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44 ~二度目の恋・告白~
ゆっくりと崩れ落ちたインスの体にソヨンはそっと手を回し抱きしめた。
インスの荒い呼吸がソヨンの小さな肩に降りかかり、厚い胸が激しく波打っていた。
逞しいその腕は喜びに振るえが残るその細い体をぎゅっと抱きしめた。
そして、二人は抱き締め合ったまま、ゆっくり体を横たえていった。
体を密着させたまま、見つめあう二人。
乱れた呼吸が互いの髪を、睫毛を揺らし、紅潮して汗ばんだ肌からは芳醇な香りを放っていた。
それは二人を幸せな気分に酔わせていくのに十分だった。
今しがたひとつになったばかりの体。
一緒にその時を迎えた二人にしかわからない方法で言葉の無い会話を交わしながら。
インスはソヨンの汗ばんで濡れた髪をそっとすくってはその瞳に映っているものをみつめた。
「僕が映っている」
「え?」
インスの唇がソヨンの瞼にそっと触れる。
「君の瞳に僕が映っている」
「インスssi、あなたの瞳にも私だけが映っているわ」
「ようやく僕たちは本当に大事なものを手にすることが出来たんだよ」
私は囁くような低いその声を聞きながら、耳をあなたの胸に押し付けた。
・・・どきん・・・どきん・・・どきん・・・
私を愛したばかりの情熱の鼓動が聞こえる。
「聞こえるわ」
「ソヨン・・?」
「お願い このままでいて・・・」
「冷えるよ」
私の肩が冷えないようにシーツを引き上げてそっと掛けた。
あなたの鼓動が私を深い眠りに誘っていくわ・・・。
「疲れたのかな」
遠くでインスssiの声が聞こえる。
きっと・・私の顔を覗きこんでいるでしょうね。でも安心しきった私は目を開けることが・・・出来ないの。
すべてを脱ぎ捨てた子供のように・・・私はあなたの腕の中で・・・眠りに落ちていけるの・・・。
抜け殻でない、ソヨン、君がいる。
確かな温もりがここにあるね。
欲しかったものを得た喜びは言葉にならないよ。
でも、いつもこの愛が、僕たちの愛が正しいとは一度も思ったことがないんだ。
迷いながらどんなに悩んで、どんなに答えを見出そうとしても見つからない。
身についてしまった常識はそんなに容易いものじゃないし、僕たちを隔ててしまうのに十分だった。
だが、だからといって諦めることも出来なかった。
どうしたらいいのか・・・わからずに、それでも君を探すことだけは止められなかった。
それだけが僕の真実だといわんばかりに。
キョンホssiが亡くなった時、君は二度と僕の元に戻らないのかという気がした。
失ったものはさっさと忘れ、次の愛に簡単に飛び移れるほど君は器用じゃない。
きっと弱さも強さも背負っては足かせを外さずに生きていくのかもしれない。
だから僕は恐かった。君を失うのが恐かった。
あのバス停で僕を濡らした雪のように儚く消えてしまうのが恐かった。
僕は強くならなくては。あなたのすべてを受け止められる男でいたいと強く願ったんだ。
君は僕の事を「強い人だ」と言ったことがあるね。
違うよ、僕を強くさせてくれたのは君だ。
何もなかった僕たちじゃない。
僕は妻を愛した男だ。
君は夫を愛した女だ。
背負う十字架があるというのなら僕と君は同罪だろう。
だから一緒に生きていけるかもしれない。
だが、罪を背負って生きていくのは止めよう。
僕たちには明るい未来が待っている。
道が開くまで、こうやって時間をかけてきたんだ。
神様だってそこまで意地悪じゃないよ。
それを逃すなんて、馬鹿げているだろう?
「本当に寝ちゃったの?」
僕の体に掛かる君の息が規則正しいリズムを打っている。
僕はソヨンの寝顔を除いて思わず幸せになった。
こんなに安堵しきった彼女の顔を見るのは初めてだ。
「おやすみ・・・」
気付かない彼女に僕はおやすみのキスをひとつ落として一緒にシーツに潜り込むと、
彼女の温もりを抱きしめながら深い眠りに落ちていく幸せを感じていた。
いつの間にか、外の雨の音がしなくなっていたことも気付かずに。