新宿の東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催さ入れている『ドービニー展』を鑑賞してきました。
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シャルル=フランソワ・ドービニー(Charles-François Daubigny, 1817-1878)はバルビゾン派の代表的画家です。
バルビゾン派は印象派の先駆けともなった郊外の風景を描いた画家たちです。ドービニーの他にコローやミレーらが有名です。構図的には、暗めの木立や牛などの家畜、鴨などの野鳥など田園風景のなかに農夫(婦)が点景として描かれることが多いようです。
ドービニーは、最初は芽が出なかったのですが、次第に売れるようになったそうです。もともと、画家の家系に生まれ、「水の画家」と呼ばれたドービニーは自然の中で描くことを好んだようです。外光派だったのですね。風景は刻一刻と変わっていきますが、水も常に変化します。そのような現象をキャンバスに表現するときに従来の手法では間に合わなかったのです。評論家たちから「完成させる能力がない」などと酷評されたその点が、次の印象派を導いたと言えるようです。
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わき道にそれます。
19世紀に入ると蒸気機関が普及し始め、蒸気船や蒸気機関車が登場します。ドービニーだけでなく同時代の他の画家の絵にも描かれています。さらに印象派の画家たちによって享楽とともに描かれることになります。駅、レストラン、ボートやヨット遊びなどなど。
人々は鉄道で移動する楽しみを知り世界が広がっていったのです。彼の版画集『船の旅』(1862)には数点の蒸気列車とともに蒸気船の起こした波に翻弄されるアトリエ船「ボタン(Botin)」号が描かれています。
このボタン号(初代)は、小さな船に小屋が一つあるシンプルなものです。これを水の上に浮かべて移ろいゆく水辺の風景を写し取ったのです。時には数人と出かけたり、息子に曳かせたりもしたようです。
そのような描き方なのであまり大きなサイズの絵は生まれていません。横長の画面も特徴でしょう。また、これは絵画の購買層の住宅事情にも合致しているのではと思われます。
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産業革命による工業化、都市化はライフスタイルの変化をもたらし、パリなどの都会に住む人々の自然への関心を高めたようです。現代でもアウトドアが人気があるのと似ています。技術の発達によって生活が忙しくなればなるほど、自然豊かな生活への憧れが膨らむのでしょうか。まだ、SNSがなかった時代ですが、人々は郊外に出てレジャーをするようになり、自然の風景やそれを描いた絵画に「いいね」をしたのです。
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ドービニーの絵には後の印象派の絵画のような晴れやかさもなければ享楽もありません。ひたすら孤独な風景が広がっているように見えます。それが貴重に思えた展覧会でした。
「シャルル=フランソワ・ドービニー展 バルビゾン派から印象派への架け橋」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館、6月30日(日)まで.