パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

偽の情報が伝わりやすいのは何故だろう

2020年10月21日 08時17分01秒 | あれこれ考えること

 以前、図書館から借りて気張って向かったものの、ほんの20ページほど読んで挫折したのは
ウンベルト・エーコの「プラハの墓」
昔、この作家の「薔薇の名前」を読んだ記憶があるが、今思うとよく読めたなと我ながら感心する

「プラハの墓」は「シオン賢者の議定書」なる史上最悪の偽書を作成した男の物語らしい
(結局読んでいないのでわからないが解説書によると)

ヨーロッパ人には知られているこの「シオン賢者の議定書」は
ユダヤ人が世界征服を企んでいると言ったような内容で
ヒトラーのユダヤ人虐殺のきっかけにもなったようだ
ユダヤ人に関することではもうひとつ「ドレフュス事件」が有名で、ユダヤ人のドレフュスが
スパイの嫌疑がかけられた冤罪事件のことで、この2つの事件はデマとか嘘の情報によって
人々の感情がかき回された事件だ
(プルーストの「失われた時をも求めて」はドレフェス事件のことが扱われている部分がある)

何故、人は偽の情報とか不確かな情報に振り回されてしまうのだろうか
精緻な検証による正しい情報よりも、感情的でセンセーショナルな勢いだけの
そして個人攻撃が含まれる情報のほうが、広がるスピードも力も大きいように思えてしまう

これは遠いヨーロッパの話ではなく、身近なこの国でも最近実感することだ
学術会議員は6年勤めると学士院メンバーになり、終身年金をもらえるとのフェイクニュースは
あっという間に拡散した
また学術会議は中国の千人計画に加担しているとも政権中枢の人物からネットで発信され
その後消極的な訂正を行ったが、これも一気に拡散したためにその情報が誤りだったことを
知らない人も少なくない

人には「作話機能」というものがあるらしい
文字通りお話をつくることで、奇想天外なSFに限らず古典とされる文学作品も
突き詰めていけば作り物で、それは現実ではない
(トーマス・マンは小説家をこうした意味で詐欺師と呼んだとか)
しかし、時としてこの作り物の世界は正確な世界の把握よりもずっと大きな力を持つ
(事実としての坂本竜馬よりは、司馬遼太郎の描いた坂本龍馬のほうが人物像は信じられているし
 赤穂事件も仮名手本忠臣蔵のほうが、事実よりも信じられているみたいだし
 また従軍慰安婦の話もあの像のきっかけてなった小説が、事実よりも力を持ってしまったとされている
 【帝国の慰安婦より】)

正しい情報よりも旬の情報のほうが(その時の空気を反映したような)力を持つ
正しい判断を行うにはまずは正しい情報の収集が必要だが、どうも人は正しい情報を
手にすることができないのではないか?

ネットの世界が広まって、ますます加速しているのは自分好みの情報は徹底的に集められることで
それゆえに、最初に自分がこうと信じた情報(正しかろうが間違っていようが)が
判断のスタート時点になってしまう

どうしても自分好みの情報しか手に入らない、、というのは
人の傾向としてはとてもありそうなことなので、その危うい傾向にブレーキをかけるのは
あえて反対側の意見も聞く耳を持つとか情報を集める、、というのが現実的と思われる
その意味では、学術会議において、お金を払ったとしても反対意見を言いうる人たちの存在は
むしろ大切なことだと思うが、、、

それにしても、わかりやすさとか感情的であるがゆえに広がりやすい(偽の)情報は
どうすればブレーキをかけられるのだろう


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