2008年に熊本県阿蘇で開催のカントリー・ゴールドで来日し、我が国のカントリー・ファンを熱狂させた、メインストリーム・カントリー界のスーパー・スター、ダークス・ベントリー”待望のカントリー・アルバム”です。何よりラジオ・エアプレイとシングルヒットが人気のバロメータとされれるメインストリーム・シーンにあって、前作が自殺行為とも言える挑戦的でアーティスティックで素晴らしくアーシーなブルーグラス・アルバム「Up on the Ridge」でしたので、このニュー・アルバムに収録の"Am I the Only One"とタイトル曲"Home"がチャートのトップに返り咲いて、一安心といったところでした。それまでことごとくシングルチャートの1位をモノにしてきたのに、クールなシングル"Up on the Ridge"はトップ30止まりでしたから。しかし「Up on the Ridge」は目に見えない豊かな成果をダークスにもたらしたようです。ブルーグラスの名手たちと競演し、音楽家として大きく成長した彼のロッキン・カントリーは、パワフルなパンチはもちろんのこと、オーガニックな風味とまろやかなコクが加わったようで、実に余裕を感じさせます。
しかしこのニュー・アルバム、発売にこぎ着けるまでには困難が伴いました。当初の予定では、2011年の春、リードシングル"Am I the Only One"と同時期に発売されるはずでした。しかし、「Up on the Ridge」をプロデュースしたJon Randallと制作した新作用の作品群にダークスはどうしても納得できませんでした。レーベルのCapitolは彼の希望を承諾。デビュー以降の長きにわたりプロデュースを担当していたBrett BeaversとLuke Wooten、そしてミュージシャン達を再び呼寄せ、レコーディングを再開したのです。結果として、"Am I the Only One"を除く他の曲は全て差し替えるという大改修を行います。その為、リードシングルに勢いがある時期にアルバムをリリースする事が出来ないという事態に。そこでアルバム発売前にセカンド・シングル"Home"をリリースして流れを保ち、リード・シングル発売からおよそ1年後にようやくアルバムをリリースするという、マーケッティング的にあまり例がないタイミングでのリリースとなったのです。「Up on the Ridge」からの事も考えると、綱渡り的なヒヤヒヤものの展開でしたが、そんな心配は徒労に終わり、シングルは共に1位を獲得、そしてアルバムも1位に。ダークスの人気の確かさが改めて証明されたのです。
ダークスはこのアルバムの為に、かつてなかった程の時間をソングライティングに費やしました。”このレコードは僕の人生の今を反映しているんだ”ダークスは言います。”それは僕の家族についてなんだ。かつての僕にはなかった何かさ。僕は今結婚して、父親でもある。僕のレコードは人生のスナップショットなんだよ。素晴らしい曲に僕の歌を乗せてヒットさせよう、という類のものではないのさ”しかし結果的に自作あるいは共作が6曲、一方他のソングライターによる作品が6曲と、多くの外部ライターの作品を採用しています。ダークスはこの理由を語っています。”僕とプロデューサーは本当に沢山の外部ライターの曲を聴いたよ””でも最終的に、このアルバムを最高の曲達のコレクションにしたいと思ったんだ。僕にはソングライター友達が沢山いるよ。これは間違いなく意図的な試みだったのさ”
オープニング"Am I the Only One"のバンジョーの響きとダウンホームなサウンドのミックスに、ダークスならではの現代ホンキー・トンク・カントリーへの期待が高まります。そして、そこから立て続けにラインアップされるミディアム~アップテンポの質の高い作品群で、彼がメインストリーム・シーンへ完全に復活した事を感じさせてくれるのです。ちょうどその中に配され、ダークスの歌声共々温かい雰囲気で心を和ませてくれる"Home"。これ見よがしな愛国心によらず、美しい自然を称えることで自国への愛を歌う新鮮なアプローチがナイスです。スローナンバーの"Breathe You In"は、彼の歌声のメロウでセクシーな面が際立つアルバム中のハイライト。また、サザン・ソウル・バラードと言いたい"When You Gonna Come Around"では、リトル・ビッグ・タウンのカレン・フェアチャイルドがデュエット。かつてメンフィス・ソウルを席巻した、ハイ・サウンド的なヘヴィなドラムをバックに、ハスキーでスモーキーなカレンと、マイルドなダークスの歌声は最高のコンビネイションを聴かせてくれます。アルバムは父から娘へのラブレター、"Thinking of You"でクローズ。一旦曲が終った後、娘Evelynの歌声によるバージョンがフェードインしてくるという演出で、温かい余韻を残してくれます。サウンドのクロスオーバー化が何かと懸念されるメインストリーム・カントリー・シーンにあって、しっかりと今のカントリーを具現化した音作りを展開してくれたと感じる好作です。
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