時間の外  ~since 2006~

気ままな雑記帳です。話題はあれこれ&あっちこっち、空を飛びます。別ブログ「時代屋小歌(音楽編)(旅編)」も、よろしく。

汚れつちまつた悲しみに  by 中原中也&友川かずき

2013年02月15日 | 音楽全般

ギターを覚え、自分で歌を作るようになった人が、中原中也の詩に出会い、しかも中也の詩に感銘を受けると・・・・

ついつい中也の詩にメロディをつけてみたくなった人は、けっこういるのではないだろうか。

例えば私なども、その中の一人だったし。

中也の詩集を読み進むうちに、メロディをついついつけたくなった詩は、いくつかあった。

でも、自分なんかが、孤高の詩人・中也の詩にメロディをつけるなんて、あまりにも恐れ多い・・というか、おこがましい気もして、おいそれとはメロディをつけられなかった。

自分などが中也の詩にメロディなどつけてしまっていいのだろうか・・という思いもあった。

だが、中也の詩は、そういうためらいや理性(?)や遠慮すらも無効化してしまうようなパワーがあった。

中也の詩には、そんな力があった。

魂をゆさぶられ、気づけばいつしか無意識のうちにメロディをつけてしまっていたことが・・・・私にあった。

公の場所で不特定多数の人に発表さえしなければいい、ただ自分の感じるままにメロディをつけて、自分と、自分のまわりのごく少数の人にだけ聴いてもらえればいい・・・・メロディをつけた後、私はそう思った。

私がメロディをつけた中也の詩は「夏の日の歌」という詩であった。

当時、カセットテープに、その歌を弾き語りで録音し、私のまわりのごく少数の音楽仲間にだけ聴いてもらったものだった。

その、私がメロディをつけた「夏の日の歌」は、作ってから何十年もたつけど、いまだに人前では歌ったことがない。

 

プロのシンガーソングライターでも、中也の詩にメロディをつけてみた人はいるのではないか。

中には、正式に発表した人もいる。

それは・・・・例えば、友川かずきさん。

友川さんといえば、なんといっても「生きてるって言ってみろ」という曲が有名。

友川さんは、拓郎や陽水のようなシングルチャートを賑わしたような大ヒット曲があるわけではないが、一部のファンの間ではよく知られているシンガーソングライター。

「生きてるって言ってみろ」という代表曲は・・・聴いてると、鬼気迫る凄い歌である。

私が初めて友川さんを見たのは、彼がまだ若い頃に、ある地方のテレビ番組に出て歌っていた時。

その時に歌っていたのが「生きてるって言ってみろ」だった。

その時は・・・私は呆気にとられながら、ひきつけられ、視線をそらすこともできず、言葉を失って聴き入ってしまった。衝撃だった。

こういう歌が存在するとは・・。

歌詞も、歌い方も、歌ってる姿も・・・強烈だったし、尋常じゃないものを感じた。

世の中の甘ったるい歌が、ここだけは避けて通っていってる気がした。

甘ったるい歌なんか、歌ってる場合か?・・みたいな気にもさせられた。

 

で、私の心の中に強く強くインプットされた。

凄い・・・シンガーがいる。凄い歌がある。・・そんな思いと共に。

 

かといって、彼のアルバムを私は持っているわけではない。

いつか買おうといつも思いながらも、買いそびれていた。

彼の情報が、あまり無かったせいかもしれない。

 

結局、彼の歌う姿が見れるDVDを買ったのは、数年前。

その時・・・。

彼は、なんと、中原中也の詩にメロディをつけた歌を歌っていた。

 違和感、なかった。

もともと中也の詩は、もしもメロディをつけるとするなら、甘くポップなメロディラインは似合わない作品が多い気が私はしている。個人的な考え方だけど。

また、素朴なメロディのほうが、より詩がひきたつ気もしている。

私が「夏の日の歌」につけたメロディは、素朴で古臭い(実際、メロをつけてから何十年もたつので、古いのは当たり前なのだが)メロディだった。

友川さんのつけたメロディは、素朴ながらも、染み込むような深さを感じるメロディだった。

抑えていながらも、奥底に鋭さの気配を感じた。無力感、悲しみ、などの感情を含んで。

 

そして極めて内省的。

そんな点が、中也の詩にすごくマッチして聴こえた。

例えば「汚れつちまった悲しみに」。

中也の詩の中でも、代表的な名作。

こんなに有名で、しかも歴史的な評価も確立されている詩にメロディをつけて、人前で発表するのは、けっこう度胸が必要だったのではないだろうか。

でも、聴いてみると、この「友川バージョン」は、実に好きだ。

この詩にメロディをつけたか、つけようとした方は、おそらく他にもいるのではないかと思う。

できれば聴き比べてみたい。優劣をつける・・とか、そういう次元のことじゃなくて。

メロディをつけた人が、その詩からどんな思いを受け取ったか、どんな解釈をしたかが、そこには出ると思うので。

 

ただ・・・この友川バージョンは、かなりハマっていると思う。

 

今では、この・・・中也の代表作の一つとでもいえる「汚れつちまった悲しみに」という詩を口にする時、ついこの友川さんのメロディがついた状態で口ずさむことが・・・・私は多い。

 

「生きてるって言ってみろ」という鬼気迫る歌を作れた友川さんの感性は、やはりタダものではない。

もしも友川さんの「生きてるって言ってみろ」という曲をご存じない方は、まずは「生きてるって言ってみろ」を聴いてから、中也の「汚れつちまった悲しみに」の友川バージョンを聴いてみることをお勧めしたい。

 

 

まずは・・・http://www.youtube.com/watch?v=6njISdzp7J8

 

そして・・・http://www.youtube.com/watch?v=QlJmNFV_q2I

 

 「生きてるって言ってみろ」みたいな歌を作る友川さんが、中也のこの詩にメロディをつけずにいられなかったのは、・・なんとなく分かる気がする。

あくまでも「気がする」だけど。

 

中原中也がもしも生きていたら、この友川さんのバージョンを聴かせてみたい。

 

 

 

蛇足だが、友川さんが作った歌を、あの伝説の女性シンガー「ちあきなおみ」さんが歌っている。曲のタイトルは「夜へ急ぐ人」という曲だ。

これがもう・・スゴイ出来になっている。

http://www.youtube.com/watch?v=E8PxRNZRAU0

友川さんの楽曲のパワーと、ちあきさんの表現力が融合して、これまた鬼気迫る出来なのだ。時間がある時にでも、気が向いたら聴いてみてほしい。

 

やはり、友川さんの曲は・・・人の心の奥にグサリと突き刺さってくる。

きれいごとの曲や、甘ったるい曲は、その情念の前では粉砕されてしまいそうだ。

 

なお、写真は、中原中也。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« カセットテープの時代 | トップ | 「蔵の宿」の原作者、西ゆう... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

音楽全般」カテゴリの最新記事