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2021-09-01 | 京極夏彦

 

京極夏彦
『魍魎の匣』★★★★


レンガ本 夏休み読書(後半戦)
 
京極夏彦はこれが二冊目
前回の『姑獲鳥の夏』から二年・・
 
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京極夏彦『姑獲鳥の夏』★★★夏読書が秋読書に・・https://blog.goo.ne.jp/bookook/e/6f3c17a641859...

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大極宮HP
http://www.osawa-office.co.jp/write/kyogoku_list.html




 

 

 

 

 

 



遠い昔にシアタールームで深夜上映していたのをみた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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榎木津には善く解らないものが見える。
何故見えるのかは知らない。
それが何なのかも興味がない。
見えるものを見えるままに話したら、気味悪がられることが多い。
ある人に云わせるとそれは霊だと云う。
またある人に云わせると人の心だと云う。
それは他人の記憶だ、と云う者もいる。
榎木津にしてみればどれもそう差がない。
人の顔だったり、風景情景だったり、形が善く判らなかったり、写真の二重写しみたいに淡朦朧と見える場合も、恰も榎木津自身が体験したように明瞭に見える場合もある。
船酔いしたように気分が悪くなる。
 


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『絵図百鬼夜行』
 


『和漢三才図絵』
 
 
 
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京極堂は『百鬼夜行』を座卓の上に置いて、私達に示した。
『魍魎』が出ていた。
藪の中から毛むくじゃらの小鬼のようなものが半身を乗りだしている。
黒黒とした蓬髪の間から、角とも耳とも解らぬ突起物が二本、突き出している。
愛嬌のある丸い眼に悪意はない。牙を剥き出しにした口元は笑っているようにも見える。
怖くはない。
ただ、おぞましい。
何故なら。
そのけだものは、掘り起こしたらしい棺から亡者を引き摺り出して、
啖らっているのだ。
魍魎は、無表情に死骸を啖らっているのだ。
 


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「何だ。何なんだいったい。今回の事件はまるで魍魎だ。気持ちの悪い符号と齟齬の繰り返しだ。これは偶然、いや蓋然か。必然ではあり得ない。しかしこの調子だと奴が凡てに関係しているなんてことにもなり兼ねない。いや待て、そう考えると――」
どうしたと云うのだろう。私は狼狽する京極堂など見たことがない。
 
 
 
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彼女はそれなりに極限状態なのである。ただ、私に解らないだけだ。
この時、私は痛感した。人と人とは本当の意味でのコミュニケーションなど取り得ないのだ。
言葉など通じない。況してや気持ちなど通ずる訳がない。
私の現実と、彼女の現実には大きな隔たりがあるのだ。現実は人の数だけある。百人の人間には百種の、千人の人間には千種類の現実があり、それはそれぞれ全部違うのだ。それも少しずつ違うのではない。全く違うのだ。それを無理矢理同じものであると思い込むことを前提としなければ、コミュニケーションなぞ成り立たぬ。無理矢理にでも思い込めれば不都合はないが、少しでも疑いを持ってしまったら、そんなものはすぐに破綻するのだ。
自分以外を否定すれば孤立する。そして、自分を否定してしまったら―—それは、誰より私が善く知っている。だから、
 


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