猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

エル・クラン

2016-11-28 03:19:21 | 日記
アルゼンチン映画「エル・クラン」を観にいった。
1980年代アルゼンチン。史上最悪な独裁政治から7年以上が経ち、徐々に民主政治を
取り戻していた時代。裕福なプッチオ家は父アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)を筆頭
に妻、息子3人、娘2人で幸せに暮らしていた。そんな中、マルビナス戦争(フォークランド紛
争)の結果、政府が転覆。政府の情報管理官として働いていたアルキメデスは失職してし
まう。ある日、長男アレハンドロ(ピーター・ランサーニ)の友人が失踪し、身代金を要求する
電話が入るが、友人は遺体で発見される。その後も金持ちを狙った誘拐事件が続く。

アルゼンチン国民なら誰でも知っているという事件を基にした映画で、かなり事実に忠実
に描かれているらしい。政府関係者だった男が無職になってしまい、引き起こした連続誘
拐事件なのだが、この事件の恐ろしいところは、主犯である男の家族が末娘を除いて皆
事件に関わっていたということである。特に20代の長男や次男は誘拐の手伝いをさせられ
ていたのだ。
アルキメデス・プッチオの家の中には監禁部屋があり、誘拐されてきた被害者は大体1カ月
以上そこに閉じ込められ、鎖につながれていたようだ。そしてそのうちの数人は殺害されて
いる。路上であっさり射殺するシーンはぞっとした。被害者が監禁されているその家で、家
族は普通に暮らしていた。皆で食前の祈りを捧げるシーンなど、どの口が言う?という感じ
だった。恐ろしいことだ。
ずっと父親の片腕として誘拐を手伝ってきた長男だが、自分が開いた店も順調で恋人もで
きたことから、誘拐から手を引きたいと考えるようになり、父親との間に確執が生じる。家
族の中での1番の被害者はこの長男だと思う。いつも従順だった長男が父親に声を荒らげ、
殴りかかるシーンがあるが、その時の長男のセリフ通り、彼は父親のために人生を台無し
にされたのだ、そして呆れる程の父親の身勝手さ、自己中心的な考え方。この人には最後
まで罪の意識はなく、むしろ自分を被害者だと言っていたから本当にゾッとする。
ラストに家族が事件の後どうなったかが字幕で出るのだが、「はあっ?そんなバカな」と声
が出そうになってしまうくらい、おかしなことになっていた。ネタバレになるのであまり書き
たくはないのだが、母親は証拠不十分で不起訴とか、信じられない。そりゃ母親は誘拐自
体はやっていないが、監禁部屋に被害者がいるのを知っていたし、その人たちのために
食事を作ったりしていたのだ。これで関与していないと言えるのだろうか。でも日本でも同じ
ように同居の母親が知っていたのに不起訴になった異常な事件があったなあ、と思い出し
た。もちろん主犯の父親のその後も、目を疑うものだった。元政府関係者ということでそう
いうことになったのだろうか。
アルゼンチンは長く独裁政治が続いたらしいが、そういえばお隣の国・チリも80年代独裁
政治により多くの犠牲者を出したという。そういった時代背景がこの凄惨な事件を生んだ
のかもしれないが、私は父親の人間性の問題だと思いたい。内容の割に音楽がにぎやか
というかうるさく、勢いがあり、映像がスタイリッシュだったのはお国柄だろうか。





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