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新作を出す度にカントリー・チャートで軽く1位を獲ってしまう、
アメリカーナ系アーティスト、ジェイソン・イズベルとそのバン
ド400ユニットの2020年のアルバムです。2017年のグラミー賞で、
「Nashville Sound」という聞き捨てならないタイトルのアルバム
がアメリカーナ・アルバム賞を受賞しており、そのお陰か、今年
1月にビルボード東京で来日ライブも行っています。同行したフィ
ドル奏者の奥様アマンダ・シャイアズは、あのハイウィメンのメ
ンバーで発起人である事はコチラの記事で紹介しました。
ビルボード・ジャパン等に詳しい記事もあるので、プロフィール
は省略いたします。その「Nashville Sound」やこの新作を聴いて
感じたのは、もし30年前、アラン・ジャクソンの「Here In The
Real World」にハマる前に聴いたらどう思ったかな・・・という
事です。粘りあるスライド・ギターをフィーチャーした、ニュー・
ウェイブ後のアメリカン・ロック調や、アコースティック曲での
精緻な音創りなどよくできてるとは思うのですが、どうも入って
こないのです。以前取り上げた、同じくアメリカーナ系のタイラ
ー・チルダースTyler Childersは、レトロなカントリー・サウンド
に乗った煽情的なロック・ボーカルが結構気に入ってたのですが・・・
そもそもアメリカーナとは何ぞや、ですが、レコードコレクター
ズ増刊「カントリー・ミュージック」では、アウトロー・カント
リーと同じカテゴリー分けで、゛1970年代中盤にテキサス系人脈
を中心に起こったアウトロー・カントリーのムーヴメント、また
それ以前からロック/ポップ/フォーク系のアーティスト、あるい
はシンガーソングライターたちが行っていたカントリーへのアプ
ローチ等々。本章ではそれまでのカントリーの本流にくみせず、
それぞれの個性と視野のもとに描いたカントリー音楽にアプロー
チしたアルバムを幅広く紹介している゛とあります。なるほど、
ですね。今となっては、カントリー、フォーク、SSW、R&Bなど
もひっくるめたルーツ系非商業的音楽を「アメリカーナ」と呼び、
アワードも開催されるほどのジャンルになってます。
つまりは、アメリカーナという音楽スタイルが有るわけではなく、
アーティストそれぞれの信念を前面に押し出したルーツ系音楽と
いう事になりますかね。ノンコマーシャル、つまり聴き手にあまり
媚びない芸術志向。ジェイソンの音楽を聴いてると、メインスト
リーム・カントリーに有るものが、ことごとく無い感じがします。
曲想、コード進行がフレンドリーでない、フックが無いとは言い
ませんが、薄い。声が徹底的に切実で、楽しんで!寛いで♡ではな
い。勿論、それを意図して製作しているのです。これは音楽の質
の事ではなく、音楽にどんな機能を託したいかの考え方の違いと
いうことですね。アメリカーナはやはり自己表現のロックから派
生してきた音楽であり、そもそもが娯楽芸であった戦後黄金期の
カントリーにだんだんロック、ポップ的要素を後追いで加えてき
たニュー・カントリーとは出どころがちがうんでしょう。あまり
ジャンル分けにこだわりたくないですが、昔のおおざっぱな区分
けだと、ジェイソンの音楽は「ロック」なんだと思います。
ただ、これだけは事実として押さえておきたいですが、やはり非
商業的なので、アメリカ社会における影響力は限定的だと頭の
片隅には置いとくのが冷静です。ロバート・T・ロルフ氏が「カン
トリー音楽のアメリカ」での論考のターゲットを設定する際の考
え方について、゛取り上げたのは、商業ルートに乗り広く歌われ
た主流のカントリー音楽だけである。(「オー・ブラザー」のお
陰で)ブルーグラス音楽の人気は当然ながら高まったが、聴衆の
数が少なく、本書ではほとんど紙面を割いていない。「アメリカ
ーナ」につていも同様である゛と説明されています。
「Reunion」はカントリーとアメリカ―ナのアルバム・チャートで
1位になる前の週もチラリと顔を出していて、その時はアメリカー
ナで2位、カントリーでは17位でした。集計の方法の詳細はわかり
ませんが、マーケットの規模の違いが現われたような気がしてます。
また、例えばメインストリームの代表格フロリダ・ジョージア・
ラインはデビュー・アルバム以降ほとんどRIAAのプラチナ・セー
ルス(100万枚以上)を記録してきましたが、ジェイソンは残念な
がらゴールド(50万枚以上)に届いていないようです。
チョッと上げ足取りみたいになって申し訳なかったですが、あまり
に持ちあげられるのも複雑なので(返す刀でメインストリームを叩
いてくる・・・)、なるべく冷静に実際をまとめてみました。繰り
返しますが、売れたからいい音楽だ、という事はありません。ただ
売れてる方が影響力やその国の文化をよく表現していて、そこが
面白いと思うのです。そして売れた人の方が多くの人を笑顔にして
いるのも事実なはずです。
要するに、メインストリーム系アーティストをどなたかもっと日本
に呼んで欲しいのです。アメリカーナの人が来日しているのに、な
のです。
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