16 ~夕暮れ~
その日の夕方、インスは目覚めたスジンに必要な荷物を取りに家に帰ってきた。
約1ヶ月、妻のいない家だったが、子供のいない二人の家はさほど汚れていなかった。
その間の食事は殆ど外食だったし、簡単な掃除くらいはインスでも出来ていた。
スジンが元気な頃は休みの日など二人で掃除もしたし、買い物に一緒に出かけては、材料を選んで料理を作ることもあった。
どこにでもいる仲のいい夫婦。
そんな当たり前の生活がほんの少しの時間で一変することなど、インスに予測出来たはずもない。
インスは上着を脱ぐとばさっとソファーの背に掛け、どさっと腰を落として疲れた体を預けた。
・・・はぁ・・・・少し、疲れたな・・・
・・・荷物は慌てなくても明日もって行けばいい。
もたれたソファーの部屋の窓から眺めた空は、星がひとつ合図のように輝き始め、夜の準備が始まっていった。
頭の中で昨夜のことから今までのことまで目まぐるしく回り始め、酔いそうになったインスは眼鏡を外し、目頭を押さえた。
瞼の裏に描かれたのは、インスの心を捉えたソヨンの涙、痛くなるほどの切ない顔、離したくない彼女の温もり。
そして、カーテン越しに募らせた切実なまでの愛慕。
インスは彼女が恋しかった。
病院ではあれからお互いの夫と妻を診ながらドクターや看護士と話をして、これからのことを相談することに時間を費やしていった。
カーテンは最後まで開けられることはなかったが、インスとソヨンは深く意識しあっていることをお互い感じていた。
「ソヨンssi、もう帰ったかな・・」
上着からごそごそと携帯を出して、少し悩んだ後、インスはソヨンのアドレスを出した。
---- キョンホssiはどうですか? とにかく意識が戻ってよかった。・・ソヨンssi は大丈夫ですか? あなたは疲れてない? 気がかりです。これを見たら返事が欲しい。ずっと待っているから。 インス -------
送信ボタンを押すと、インスはさらにソファーに横たわって軽く目を閉じた。
けだるさの混じった疲れが引力に逆らえず、めり込んでいく様な感覚に襲われながら、インスは深く眠りに落ちていった。
ソヨンも、キョンホのための荷物の用意をするために夕方には帰宅していた。
鞄に下着やら、コップやら、必要と思われるものを詰め込んでいたが、ふっと途中で手が止まってしまった。
電気もつけず、薄暗い夕暮れの明かりが差し込むだけの部屋でただ、ソヨンはじっとうずくまっていた。
・・・昨夜、私たちがしたこと・・・
・・・間違ってなかったの?
・・・あの人は「後悔してない」って、はっきり言ったわ・・・
・・・わたしは?・・・
そこまで考えてソヨンは昨夜のインスを思い出していた。
インスの大きな手に掴まれた時のこと。
彼の広い胸の中で泣いたこと。
初めて優しく唇を重ねたこと。
インスと結ばれたこと・・・。
彼に抱かれて幸せを感じたのよ・・私・・。
あの暖かい胸に包まれて、優しく・・強く求められて・・・嬉しかった・・。
だから、余計に辛かった・・・。
・・・どうしたら・・・どうなるの?・・・ねえ、インスssi・・・これから私たち、どうしたら・・・・。
夕暮れ時の寂しさがさらにソヨンの不安を追い立てていた。
夫の匂いがするシャツ。
キョンホssiの好きな本。
いつも使っていた彼のお気に入りの鞄。
見渡せば、いつもここには私たちの生活があるわ。
今も、こんなにキョンホssiに囲まれて・・・。
なのに・・・・・なのに・・・・・インスssi・・・・あなたを愛している!・・・。
声を上げて泣きたくなったソヨンは、側に置いてあったキョンホのお気に入りのCDを掛けてボリュームをあげた。
ソヨンの声は音楽に吸い込まれながら、かき消されていく。
インスのメール着信音さえも、キョンホのお気に入りのCDは呑み込んでいった。
