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気ままな雑記帳です。話題はあれこれ&あっちこっち、空を飛びます。別ブログ「時代屋小歌(音楽編)(旅編)」も、よろしく。

私の絵日記  by  藤原マキ

2013年05月11日 | レビュー(テレビ、ゲーム、本、映画、その他)

「私の絵日記」。

藤原マキさん著の本。

マキさんは、漫画家つげ義春先生の奥さんであり、すでに故人である。

私がこの本を買ったのは、もちろんマキさんがつげさんの奥さんであることを知っていたからだ。

内容は、タイトル通りの絵日記で、マキさんのイラストと、簡潔な日記文でまとめられている。

その他、マキさんのエッセイもあり、生前のスナップ写真もあり、最後には旦那さんであるつげ義春さんの文章も寄せられている。

この本は、奥さんの視点から見た、つげさん、そしてつげさん一家の日常がつづられている。

ある意味、つげ義春外伝・・・そんな感じで私は読んだ。

マキさんという女性は、元々はアングラ劇団の女優だったらしい。

 だが、この本を読むと、意外・・と言っては失礼だが、絵の才能にも非凡なものがあったことがわかる。

うまいとか下手とか、そういう次元ではなく、味のある絵である。

アーティスト志向があっただけあって、センスのいい女性だった・・というのは間違いないと思う。

 

初めのほうの日記部分は、文だけ読むと「普通の日記」。

割と、家族の平凡な日常が記されている。

なのだが、そこにイラストが加わることによって、普通の日常日記に膨らみがでている。

もしもイラストがなかったら、そのへんの普通の人が書く日記と大差ないかもしれない。

ただ、マキさんがつげ義春夫人であることを知った上で読むと、その平凡な日常の中に、漫画家つげ義春さんの普段の姿が記されていて、つげファンには興味深い。

つげさんはほとんどマスコミには顔を出さないので、知られざるつげ義春の姿が、そこにある。

 

面白いのは、マキさんにはマキさんなりの画風はしっかりあるのだが、巻末に進むにつれて、画風が旦那さんの画風に似てくる点。

最初のほうの絵は、旦那さんの画風との違いは感じる。描き手が違うのだから、当然画風も別物だ。

ただ、最初の方の絵にも、構図などには、つげ義春っぽい構図があったりするし、つげっぽい構図の絵を見ると、ファンとしてニヤリとさせられる。

また、後半になってベタを使ったイラストが多くなってくると、後半になるにつれかなりつげ義春の絵を彷彿とさせられる絵が多くなる。

そう、だんだんつげ義春風になってくるのだ。

ベタを使ったイラストでは、絵の細部への書き込みが多くなり、リアルになってくるのだ。

その一方で人物はすごくシンプルである。

シンプルな人物と、書き込みの多いリアルな背景との対比は、旦那さんの絵の大きな特徴だし、それはこの本の後半に収められたマキさんの画風にも当てはまる。

これがつげさんに関係のない人物が描いた絵なら、つげさんの画風の真似・・みたいに感じてしまうかもしれないが、マキさんというつげ義春夫人が描いた絵だと思うと、微笑ましさを感じもするし、ファンとして嬉しくもなってくる。

変な意味でなく、マキさんに可愛さや愛おしさみたいなものすら感じる。

 

だんだん画風が旦那さんの画風に相通じるものが多くなってくると・・・たとえ日常に夫婦感のケンカがあったとしても、マキさんは根っこで旦那さんの才能をリスペクトしていたのが伝わってくる気がする。

画風は嘘をつかないものだ。その人の心の根っこがそこに現れると思う。

そのへんが、なんとも微笑ましい。そして1人の女性として可愛い。

なにより、絵に家族への愛情や尊重がよく出ている。

 

そして、本の途中にあるエッセイ部分では、マキさんがもう亡くなられていることを考えると、読んでて本当に切なくなってくる。

つげ家の生活ぶりが、淡々と記されており、旦那さんの病気のことなども綴られる。

決して裕福ではなかった生活ぶりだが、悲壮感はないし、かといってカッコつけたような前向きぶりもない。

自然体で綴られている。そんな点が私は好きだ。

いくら漫画界において確固たる評価を得ている、才能ある漫画家の奥さんであったとしても、普段の生活ぶりや、その中での感じ方は、普通の主婦と変わらない。

つげ家はぜいたくな暮らしぶりではなかったらしいことを考えれば、むしろ、そんな点に庶民的な・・・等身大的な親近感を感じる。

だからこそ・・・マキさんがすでにこの世にいらっしゃらない方である・・という事実が、悲しい。

 

最後の方で、つげ義春さんがこの本に寄せた文の中で、生前のマキさんのことが色々綴られてある。

特に、マキさん晩年の闘病生活ぶりを綴るくだりは・・・・ファンとして、読者として、切なさは倍加してくる。

そして・・・

寄稿文の最後の最後で、つげさんが、マキさんが亡くなられて、もう何をする気力もなくしてしまっている・・・と結んでいるのは、たまらなく切なく悲しい。やりきれない思いにさせられる。

 

この本は、つげ義春夫人にして、アーティスト志向もあった、才能ある愛すべき女性「藤原マキ」さんが、確かにこの世に存在した証明である。

 

すべての、つげ義春ファンに読んでいただきたい、愛すべき1作である。

それがこの「私の絵日記」である。

 

個人的に、この本が世に出てくれて、本当によかったと思っている。

マキさんという奥さんがいたからこそ、つげ義春さんとその名作群もあったのだ・・・そう思えたから。

 

藤原マキという女性の一生をドラマで見てみたい・・・そんな気もしている。

NHKの連ドラなどで、やってくれないかなあ。

 


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