Boruneo’s Gallery

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4月の雪 14

2006年12月28日 11時05分41秒 | 創作話


14 ~朝凪~

朝の強い光が曇り硝子を通じて柔らかな光となって、二人を包み込んでいた。
インスの腕の中で、ソヨンがぐっすりと安心しきったように眠っている。
二人が迎えた満ち足りた朝。
波のささやきは引き潮のように静かで、優しい音色を二人に届けていた。
まるで、ひと時の天使の休息のように穏やかな、優しい朝だった。
インスはソヨンの寝顔を見ながら満たされ、
そして起こさないように彼女の手をそっと握った。

・・・もう、元に戻れない・・・

わかっていて、この手を僕は握った。
昨夜のこと、あなたが後悔してないといいけど・・・。
今更、そんなこというのはずるいな。
この胸に愛しさと、背中に後ろめたさを抱えてあなたを抱いた僕を許してくれるだろうか?
あなたを得たことは、同時に苦しみもあなたに背負わせてしまうんだね。
僕にはスジンを責める資格もない。ましてやあなたの夫にも・・。
見えない未来に向かってオールのない船に乗ってしまった僕たちは、
どこへ行くんだろう・・・。


ぼんやりとどことなく空に焦点を合わせていたら、あなたがごそごそ動き始めて、
起きたのがわかった。

「おはよう、ソヨンssi」
「・・インスssi・・おはよう」

二人で初めて迎えた朝の印に、あなたの額にキスをひとつ残す。
・・・このキスがあなたを守れるように・・・

あなたの肩が少し冷たい。
二人を隠すのにはあまり余裕のない一枚の毛布だったから、
あなたを抱き寄せては僕の体ごとすっぽりと包みこんだ。

「こうすると暖かい?」
「・・うん・・暖かい・・」


引き寄せられたインスssiの肌から香る匂いに、改めて昨夜のことが夢じゃなかったことを思い知らされた。
まるで初めて男性に抱かれた時みたいに緊張をしたけど・・可笑しくなかったかしら・・・。
朝の光に照らされたあなたの顔はこんなにも優しいのね・・・。
ぴったりとくっついた私の目の前に・・ソヨン・・と何度も呼んだ唇があるわ。
触れている胸からは夫とは違う男性の体を感じている。
そう・・この人は夫じゃない・・。

“暖かい・・”と笑顔で答えながらこの状況に戸惑いを感じていることを、
君の表情からとることが出来た。
だが、あえて僕は“どうしたの?”と聞かない。
その答えは、今の僕たちに必要がないからだ。
二人でいれる幸せだけを感じていよう。


「ソヨンssi、何か特別おいしい朝食でも食べに行こうか。腹ペコなんだ」

あなたの髪を指で梳かしながら話していると、本当に僕のお腹が鳴ってしまった。

「・・本当ね。大変だわ!」

屈託なく笑う君が毛布からはみ出そうになる。

「寒いよ!もっとくっついて!」

君を抱き寄せてはまたもお腹が鳴る僕に、僕たちは大笑いをした。
幸せだった。
満ち足りていた。
-- このまま時が止まればいい --

これが僕たちの日常だったら・・・・
・・それが僕の目指す未来?

「・・ソヨンssi・・僕は・・」
~♪♪~

布団の端にあるくしゃくしゃの服の中から君の携帯が鳴った。
「はい、ユン・ソヨンです」

それは病院からで、キョンホssiが意識を取り戻したという連絡だった。
僕たちの体温が徐々に冷めていく。
僕は言いかけた言葉を呑み込み、替わりに「病院へ、行こう」と口にしなくてはいけなかった。

二人の間に沈黙が生まれ、一気に足元がぐらつき始めていく。
僕たちが過ごした事の重大さと止まらない思いに行き来しながら、病院という現実に向き合わなくてはいけなかった。

彼女と結ばれた朝は、確かに昨日よりも輝いている。
だが、車へ向かう足取りは昨日よりも重かった。
まるで、足枷に繋がれながら手を握る恋人たちのように・・・。
あなたは尚更かも知れない。

あなたの手をしっかりと握り締めて、僕ははっきりと言った。

「ソヨンssi、僕は後悔してないよ」

それだけはちゃんとあなたに伝えたい
今のあなたにキョンホssiを愛しているのか、僕を愛しているのかと聞くのは酷な質問だろう。
きっと、答えられない。
だから、今は彼に君を帰すしかない。
オールのない船がどこに向かうのか・・僕にもわからないんだ。