その日の夕方、インスは目覚めたスジンに必要な荷物を取りに家に帰ってきた。
約1ヶ月、妻のいない家だったが、子供のいない二人の家はさほど汚れていなかった。
その間の食事は殆ど外食だったし、簡単な掃除くらいはインスでも出来ていた。
スジンが元気な頃は休みの日など二人で掃除もしたし、買い物に一緒に出かけては、材料を選んで料理を作ることもあった。
どこにでもいる仲のいい夫婦。
そんな当たり前の生活がほんの少しの時間で一変することなど、インスに予測出来たはずもない。
インスは上着を脱ぐとばさっとソファーの背に掛け、どさっと腰を落として疲れた体を預けた。
・・・はぁ・・・・少し、疲れたな・・・
・・・荷物は慌てなくても明日もって行けばいい。
もたれたソファーの部屋の窓から眺めた空は、星がひとつ合図のように輝き始め、夜の準備が始まっていった。
頭の中で昨夜のことから今までのことまで目まぐるしく回り始め、酔いそうになったインスは眼鏡を外し、目頭を押さえた。
瞼の裏に描かれたのは、インスの心を捉えたソヨンの涙、痛くなるほどの切ない顔、離したくない彼女の温もり。
そして、カーテン越しに募らせた切実なまでの愛慕。
インスは彼女が恋しかった。
病院ではあれからお互いの夫と妻を診ながらドクターや看護士と話をして、これからのことを相談することに時間を費やしていった。
カーテンは最後まで開けられることはなかったが、インスとソヨンは深く意識しあっていることをお互い感じていた。
「ソヨンssi、もう帰ったかな・・」
上着からごそごそと携帯を出して、少し悩んだ後、インスはソヨンのアドレスを出した。
---- キョンホssiはどうですか? とにかく意識が戻ってよかった。・・ソヨンssi は大丈夫ですか? あなたは疲れてない? 気がかりです。これを見たら返事が欲しい。ずっと待っているから。 インス -------
送信ボタンを押すと、インスはさらにソファーに横たわって軽く目を閉じた。
けだるさの混じった疲れが引力に逆らえず、めり込んでいく様な感覚に襲われながら、インスは深く眠りに落ちていった。
ソヨンも、キョンホのための荷物の用意をするために夕方には帰宅していた。
鞄に下着やら、コップやら、必要と思われるものを詰め込んでいたが、ふっと途中で手が止まってしまった。
電気もつけず、薄暗い夕暮れの明かりが差し込むだけの部屋でただ、ソヨンはじっとうずくまっていた。
・・・昨夜、私たちがしたこと・・・
・・・間違ってなかったの?
・・・あの人は「後悔してない」って、はっきり言ったわ・・・
・・・わたしは?・・・
そこまで考えてソヨンは昨夜のインスを思い出していた。
インスの大きな手に掴まれた時のこと。
彼の広い胸の中で泣いたこと。
初めて優しく唇を重ねたこと。
インスと結ばれたこと・・・。
彼に抱かれて幸せを感じたのよ・・私・・。
あの暖かい胸に包まれて、優しく・・強く求められて・・・嬉しかった・・。
だから、余計に辛かった・・・。
・・・どうしたら・・・どうなるの?・・・ねえ、インスssi・・・これから私たち、どうしたら・・・・。
夕暮れ時の寂しさがさらにソヨンの不安を追い立てていた。
夫の匂いがするシャツ。
キョンホssiの好きな本。
いつも使っていた彼のお気に入りの鞄。
見渡せば、いつもここには私たちの生活があるわ。
今も、こんなにキョンホssiに囲まれて・・・。
なのに・・・・・なのに・・・・・インスssi・・・・あなたを愛している!・・・。
声を上げて泣きたくなったソヨンは、側に置いてあったキョンホのお気に入りのCDを掛けてボリュームをあげた。
ソヨンの声は音楽に吸い込まれながら、かき消されていく。
インスのメール着信音さえも、キョンホのお気に入りのCDは呑み込んでいった。