昨日再放送されたNHKの「ピアニスト・グレン・グールドの世界」は
普段は夜にテレビを見ることはないが、時間も短かったので興味深く見た
このカナダのピアニスト、グレン・グールドはとても変わった人で
Youtubeなどの動画で見ることのできる演奏の姿は低い椅子に座って
猫背になりながら、うなりながら(キース・ジャレットみたい)
指揮するように、あるいは踊るように、そして何かに取り憑かれているように
自分自身の世界に集中しているように見える
彼の弾く音は一つ一つがはっきりと聞こえる
それは彼の好きな対位法がよく聞き取れるように演奏しているからで
彼は対位法の大家バッハが大好きでデビューレコードはバッハの
ゴールドベルク変奏曲だった
この演奏はピアノでこの曲を演奏する意味を問い直すような問題提起をして
一時期、とても話題になった
そんな噂を耳にした頃(高校時代)自分は平均律クラヴィーア曲集(1)を手に入れた
一番驚いたのは、演奏に変な音が混じっていることで
最初はレコードからでていると気づかずに、近くで何かの音がしているのだと思っていた
ところが唸り声が聞こえるのは確かにレコードからで
解説書を読むと彼は演奏中に唸り声を出すと紹介されていた
明らかに普通の演奏とは違うスタイルに短いあいだ彼に夢中になり
レコードだけでなく彼に関する本も手にいれた
彼は夏目漱石の「草枕」が愛読書だったらしい
どこか抽象的な雰囲気のある「草枕」がこの人に好まれるのは
なんとなく納得できる気がした
だが彼に共感を覚える時間は短かった
それは確かに独自の世界観と音楽世界を聞き取ることができたのだが
聴いていると、孤独でとても辛く思えてしまったからだ
モーツァルトのピアノソナタもテンポも独特で
スタッカートの多く声部のはっきりした演奏は、どこか楽しくなかった
ベートーヴェンの後期のピアノソナタも、演奏表現の多様性は認めるとしても
ベートーヴェンの達した世界を表しているようには思えなかった
つまりは、彼の閉じた世界に浸るのは辛いという気持ちが大きくなってしまった
実生活でもグレン・グールドは聴衆のいる演奏会は行わず、表現の機会は
レコード録音だけの閉じた世界に限られた
そうして彼のCDとかレコードから離れていたが、最近ひょんなことから
彼の演奏を聴き直してみる気になった
すると、昔感じた孤独はさほど感じずに
ただただ多様な表現方法があるものだ!なかなか良いではないか!
とだけが心に残った
つまりは自分の年齢を重ねたことによる聴き取り方の変化を自分が感じたということだ
このような自身の年齢の変化による聴き取り方の違いは
演奏ではなくて聴く曲の選択により現れている
今はチャイコフスキーの音楽はほとんど聴かない
マーラーも一部の曲以外聴く気がしない
歳とって許容範囲が狭くなってきているのかもしれない
若いひとのJpopも受け付けないというよりは全く関心がない
そういえば音楽に限らず、読書のジャンルも偏ってきているようだ
それは個性なのか、偏屈になっているのか、わからないが
歳を重ねるというのは、こういうことだと実感する
ところで、グレン・グールドの演奏で思いのほか好きなのは
ヴァーグナーのマイスタジンガーの前奏曲で、声部がよく聴き取れるのが心地よい
動画はこちら
Die Meistersinger von Nürnberg, Act I: Prelude (Piano Transcription) (Remastered)
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