「ある日、風が運んできた一粒の種が、
庭の片隅で芽を出したのです」
男は、一言一言、言葉を選ぶように、話し始めました。
「それは、チューリップの種でした」
「チューリップ・・・ですか?」
私は思わず聞き返しました。
「チューリップは球根から育つのだと思っていましたが」
男はにこりと笑って、頷きました。
「ええ、普通は、その通りです。でも、どんな植物でも、実が成り、
種はできるのです。全ての始まりは、小さな一粒の種。
草も、花も、木も」
「チューリップにも・・・」
「もちろん、チューリップにも。人間だって、一粒の種から生まれる
のですよ」
ああ、なるほど。私もまた、一粒の種から生まれたのでした。
「私だって、チューリップの種が飛んできて芽を出すなんて、
思ってもみない事でした。私は、その小さな芽がいとおしくなって、
仕事の合間に、時々庭を訪れては、世話をするようになったのです」
私は、男がチューリップの芽にジョウロで水をやっているところを思い
浮かべ、なんだか微笑ましくなりました。無骨な男と、可愛い花。その
ギャップが面白いと思ったのです。
「貴方は、どんな仕事をしているのですか」
決して的外れな質問ではないというのに、男は一瞬、何ともいえず
複雑な表情を見せました。そして、一瞬の沈黙の後、
「薔薇作りをしています・・・」
と答えたのです。
男の答えは、私にとって、なんとも期待外れなものでした。
正直、なんだ、と思ってしまったのです。よりによって薔薇作りとは。
「なんだ、プロじゃないですか。それなら、チューリップの世話も御手の
ものってわけだ」
私は、急速に興味が薄れていくのを感じました。もうこんな話、
どうでもいいや ・・・。
ところが男は、むきになって、私の言葉を否定しにかかったのです。
「いえ、私は薔薇のことなら分かるのですが…少なくとも貴方よりは。
でも、種から生まれたチューリップとなると、どう接していいのか、
全くの手探りでした」
男がなぜ、こんな話をしたがるのか、私にはさっぱり分かりませんで
した。そして、聞いているうちに、なんだか意地悪な質問をしてやろう
という気になってきたのです。
「貴方はいったい、薔薇とチューリップのどちらを愛しているのですか」
男は驚いて私を見つめました。
「貴方は薔薇作りでしょう。それとも、チューリップ作りに鞍替えするの
ですか」
私の目には、嘲笑が浮かんでいたかもしれません。
「どちらも、好き、ですか」
しかし、男は顔を上げ、すがすがしい顔をしてみせたのです。
「私は、世界一の薔薇作りです。だから、チューリップを育てることが
できるのですよ」
驚いたことに、男の顔には、みるみる自信が湧いてくるようでした。
まるでこの時をずっと待っていたかのように、
堂々と話し始めたのです。
最初にチューリップのことを口にした時とは、全くの別人のように・・・。
「薔薇というのはとても世話がかかるものです。よい薔薇を作るには、
毎日毎日、愛情を込めて接しなければいけない。雨の日も風の日も。
男が一生をかける仕事ですよ。だからこそチューリップの種は、
私の庭に舞い降りたのです。私の庭だからです。
「種から生まれたチューリップには、球根がありません。
そして球根のないチューリップに、花を咲かせることはできません。
もし咲いてしまったら、枯れてなくなるだけでしょう。
「だから私は、ずっと見守っていたのです。しっかりと、大きな球根が
できるようにと。そしてチューリップは、いよいよ花を咲かせようと
しているのです。
「花は咲き、やがて散ります。でも、その姿その香りは、永遠に記憶
の中に残るでしょう。花が散ることを恐れては、花作りはできません」
私は溜め息をつき、降参しました。
「そして、球根が残る、ということですね」
男はにっこりと笑いました。
この話は、これでお終いです。
本当にチューリップが花を咲かせるのか、私には分かりません。
見に行くつもりもありません。
なぜなら私には私の仕事があり、私の庭があるからです。
成功するには特にね。。。
僕にはこういうセリフは
言えそうもない。
そういう意味では、
憧れの男性像なんですよ。
きよこさんのコメントを読んで、
やっぱり男は女にはかなわないな、と
思いました。
そう思いながら、にこにこしています。
あなたは最高の読者です。
見に行くつもりはない」っていうのがね。。。
恋や愛にあこがれながらも、どこか冷めている
現代の男性を象徴していると思います。
それがいいとも悪いとも思いませんけど
生き方としてはさみしいですね。
何にでも「素」はあるものです。
チューリップのめしべが膨らみ種が出来る。風に飛ばされて着床したのは、優しい男の畑だった。
間違ってアスファルトの隙間に落ちたら、ど根性チューリップになっちゃいましたね。
種が出来た奇跡と、柔らかな土の上に舞い降りた偶然を二人の男は喜び合っている様が可愛いです。
出会いって、そんなもの。
薔薇との出会いを楽しんでいる男に、守るべき違う花が現れた。
男はそれぞれの花の前で、それぞれ別の男になるのでしょう。
それは花も同じね。
今夜、私も花のことを文字にしました。蓮の花です。
その名は「大賀はす」
こういうとき、文末に顔文字をつけるといいんだろうけど、そういうの疎くてわからんのよ。。。
baysさん、どうもありがとう
返レスを拝見して、
もう少し、文字ではわからないbaysさんの『恋』について、伺いたいなって思ってしまいました/hikari_blue/}
思ったからこそ、
今までここにアップしなかったのかも知れない。
ここに出てくる二人は、どっちも両極端で、
僕にはどっちもつまらない男に思えて
しょうがないんです。
僕はとりあえず小学校5年のときに
『世界中の女の子は僕のものだ』と悟って以来、
恋に対する後ろめたさというものを
いっさい持ち合わせることなく今に至っています。
恋というのは崇高なものであり、
恋で始まり恋で終わるべきもの。
恋の行く末に恋以外のゴールを望むのは、
なんか腹黒い打算を感じるんですね。
だからこの話は、不倫だとか裏切りだとか、
そういうのを悪と思っている人と、
それに対して正当性を主張し、いらぬ弁解を
している人とのくだらない対決を、
ばかばかしく書いてみた、というのがアタリです。
それはきっと、baysさんが別の素敵な女性に心引かれているときにご自分への戒めとして書いたのではないでしょうか(笑)
私には、そういう話に思えてしまったのですが…。
いかがでしょう??
アップしていると思っていたんだ。
ある方のブログでチューリップが咲いたという
記事を拝見して、探してみたらどこにもない。
で、昔のHPを覗きに行ったら、
まだちゃんとそのページがあるんだな。
で、持ってきました。
僕としては、いいのか悪いのか、評価が
わからない作品なんですけど、
書いちゃったんだからしょうがない。
でも、これを書いたときって、自分が
どんなだったか、あまり覚えていないんですよ。