさることながら、聞く側である渡辺さんの成長も大きな要素だと思います。興味のない話題は、興味あるフリしたり聞き流すんじゃなくて、「興味ありません」と意思表明するようになったという。
渡辺 それって成長なんですか!? さっき山中さんは「傷つく」って言っていたのに。
福地 その表明があるお陰で、相手の気持ちを汲み取るのに苦手意識のある旦那さんは、渡辺さんが興味を持てないことにいち早く気がつけるから、「次のニュース」に移れる。これって、ひとつの「聞く側のスキル」ですよね。
渡辺 「興味ありません」って、確かに他の人には言いませんね。でも夫の場合、相手がこの話題には興味がないと気づくこと、発見することのほうが大事みたいです。それは、私が夫のそういう性分を理解しているということなんですね。
福地 いいコミュニケーションには、「聞く側」からのアプローチというのもあるハズ。話す側は、聞く側のスキルをたよって、気持ちよく話すこともできるようになる。相互作用なんですよ、コミュニケーションって。
すごくあいまいな言い方をすると、相手が幸福になるから自分も幸福になれるというミラーニューロン(※)的な話というのがあって、そこでポイントになるのは、やっぱり「あの人が幸せになるようなことをすれば、私も幸せになれる」ということですよね。
渡辺 わかるわかる。
福地 そうしたときに、自分が幸せになるためには、相手が幸せになっているかどうかを見きわめるというのも1つのやり方だよねというのは、もしかしたらあるかも。
渡辺 相手が幸せになりそうなことを一生懸命想像するみたいなね。
まあ、うちの理系夫の場合だと、「相手に気を配ることによって不愉快にしてしまうことも多々ある」と答えるかもしれないですけどね。ずぶ濡れで帰ってきた私に、「この時期の天気予報はアテにならないからね」と“情報提供”するのが親切という人だから。
福地 それはね。真実を追求する性分である理系クンにとって、その場だけいい顔をするのって、やっぱり合わない。そこは、ユーザーの意見だけを取り入れていると、ユーザーの真の望みを知ることはできないという車いす開発者の話と一緒だから。耳の痛いことも言うわけ。
山中 それが言えるのも信頼あってのことでしょう。
福地 そういうこと。
渡辺 今は、耳の痛いことを言うのも、最終的には私への親切だということがわかるから、まあいいかって思うんですよ。「親切」だとわかるまでに十年かかったんですけどね。もっとわかりやすく説明して欲しい!
====