Boruneo’s Gallery

絵はお休み中です
<作品には著作権があり、商業的使用は禁止とします>

4月の雪 42

2007年07月05日 10時35分25秒 | 創作話

42 ~ソウルへ~

海南からソウルへ帰る間、雨はずっと降り続けていた。
特に強く振り出すというわけでもなかったが、車のラジオからは近づいている低気圧のせいで明日の昼頃まで雨は続くだろう・・と話している。

助手席に座っているあなたが手にした濡れたハンカチを弄りながら「インスssi・・・雨に濡れたでしょう?」とハンドルを握る僕の手元を見て言った。
フロントガラスを叩きつける雨をワイパーがキュッと切ると視界がはっきりした。

「いや・・大丈夫だよ。ソヨンssiこそ濡れたんじゃないかな。長く雨の中にいたからね・・大丈夫?」

前を見ていたインスが少しだけ視線をソヨンに移して聞いた。
ソヨンは微笑みながら大丈夫よ・・と言った。
 
あの雨の中、彼女はキョンホssiとの長い別れを済ませると、「・・・ただいま・・」と僕の元へ帰ってきた。

・・・・ただいま・・・・

この一言を僕がどんなに待っていたか、あなたにはわかる?
雨音に耳が慣れしたんだ頃、あなたのその言葉が僕の心臓をどきっとさせたことを・・・。
僕は「お帰り・・」とあなたに一言だけ伝えた。
お互いの居場所を確認するにはそれだけで十分だった。


ハンカチで濡れた足元を拭く君に、僕はアクセルを緩めず後部座席からタオルを取って君に渡した。
「これで拭くといいよ。随分濡れただろう」
「ありがとう」
彼女は足元を拭く前に露出した腕や他を拭いた。

「傘はあまり役に立ってなかったみたいだね」
「本当ね」
そう言って笑った君が「ほら、インスssiも濡れているわ」と僕の右肩を拭いた。

「ソウルまで結構時間が掛かるんだ。帰り着くのは夜中になるから、少し寝たらどうかな?
昨夜、本当はあまり寝てないだろう」
「わかるの?」
「わかるよ」

・・・そうね・・眠れたらいいけど・・・でも無理かもしれない。
横にあなたがいて、寝顔を見せるのはちょっと恥ずかしいもの・・・
・・・初めてじゃないのに。
二人が過ごした夜のことはどこか遠くて インスssiは知ってか知らずか微笑んだだけだった。

車中では音楽のボリュームを小さく掛けながら、私たちが会えなかった間の出来事を少しずつ話していった。
陽気に一気に捲くし立てるような喋り方は出来なかったけど、温かいものがインスssiから流れてくる。
私に視線を移すその一瞬にさえあなたの愛情を感じた。
その度に私の心が少しずつ解きほぐされていき 心地よくていつの間にか安心したように私は眠りに落ちていった。



午前1時、ようやくソウルに着いた。
ソヨンssiはこちらを向いて静かな寝息を立てている。

このままあなたを送ることを考えたが、車中での僕たちはあまりにもぎこちなく
言葉の端にどこか距離を感じたのは僕だけだろうか・・・。
長い間離れていた僕たちは昨夜再会をようやく果たしたけど、
時間の溝を埋めるにはあまりにも色々とありすぎた。
時折交わす会話から、あなたがまだあの雨の中にいるようで・・・
このままじゃいけないと僕は思った。

「道が・・違うけど・・。インスssiどこへ行くの?」
「起きたんだね。起こそうかどうしようか、迷ったんだよ」

僕は迷いを切るようにハンドルを切ると、目の端に映る君の不安気な表情を捉えていた。
「このまま僕がソヨンssiを帰すと思う?」
僕はあなたの返事を待たずにマンションへ戻る道へとアクセルを踏み込んだ。



「さあ、どうぞ。中へ入って」
インスは玄関の扉をソヨンのために開けた。
初めて訪れたあなたのマンション。
こんな時間にあなたの部屋に来るなんて、やはり特別な意味が?
もう、私は誰かの妻ではないし、あなたの部屋に入っても気にすることはないはず。・・・だけど。

喪服が心を縛り付け、影に足を取られたまま、ソヨンは玄関の前で立ち尽くしていた。

「今夜は君を一人で過ごさせたくないんだ」
「どうして?」
「まだ君はあの場所にいるだろ?」

そう・・キョンホssiを見送ったあの場所に・・・
君はまだあの雨の中にいる。
だけど、いつまでもそこにいちゃいけないよ。
君の居場所はそこじゃない。

「他にいい場所が思いつかないんだ。ソヨンssiが行きたいとこがあれば言ってくれていい。どこでも連れて行くよ」
「インスssiは何でもわかるのね」

伏せ目がちの私の態度に失望するわけでもなく、優しく響くインスssiの声に嘘はなかった。
もしも私が今すぐ自分のアパートへ帰りたいと言ったらインスssiは分かったと言って送ってくれるだろう。

私は帰りたいの? 
帰れば一人の部屋が待っている。でも疲れてもいるわ。
・・・私は   私は・・・

頭の中ではっきりとした答えを探し出す前に、私の足はその時彼の部屋へと一歩踏み込んでいた。


最新の画像もっと見る