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今年のアカデミー作品賞受賞作品。原題は"12 Years a Slave"。悪徳奴隷商人に仕組まれ、プランテーションに奴隷として売られ、12年間を奴隷として過ごした主人公ソロモン・ノーサップの凄惨な人生を描いた実話に基づいたドラマ。アカデミー賞では9部門にノミネートされ、作品賞に加え助演女優賞・脚色賞も受賞している。
重く、やり切れない思いに捕われる映画。奴隷の労働環境、白人達からの仕打ちは、見ていて目を背けたくなる。原題を見て、どこかでこの生活は終わるのだろうという期待感がなければとても見られたものではない。唐突に訪れる最後のエピソードは涙のハッピーエンドとなるが、素直に喜べない。失った12年間は大きすぎるし、主人公が救われても、残された奴隷達の人生は変わるものではないからだ。
俳優陣の地に足が着いた演技、抑制の効いた中で悲惨さを表す演出や映像、ブルースの起源を想起させる労働歌など、映画としても高い完成度を示している。重厚なテーマをいたずらに手を加えることなく、観る者に考えさせる映画になっている。唯一の違和感は、プロデューサー(製作)としても参加しているブラッド・ピッドの役柄があまりにも良すぎること。そして、自由黒人だった主人公は別としても、奴隷の皆さんの英語が随分きちっとしたスタンダードな英語だったことぐらい(当時の奴隷がどんな英語を話していたは知らずに言っているのだが・・・)。
アメリカ合衆国の負の歴史に正面から向き合っていることが素晴らしいと思う(監督のスティーブ・マックイーンはイギリス人で、映画としては英米合作)。この作品が、アカデミー作品賞というのは如何にもアメリカらしい「アメリカの良心」の示し方と、天の邪鬼な私は捉えてしまうところもあるのだが、現代から負の過去を照射し、その意味を問う姿勢、そしてその作品を正当に評価するところにアメリカの懐の深さを感じる。負の過去を正当化したり、無かったものとすることに躍起になっているどっかの国とは随分違うものだ。
この作品が興行的に日本でヒットするかどうかは分からない。10代前半の頃、黒人奴隷を描いた歴史的ヒットドラマ「ルーツ」に大きなショックを受けたのは強く覚えているので、今の日本人、特に若い人たちがこの作品を見てどのような感想を持つのか興味がある。ちょっと親父のお説教のようで恐縮だが、この映画で描かれることは、たまたまの不幸な時代に起こったことではなく、奴隷制ほどではないにしても相似形の人間の差別、偏見、そして社会的不公平は形を変えて残っていることにも思いを馳せて欲しい。
監督 スティーヴ・マックィーン[監督]
製作総指揮 テッサ・ロス 、ジョン・リドリー
音楽 ハンス・ジマー
脚本 ジョン・リドリー
キウェテル・イジョフォー(ソロモン・ノーサップ/プラット)
マイケル・ファスベンダー(エドウィン・エップス)
ベネディクト・カンバーバッチ(フォード)
ポール・ダノ(ジョン・ティビッツ)
ポール・ジアマッティ(フリーマン)
ルピタ・ニョンゴ(パッツィー)
サラ・ポールソン(エップス夫人)
ブラッド・ピット(バス)
アルフレ・ウッダード(ショー夫人)