日々茫然

猫・本・アート・日常生活などを、つれづれと思いつくままに記録

尾道白樺美術館

2007-01-20 | アートの話

昨年末、尾道の白樺美術館が1月末で閉館する、というニュースを耳にしました。
ここは、尾道の観光地の東端の方にあり、徒歩で行くにはやや遠い距離にあったため、今まで行った事がありませんでした。
2年ほど前に一度企画展を見に出かけたこともあったのですが、火曜日が休館日で(ほとんどの美術館は月曜休館なので、月曜だと思いこんで確認せずに行ってしまった)、建物の前まで来てガックリ肩を落として帰ったことがありました。
その後、面白い企画展があったら行こう、と時々チェックしていましたが、なかなかその機会も訪れず…
とうとう閉館すると聞いて、この際常設でもいい、と出かけてみました。



 
建物が普通の民家に見えるのは、白樺派の中心人物で尾道に1年間住んで「暗夜行路」を執筆した志賀直哉と親しく、尾道にあこがれていたという洋画家の梅原龍三郎の旧居を再現しているからです。

中は、梅原龍三郎の作品を展示している部屋、小林和作など数人の作品(白樺派?)を展示しているちょっと大き目の部屋、棟方志功の版画を展示している部屋の3室でした。
こじんまりとしていて、正直「えっ!?これだけ?」と思ってしまいました。 (入館料が800円と高めだったし)
2番目の部屋に展示してあった、橋本明治(めいじ)という人の作品がちょっと良かったです。(猫の絵もあったし)

休館日、入館料の高さ、立地、その辺がやっぱりちょっと苦しいかな、と感じました。
でも閉館となると寂しいです。

実は、白樺美術館は、その成り立ちが少々特殊です。

高層マンションの建設計画が立ち上がった土地を、「そんなところに高層マンションなど建てては、尾道の景観が台無しだ」と市民運動により買い取ります。でも、その土地をどうする?(借金も残っているので、一時はまた売られそうになったりも…)
そこに、縁あって山梨県にある清春白樺美術館(尾道出身の吉井長三理事長)の分館を建てる事になったのでした。

“景観を守るための市民運動”の成功例としても有名な話だそうです。
ただその影には、「尾道の歴史的景観を守る会」の会長であった、丸善製薬株式会社会長、故・日暮兵士郎氏の尽力が大きかったようです。土地の買い取り~運営資金まで、相当部分を日暮兵士郎氏と丸善製薬株式会社が支援されたということです。“企業メセナ”は企業のイメージ戦略や宣伝の一形態になってしまうことがほとんどですが、大げさに喧伝することなく、行われていたようです。
その日暮兵士郎氏が平成17年末に亡くなられ、それを追うように尾道白樺美術館も、わずか7年あまりの歴史を閉じることになりました。
すでに建物は尾道市に寄贈してあり、今後も何らかの形で活用されるはずです。

閉館といえば、島根県松江市にある、「L・C.ティファニー庭園美術館」も3月末で閉館だそうです。
1度行った事がありますが、夢のように美しいステンドグラスやジュエリーなどの展示品、広大なイングリッシュガーデンと、高額な入館料も納得の立派な美術館でした。
しかしここも約6年の短い命でした。
ただ、こちらの場合は、開館当初から運営会社と市との間に様々な軋轢があり、それが修復されなかった事が原因のようです。

美術館は普通、営利ではやっていけません。
人の心や懐に余裕がないと成り立たないものです。
そんな美術館が姿を消すのは、文化の火が消えるようで、心も寒くなるような…
なんとも寂しい話です。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする