猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

VORTEX ヴォルテックス

2024-01-10 21:29:57 | 日記
2021年のフランス映画「VORTEX ヴォルテックス」を観に行った。

映画評論家である夫(ダリオ・アルジェント)と元精神科医で認知症
を患う妻(フランソワーズ・ルブラン)はパリのアパルトマンで仲む
つまじく暮らしていた。離れて暮らす息子・ステファン(アレック
ス・ルッツ)は2人を心配しながらも、家を訪れ金を無心する。心
臓に持病を抱える夫は、日に日に悪化する妻の認知症に悩まされ、
やがて日常生活に支障をきたすようになる。そして、夫婦に人生最
期の時が近づいていた。

ギャスパー・ノエ監督が「病」と「死」をテーマに冷徹なまなざし
で映し出した人間ドラマ。「ホラーの帝王」と呼ばれるイタリアの
ダリオ・アルジェント監督が、80歳にして映画初出演をしている。
ギャスパー・ノエ監督にダリオ・アルジェントが映画初出演(主演)
となれば、観ないわけにはいかない。アルジェントの映画は好きな
作品がたくさんある。新年1作目にしてはとても重たい映画だった
が、見応えがありおもしろかった。
映画評論家の夫と元精神科医の妻は仲むつまじく暮らしていたが、
妻が認知症を患ってからは意志の疎通がうまくいかなくなってきて
いた。夫の仕事中に妻はふらりと家を出ていき、街の商店などを徘
徊する。夫は「妻を見なかったかい」と尋ね歩き、やっと見つけて
家に帰る。心臓病を患う夫にとっては負担となっていた。家庭を持
っている息子・ステファンが時々様子を見に来るが、母の認知症の
進み具合に驚く。(ステファンと彼の幼い息子は名前が出てくるが、
夫婦の名前は登場しない)
映画の演出がとても変わっていて、常に画面が2分割になっている。
片方の画面で夫の行動を映し、もう片方の画面で妻の行動を映して
いる。夫婦が一緒にいる時も分割されている。常に映像を2つ観て
いるという感じである。そこにステファンが加わってもやはり分割
されている。万人受けする映画ではないことは確かだろう。
ステファンの妻は入退院を繰り返しているようで、金に困っている
様子が描かれる。父とステファンは母のことで話し合う。ステファ
ンは「夫婦で入居できるホームがあって、もうすぐ空きが出るよ」
というが、父はホームになど入りたくない、長く住んでいるこの家
にいたい、と言う。ステファンは「でも父さんだけで母さんを見る
のはもう無理だよ」と言う。そして結局話し合いは終わらず、ステ
ファンは父に金をもらって帰る。
妻の認知症はどんどんひどくなり、ガスをつけっぱなしにしたり、
夫の書いた原稿を破ってトイレに流したりするようになる。よくト
イレが詰まらなかったものだと思うが。夫は「大惨事だ!」と叫び、
いい加減にしてくれと怒る。認知症の人と暮らすのは本当に大変だ
なと思った。夫が救急搬送された時も、妻はステファンに「あの人
は大丈夫?」と聞くが、「あんたがもっと早く救急車を呼んでいた
ら大丈夫だったんじゃないの」と、イラッとする。
メインのキャスト3人の演技が素晴らしい。アルジェントってあん
なに演技がうまい人だったのか。夫婦が死んだ後、部屋の中がスピ
ーディーに片付けられていき、空き部屋になっていく様子は胸が締
めつけられるような気持ちになる。映画の最初に「心臓の前に脳が
壊れるすべての人へ」という字幕が出るのだが、それがとても心に
残った。なんとも重たく、残酷で、冷徹な物語だった。私はギャス
パー・ノエの映画は「ルクス・エテルナ 永遠の光」しか観ていな
いのだが、もっと観たいと思った。



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