Boruneo’s Gallery

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4月の雪 38

2007年06月04日 10時37分40秒 | 創作話
            38 ~通夜~


             ~脳内BJM~
        『April Snow-O.S.T』より~回想~



スジンが書いた場所には、ソウルから5時間ほど走らせたところにある海南が書いてある。
のどかな田舎町だ。
彼の、キョンホssiの実家が書いてあった。

僕はスジンと別れた後、そのまま急用が出来たからとオフィスに届け出ると、自宅へ戻ってめったに着ることのない喪服に袖を通した。
それから車をj走らせ、キョンホssiの実家に着いたときには、もう夜になっていた。

キョンホssiの実家は田舎によくあるタイプの家で、あたりは畑や野原が多く残っている。
車での参列者も多かったが、少し離れた場所に駐車をすると僕は歩いて彼の家へ向かった。
近所の人たちだろうか、どこかのどかな様子の人たちが老若男女出入りをしている。
その中でソウルから来たと思われるような違う空気をまとった人を何人か見かけることができた。
きっと彼の仕事仲間だろう・・。
そこにスジンも居るのかもしれない、と僕は思った。

悲しみの参列に加わり、僕は遺族の人たちに頭を下げた。
・・・何と言えばいいのか・・・・言えることなんか何もない。
キョンホssiと僕の妻と、あなたと僕。
複雑に絡み合った感情だけが僕を縛り付けていく。

僕を仕事関係者だと思ったんだろうか?何も知らない様子で母親らしい人が僕に挨拶をしてきた
「・・息子が生前、お世話になりました。」
「・・いいえ」
それだけをいうのが精一杯の僕だ・・・。

そして親族の姿の中に彼女の姿がないことを確かめると、僕は参列から外れ後ろの人に場所を譲った。
少し離れた場所にスジンが立っていた。

「インス・・早かったのね。」
「ああ。君は今から?」
「もう済ませたわ。」

ため息混じりに言葉が出る。

「彼ね・・はっきりとは言えないらしいんだけど、覚悟の自殺じゃないかって・・。酒量の割にスピードが出ていて、スリップ跡がなかったらしいの。現場検証で警察はそう判断したらしいわ・・。」

あの日カフェで、スジンからキョンホssiが死んだということ、そして、それは自殺かもしれないと聞いたときは衝撃を受けた。
彼と僕はほとんど言葉を交わしていない。
それでもある種の繋がりを感じていたのはきっと同じ女性を愛したという事実があったからだろうか。
なぜ!?・・ どうして?・・ そう思ったのも束の間、僕はキョンホssiに触れた気がした。
彼はずっとソヨンssiをあれからも愛していた? 諦めていなかったのか?

きっと・・そうなんだろう。
詳しい理由も何も分からないのに、核心たるものを僕はあの時、確かに感じていた。

「もう帰るわ。ここは居心地が悪くって・・。私は招かれざる客だもの。」
そう言って友人と帰っていくスジンをその場で見送ったが、僕にとってもここは長く居られる場所じゃなかった。
仕方なくなったインスは家の門をくぐって出ようとしたとき、入ろうとするソヨンに出会った。

「ソヨンssi」
「・・・インスssi・・・どう・・して」

そこだけが世界の中心のように互いのすべてが照らされ、その瞳に驚きと理解と懐かしさと愛しさを映しだしていった。
今、目の前に心を捧げた人がいる。
ソヨンは驚愕を隠せなかった。

「さあ・・キョンホssiに最後のお別れをしてきてください。」
僕が彼女の背中をそっと押すと、あからさまに僕のことを見られないあなたは背中で僕を感じているようだった。
僕もあなたを感じています・・


あなたが親族の人に挨拶をしているのが見える。
少し前までは君の家族とも言えた人たちだ。
すると、僕のところまで胸が痛くなる言葉が耳に届いてきた。

「何で別れたの! 息子が何をしたっていうの! 何で・・・・何であの子が死ななきゃいけなかったの!!」

何も知らない彼の母親の声だった。
周りに居た参列者もみんな黙ってしまって、恐ろしいほどの沈黙と耐えがたい苦痛がそこら中に広がっていっては僕の胸に激しい痛みを走らせた。
彼女はその細い体で親族の罵倒を一身に受け止めながらようやく立っている。

・・・もう、止めてくれ!彼が死んだのは彼女のせいじゃない!!・・・
咽喉が一気に込み上げて熱くなるのを感じながら、僕は拳に怒りを溜め込むしかない自分を呪った。

ソヨンは最後の別れを済ますと見つめるインスの前を視線も合わさずに素通りし、キョンホの実家から離れようと足早に去っていった。
インスはソヨンの気持ちが痛いほどわかっていた。
・・・一人で耐えようとする姿が痛々しすぎるよ。

去っていく彼女のあとをインスは見守りながら、夜の田舎道を2人は歩き続けていった。

所々にでこぼこが残る田舎道を歩くソヨンの乾いた足音に混じって、歩数の違うしっかりとした足音が近づくこともなく重なっている。
・・・君は僕を感じている。そう・・確かめているんだ。
キョンホの家が小さくなったころ、ようやくソヨンの足取りが止まった。

僕はとうとう、たまらなくなった。
「ソヨンssi・・・。」
細い肩が震えている。

歩み寄ったインスがソヨンの肩に両手を掛けると、まるで合図のように深呼吸をしたソヨンの体を後ろからそっと抱きしめた。
インスは久し振りに触れた彼女の温かみや香りが現実のものであることに喜びを感じていた。
「ソヨンssi・・・」

・・・耳元で響く懐かしいあなたの声・・・私の名を呼ぶ声にどれほど・・聞きたかったか・・・。
でも、なぜここにあなたがいるの?
なぜあなたと会うのはこんな時なの?
嬉しさも悲しさもごちゃごちゃで・・・今は自分がわからない・・。

ソヨンの涙がインスの黒い袖を濡らしていく。

あなたを抱きしめる力が増したとき、さらに細い肩が大きく揺れ始めた。
あなたを僕の方に向き直させる。

・・・言葉が無いって・・・こういうんだよ。
あんなに云いたい事があったはずなのに、君を見たらもうどうでもよくなったみたいだ・・。

「私のせいだわ・・・」
「君のせいじゃないよ」

君の頬を拭っても止まらない雫。
「泣くといいよ。君の悲しみは僕も一緒だから・・」
インスはソヨンを大きく包み込むように抱きしめると、ソヨンは耐えていたものをその厚い胸に吐露するように泣き出した。
暗い田舎道の真ん中で、ソヨンの悲しみをインスは飲み込んでいった。
その泣き声は焦がれる胸に吸い込まれていって、この上ない安堵感をソヨンに与えていきながら。

ソヨンssi・・・わかるだろうか。
こんな時でさえ、僕は恋をしている。

やっと、言えるよ。

「会いたかった・・・」

僕は君の黒髪に、あの朝残した額に、もう一度唇を押し当てた。


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