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4月の雪 34

2007年05月11日 10時36分48秒 | 創作話
      

         34 ~落とし主~

僕たちを繋いでくれるこの空をあなたも見ているだろうか?
空翔けて、この魂が君の元へ飛んでいけばいいのにと思う。
僕は切ない思いを馳せながら暫く空を見ていた。
「仕事に戻らないと・・」

現実は僕に意地悪らしい。
もたれていた背中は鉛でも入っているのか・・重く、引き離すことが困難に思えるほどだ。
それでも・・それでも、僕は行かなくてはいけない。

仕事に戻ろうと歩き出した時だった。
どこかで着信音が鳴っている。

「僕の携帯・・・じゃない」
それはずっと鳴り響いていて、辺りにいる人の反応からそれらの携帯ではないとわかると、芝生の中から無機質な光が見えた気がした。

「落し物?」

離れた所に落ちているそれが携帯だとわかると、僕はそれを拾った。
あの人ごみだから、落としたことも気がついてないのかな。

鳴り止まない携帯を手に「どうしようか・・・」と少しだけ首をうな垂れた。
だが、“落とし主が掛けてきているかもしれない”と、僕は考えた。
違うかもしれないという考えが浮かばなかったのが不思議なくらいに・・それは確信に近かった。
インスは、携帯を開いて出てみることにした。

「もしもし?」
「あ!・・・あの?・・すみませんが、その携帯は・・・?」

「落ちていたのを僕が今、拾ったんです。あっすみません、僕は会場のスタッフの者です。もしかして貴方は携帯を落とされた方ですか?」
「はい、そうです!よかったわ。拾っていただけて。今、気がついて友人の携帯から掛けているんです。」

「そうですか。それはよかったです。どうしますか?僕が届けにいきましょうか?」
「いいえ、今こっちはすごい人でごった返してるからわからないと思います。私が取りに戻りますけど、どこに行ったらいいですか?」

「会場になっていた広場でお待ちしています。」
「じゃ、すぐにそちらに向かいますね。では。」

インスはパタンと携帯を閉じた。

「よかったわ~。スタッフの人が拾ってくれていたわ!」

へギョンは携帯を閉じると安堵の声をあげた。

「本当にどうしようかと焦ったわ。はい、ありがとう。」
へギョンは借りていた携帯をソヨンに返した。

「さてと、これから取りに行ってくるけど、ラッキーをお願いするわ。」

ラッキーという名の犬を預かったソヨンが「先輩、早く戻ってきてくださいね。」と笑顔で言い、「あら、わかんないわよ。もしも、いい男だったらそのままどっかに行っちゃうかも!」と茶目っ気たっぷりにヘギョンは答えた。

ソヨンはいつも楽しいこの先輩が好きだった。
同じ学校で違う教科の先生をしていたが、職員室でも一番話ができる間柄だ。
キョンホの事故の時も、事実を知った周りが冷たくあしらっていくのを、一番親身になってくれてどれほど心強かったか・・・。
ソヨンは以前にもまして、へギョンには相談をしたりして頼っていたが、ひとつ言ってないことがあった。

そんなへギョンにとって、若いソヨンは妹のように思っていた。
・・・・若いのにも関わらず、夫の不倫やら離婚を経験したソヨン。彼女から色んな悩みを打ち明けられるたびに一緒になって悩んだりしてきたけど、ソヨンは若いもの、大丈夫よ。これから本当にいい人が現れるわ。・・・・・一通りのことしか言えないけど、あなたの幸せを心から願っているのよ。気分転換になればと今日連れてきたけど、どうだったかな・・・・


「あら!そんなことしたらギウンssiに言いますよ!」
ソヨンは本気ではないヘギョンの発言にあえて、ヘギョンの恋人の名前を出した。
「オモ!やめてよ。冗談だってば。それにそんないい男がいたんなら、とっくに気付いてるわよ。」
二人は向き合って笑った。

“じゃ、行ってくるから待っててね”と走り際に言葉を残して人ごみの中へ逆流していくヘギョンを見ながら、ソヨンはコンサート帰りの人の渦の中で立ち尽くしていた。

「凄い人ね。見ていると目が回りそうになるわ。」

ソヨンは大人しく座っているラッキーに声を掛けると、それに反応してラッキーもソヨンの顔を見上げていた。
そして人の波に呑まれて流されないようにとラッキーのリードをしっかり握り締めた。

ソヨンがゆっくり見上げた空が色鮮やかに移り変わっていく。
あまりの美しさに心が開放されていくのを感じながら輝き始めた一番星を見つけると、ソヨンの耳にはもう辺りの賑わいが聞こえなくなっていた。


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