10年後のキミへ贈る大切なこと

わたしのタイムカプセル

真夜中のポスター

2015-09-07 21:14:06 | 日記
菜々子が生徒会に立候補すると聞いた時、反対はしなかったけど、心の中では賛成もしていなかった。

基本的に子どもが自らやりたいと言い出したことは、余程の理由がない限り応援することにしています。

ただ、菜々子は生粋のマイペースだ。
いや、マイペースというと聞こえがいいかな。
時間の使い方が、ものすごく下手なのだ。

毎日の課題である、たった2ページの家庭学習を、何時間もかけて終わらせる。
夜中の12:00までかかることも良くある。

終わらないときは朝早く起きてやることもある。
そんな不規則な生活でも、成績は今のところ抜群に良かった。

学校生活は時間通りにキチンと送っていると先生は言う。
体調が心配だったけどいつも元気だ。

生真面目だから、ノートをとても丁寧に書いていることも災いしてる。

でもそれだけじゃない。
集中力が足りないのだと思う。

彼女はいつも空想している。
気がつくと歌を歌ったりしている。
あらゆるCMを完コピして、気がつくと声に出して真似したりしている。

自分の事もなかなか終わらせられない彼女が、生徒会の委員なんて務まるのだろうかと心配だった。

小さな学校だから。
一年生から選ばれるのは2人。
立候補してるのも2人。
当選するのは、ほぼ決まってるようなものだ。

だから、尚更だった。
本気じゃなければ、きっと途中で嫌になる。
とても真面目な子だからだ。

ある日こんな事を言ってきた。

「ママ~、ポスター何書いたらいい?」

なにって何?
君は生徒会で何をしたいと思ってるの?
それを伝えるんでしょ?

「…学校をよくしたい。」

良くしたいってことは、今何か問題があるってこと?
一体何が問題なの?

「え…特にないけど。」

じゃあ質問変えるけど、君はなぜ生徒会をやろうと思ったの?

「……。」

菜々子は何も答えられなかった。

どうしても立候補したいなら、もう一度よく考えてから立候補しなさい。
自分の答えを見つけて、本気でやるならママも本気で応援する。

そう言ってその日は終わった。

翌日。
「みんなが挨拶をちゃんと交わすような学校にしたい。」
そう言ってきた。

みんなが挨拶をするとどうなるわけ?

「えーと…明るくなる。」

どうして?

「えーと……」

助け舟を出した。

毎日、挨拶を交わすとね、お互いの顔を覚えるようになるし、そのうち友達じゃなかった人にも親しみを感じるようになるよね。

お互いに親しみや思いやりをもって接するようになったら、仲間外れやいじめもなくなるかもしれないよね。

そんな話をしました。

そうなの!
だからママ、菜々子どうしてもやりたい!

菜々子は言葉にするのは上手じゃないけど、その気持ちがわかったから、私も応援することにしました。

わかった、応援する。
頑張ってね!

そう言って、応援する事に決めたのに。

なのにさ…。


昨日の日曜日。

菜々子は姉の日菜子と図書館へ向かった。
宿題と定期考査にむけての勉強のためだった。
4時間くらい篭っていた。
途中で差し入れと傘を持って行った。

家に帰って来たあとも、私が夕飯の支度をしてる間。
私と日菜子がテレビを見ている間。

菜々子はポスターの下書きを描いていた。

1時間後。
まだ下書きを描いていた。

お風呂に入った後も。
まだ下書きを描いていた。

やっと下描きが終わったのは23:00を過ぎた頃だった。

ねえ、もう寝なさいよ?
そう声をかけた。

「ママ、他になんかいいアイディアない?」

え…?他に?なぜ?

「あと2枚あるから……。」

え?4枚もあるの?
それ、いつまで?

「明日まで……。」

あ、明日⁈
ねえ、他の宿題は終わってるのよね?

「まだ……。」

さすがに怒りが込み上げた。
真夜中に、本気で説教しました。

あのさ、明日掲示するポスターを、今この時間に終わっていないってどういう事なの?

それって本気で立候補しようとする人のやる事だとは思えない。

この週末の二日間。
図書館にいた時間。
一体あなたは何をやって過ごしていたの?
自分のやることもちゃんと出来ないで、学校を良くしたいなんてなめたこと言わないで。

1日は24時間しかないの。
大切な時間を、ちゃんと考えて使いなさい。
そう何度も何度も伝えてきた。
なのに何も伝わってなかったね。
ママは残念で仕方ない。

「明日、立候補取り下げてきなさい。」

最後にそう告げると、菜々子は小さくイヤだと言った。

そう言ったあとも、私はずっと葛藤していました。

菜々子が自らやりたいって言い出したことだから。
応援しようって決めてたから。

それでも、あまりの責任感のなさ、時間の使い方の工夫のなさに、正直ショックを受けました。

膝を抱えて泣く菜々子を置いて、黙って布団に入りました。

その間も、心の中は葛藤で揺れ動いていました。

本当にこれでいいのだろうか。
子どものやる気を潰してしまっていいのだろうか。

手伝おうか、このまま突き放そうか。

誰かに相談したかった。
でも、もう真夜中だった。
私が泣きたかった。

菜々子が怒られている姿を見たくなかったんだろう。
先に布団に入った日菜子も、まだ眠れないようで本を読んでいた。

ねえ、ヒナ?
どう思う?
生徒会、どう思う?

ボソッと聞いた。

「菜々子さ、何がやりたいのかさっぱり分からないんだよね…。でもさ…」

そう言ったあと、日菜子はムクッと起き上がってリビングに行った。

2人の会話が小さく聞こえる。

「ねー、手伝ってやろうか?」

「うん…いいの?」

布団の中で、ひとり涙が出た。

12:00はとっくに過ぎている。
日菜子だって眠いはず。

私も起きてリビングに行った。

1枚よこしなさい。
ママも描く。

日菜子は笑顔だった。
菜々子は声を出して泣き出した。

泣いてる時間なんてないよ!
そう日菜子に叱咤され、菜々子も顔を上げて書き出した。

3人で。
真夜中に。

妙にテンション高く、ポスターを描いた。
字だけは、菜々子が全部心を込めて自分で書いた。

菜々子はもちろんだけど、私も日菜子に助けられた。
言葉に出来ないけど、これが家族ってもんなんだと思った。

間違っているのか正しいのかよくわからない。

でも私たち3人は、真夜中にとても清々しい気持ちでいた。

親は子どもに育てられる。
また教えてもらった。

日菜子のした行動は理屈じゃない。
愛情なんだって。
そう感じた。
それでいいんだって思った。

菜々子は何度も何度も、泣きながらありがとうと言っていた。

私が描いた挨拶の絵は、どう見ても幼稚園に飾るポスターにしか見えないけど…。

絵を描くの苦手なの、ママ。

恥かいてきてちょうだい(笑)

本気で頑張りなさい。
応援してる。