その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

中野 剛志 『TPP亡国論』  (集英社新書)

2012-04-08 19:58:02 | 
 主張、説明ともに平易・明快かつ説得力ある、素晴らしいTPP反対論になっている。これほど分かりやすく現代の日本を取り巻く政治経済を解説した本に、私は出会ったことがない。筆者は通産省から京都大学へ助教授として出向しているらしいが、筆者の頭の良さと日本を憂う気概を感じる1冊になっている。

 TPPを素材に、各国の経済戦略、日本の経済状況、外交戦略、そしてその日本人の心性にまで踏み込む射程の広い論考になっている。あくまでもTPPが素材だが、TPPだけに留まらず、今の国際政治経済状況を読み解くフレームワークを提供してくれる。

 筆者は、日本経済の最大の問題がデフレであり、インフレ誘導のために積極的な財政出動を是としているが、これに対する私なりの是非を持つためには、私の勉強がもっと必要と思うが、日本の参加を強く呼びかけるアメリカのTPP戦略、それに対する日本の無戦略性、そしてその背後に潜む「自主防衛」論への本能的嫌避の心性と言う筆者の論理展開は、きわめて明確である。

 一企業人である私は、自分たちの業績不振をあたかも景気や経済政策にあるかのごとく議論するマクロ経済論はどうも好きになれないのが、国際経済や国際政治を考える上では、詳しくないからと言って、避けては通れない分野である。
 
 本書を読んで、逆にTPP賛成論の主張についてもじっくり読んでみたいと思う。また、これほど分かりやすく現代の事象を説明する筆者の著作も、引き続き関心を持っていきたい。

※ちょっとネットを引くと、「TPP亡国論」のウソといったような記事がたくさん出てきた。海外に居ると、なかなか日本の議論の肌感覚が分からないが、随分、盛り上がっているようだ。
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ロンドンマラソン コース下見ラン

2012-04-06 17:52:35 | ロンドン日記 (日常)
 今日からイースターの連休。特に、遠出の予定もないので、ロンドン近辺をウロウロする予定。今日は、2週間後に控えたロンドンマラソンのコース下見に出かけました。42キロを一気に下見するのは無理なので、今日はスタートからタワーブリッジまでの約20キロです。(ロンドンマラソンのコースマップはこちら→

 スタートはグリニッヂにあるブラックヒースから。グリニッヂは3年前に天文台に行ったぐらいなのですが、天文台のあるグリニッヂ公園の反対側にもこんな広々とした公園があるとは全く知りませんでした。今朝は空気こそ冷たいものの、雲ひとつない快晴(昼下がりには曇り模様になりました)で、その爽快さは格別です。

(広場ではサーカスが開催中でした)


(スタート地点となる通り)


(途中、軍隊の乗馬による練兵訓練をやっていました)


(廃屋となっている潰れたパブ)


 丁度、10キロぐらいで、グリニッヂの船着き場の横を通ります。テムズ川の対岸奥に見えるのがドック・ランズの高層ビル。タワーブリッジまで行って、更にあそこまで行クのかと思うと、ちょっと気が萎えます。


 綺麗なピンク色のサクラも見頃です。
 

 走っていて、如何にこの辺りの土地に疎いかを実感。もうロンドンはだいたい知っているようなつもりになっていたけど、テムズ川の南側は全く知らないことに改めて気付かされました。

 10マイル地点付近のROTHERHITHEというエリア。非常に洗練された住宅街でした。


 12マイルを超えたところで、いよいよタワーブリッジの通りに出ます。青空に映えるタワーブリッヂはなんとも壮観。


 コース自体はとっても走りやすいものだったけど、トイレが心配になりました。今日は水分補給をしすぎたのか、寒さのためか、途中で何回かトイレに行きたくなり、所構わず用足し。今日は、人も居ないので、人目もそれほど気にしなくていいけど、当日はこうはいかないでしょう。トイレは十分用意されてるいるのだろうか?ちょっと、リサーチしておこう。

 本番もこんな天気になってほしいです。

 2012年4月6日
コメント (6)
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谷口 智彦 『通貨燃ゆ』 (日経ビジネス人文庫)

2012-04-05 22:23:35 | 
※明日からいよいよイースター連休。取り立てて予定は入れていないので、ゆっくりするつもり。職場も、今日は休暇を控え、のんびりムードでした。最近は、外に出る活動は控え気味で、代わりに部屋やCafeで本を読む機会が多いです。これは、先週読んだ1冊です。

