かりんとう日記

禁煙支援専門医の私的生活

メキシコ土産

2015年10月21日 | がん病棟で
「メキシコに旅行したいんですが、いいですか?センセイがダメだというなら、あきらめます」


肺がんで通院中の患者さんからそんな相談をされたのは、8月。
手術をしたあと、がんが再発し、抗がん剤治療を行っている。

メキシコ旅行は10月半ばに1週間ほどの日程。
以前住んでいたことがあり、お友だちがたくさんいて、会いに行きたいのだという。

そういうことならばと、注射日やその後の副作用の出る時期などを逆算したりして、治療スケジュールをたてなおし、行っていただくことにした。



メキシコといえば、マヤ文明。
人類史上、喫煙のことが記録されている最初の文明だ。

『どこかの遺跡にタバコを吸っている人の壁画があるはずなんです。絵葉書でもあったらください』と軽くお願いしておいた。


今日の外来では、体調もよく、旅行を楽しめたと笑顔でご報告いただいた。


メキシコには仕事で2―3年赴任していたことがあるのかと勝手に思っていたが、聞けばなんと、今から40数年前、空手の先生として23年間も住んでいたのだという。

今ではメキシコ全土に弟子とその孫弟子がおり、毎年10月にはご自分の名前のついた大会が開かれ、1万人以上が集うのだという。
帰国後も、大会の時期に合わせて毎年メキシコへ。
今回の旅行は、その大会に最高指導者として参加するためであったと聞いて、ビックリした。


ワタシがうろ覚えだった喫煙レリーフのことを現地の弟子達に尋ねてくださり、パレンケ遺跡にあるものであることをつきとめ、わざわざレプリカを取り寄せて、お土産に持って帰ってきてくださった。


「タバコは誰が最初に吸い始めたんですか?」という子ども達の質問に、これからはこのレリーフを見せながら話をしてあげられる。
本当に楽しみだ。


このことだけでも大いに興奮、心から感謝したのであるけれど、実はもっと素晴らしいお土産話をしていただいた。


「病気になってしまったし、センセイにもきっと海外旅行なんてダメだって言われると思っていたので、今年は行けないと断っていたんです。髪の毛もこのとおりなくなってしまったし・・・でもどうしても来て欲しいって向こうはいうし、センセイからも許可がおりたので・・・だけど、むこうで飛行機降りたらこの頭でしょう。迎えに来たみんながビックリして、俺だけが丸坊主だと目立つからって、直弟子たちみんなが大会前日に丸坊主にしてくれたんです。開会式では羽織袴に丸坊主がずらーっと(笑)嬉しくて泣けてきました」


こんな話は、そうそう聞けるものではない。
私も泣けてきた。









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