 2005年に単行本として発刊されたものに、前書き等幾つかの補筆を加えて、日経ビジネス文庫として再刊されたもの。通貨を経済の見地からではなく、歴史や政治の視点でも観る必要があることを説き、ユーロ・ドル・円の政治性について、ブレトンウッズ体制の構築、ユーロの歴史、中国の人民元、アジア圏通貨構想の背景等を追いながら、解説する。

 視点は面白いと思うし、使われている日本語も平易なのだか、何故か文章はとても読みにくく難儀した。きっと元記者だからだろうか、数行の短い段落、挿入句・副詞が目立つ文章で、ジャーナリスティックでダイナミックな文章とも言えるのかもしれないが、論理展開がとても追いにくい。

 フィクッションではないが、読み物として読むつもりで読んだ方が良い。
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ハロルド・ジェニーン 『プロフェッショナルマネジャー』

2012-04-02 22:16:21 | 
 アメリカの巨大コングロマリットITTを率いて58四半期連続増益を達成したハロルド・ジェニーンによる経営書。原著は1984年のようなので(何故か本書には原書の著作年が記されていなかったのでWikiを参照)、かなり古い本なのだが、ユニクロの柳井会長が「これが私の最高の教科書だ」と帯で言っているように、今をもっても十分に新鮮に読める。

 実績のある経営者による経営本だけにその説得力は十分だ。「経営(する)とは何かをなし遂げること、マネジャーである個人なりマネジャーのチームなりが、努力するに値するとしてやり始めたことをやり遂げる」こという。そして、一貫した主張は、達成するまでやり続ける、実績こそ全て、逆算で(ゴールから)考える、行動するである。筆者の具体的経験とともに語られる経営論・リーダシップ論は、迫力十分だ。

 300ページ余りあるが、すいすい頭に入る。それでも時間が無いひとには、巻末に柳井氏による解説が載せられているので、それだけ読んでもエッセンスは掴み取ることができるだろう。
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「ステキな金縛り」 (三谷幸喜 監督)

2012-04-01 21:38:15 | 映画
 先週は日本に戻っていました。東京はまだ肌寒い日が続いていましたが、ロンドンに戻ってみるともう初夏のような陽の輝き。夏時間になっているし、鳥がそこらじゅうで囀っていて、この1週間で街の雰囲気が大きく変わっているのに驚かされました。

 飛行機の中で、三谷幸喜さん監督の最新作「ステキな金縛り」を観ました。三谷さんの作品は、ちょっと一捻りした笑いや皮肉っぽい笑いがとても私の好みで、数少ない、この人の作品なら映画・TVを問わず観る劇作家・演出家・監督です。

 話は、冴えない若手女性弁護士(深津絵里)が、手掛けた事件の重要な証人となる落ち武者の幽霊(西田敏行)と織りなす法廷コメディです。三谷作品らしい笑いがいたるところに詰め込まれていて、140分と長目の上映時間を全く感じさせません。

 ただ、私としては、これまでの三谷監督作品と比較すると、もう一つ乗りきれませんでした。一つは、幽霊が裁判の証人に立つという、あまりにも現実離れした設定に、どうしても馴染め無かった。前作の『ザ・マジックアワー』でも、ありえんだろうという設定はあるのですが、あれは状況自体が映画のセットとして作られているので、現実と虚構がごっちゃになった面白さがありました。それ以外の作品は、どこにでもありそうな現実に、一歩下がって、皮肉って笑いを取るというところが、私は好きなのですが、今回の設定は無理があるような気がします。

 また、主役の深津絵里は、彼女の良さが出し切れていないんじゃないかとも思いました。おっちょこちょいで、出来の悪い若手女性弁護士には、ベテランの域に十分達している深津さんよりも、仲間 由紀恵とかのが合う(幽霊が出ていたのでただ単に「TRICK」の印象が重なったのかもしれません)と思います。「春琴」で深津さんの迫真の舞台を目にしたイメージが残っていたのかもしれませんが、熱演ではあるものの、この映画ではやや上滑り感が残りました。これは深津さんの演技と言うより、キャスティングの問題だと思います。

 一方で、深津さんと対決する検事役の中井喜一の存在感は素晴らしかった。ぴしっと決めたスーツ姿の格好いいこと。彼が出ると映像がぐっと締まります。あんなふうにスーツを着こなせるようになりたい。あと、深津さんのボス役の阿部寛も良い味だった。落ち武者幽霊の西田敏行は、何をやっても西田敏行なのですが、流石です。

 時間内十分に楽しませてもらったのですが、今までと比べると、ちょっと物足りなさが残った作品でした。
コメント (2)
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