日々茫然

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玻璃の家

2009-06-05 | 本と漫画の話
玻璃の家 玻璃の家
松本 寛大

講談社 2009-03-18
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アメリカ・マサチューセッツ州の小都市。そこにはかつてガラス製造業で財を成した富豪が、謎の死を遂げた廃屋敷があった。11歳の少年コーディは、その屋敷を探索中に死体を焼く不審人物を目撃する。だが、少年は交通事故にあって以来、人の顔を認識できないという「相貌失認」の症状を抱えていた。視覚自体に問題はなく対象の顔かたちが見えてはいるものの、その識別ができないのだ。犯人は誰なのか?州警察から依頼を受けた日本人留学生・若き心理学者トーマは、記憶の変容や不完全な認識の奥から真相を探り出すために調査を開始する。真相に肉迫するにつれ明らかになる、怪死した富豪一族とこの難事件との忌まわしき因縁…。重厚な筆致と圧倒的な論理で織り成す、新感覚の本格ミステリー!

地元、福山市が始めた「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」の記念すべき第1回受賞作です。
本格ミステリーの巨匠、島田荘司さん(福山出身)が提案、選考委員を務めるとあっては、福山のミステリファンは読まないわけにはいきません?


で、感想ですが…
タイトルや装丁の固いイメージと、それなりの本の厚みから、難解な硬派の作品かとイメージして読み始めました。「重厚な筆致と圧倒的な論理」ってあるし。
確かに、心理学者が主人公なためか?温度の低い淡々とした感じの文章ですが、決して難解ではなく、意外とスルスル読め、厚さが苦にならないまま読み終わりました。先行イメージが、ちょっと取っ付き難い感じになっちゃってる気がして、もったいないですね。
「新人賞」であることを考えると、確かに充分なクオリティーだったと思います。最初からこれだけ書けるって、やっぱり凄いです。
相貌失認の目撃者が、真犯人をどうやって見分けるか、というテーマも興味深かったです。最終的に、見分けがついて、真犯人を指摘することになるわけですが、その着想は、(やや説得力に欠ける気もするものの)ちょっと面白かったです。
新設の文学賞の第1回で、この作品なら、万々歳でしょう。いくら島田さんの全面バックアップがあるとしても、地方の一都市が作った文学賞なんて、それほどの知名度もないだろうし、ショボイ作品ばかりだったらどうするんだろう?と心配する気持ちもあったので(笑)

犯人は、ミステリーを読み慣れてる人なら、わりと予想がつき易いのではないかと思います。「いかにも怪しい」感が出てしまっている部分を、もう少しどうにかうまく処理して欲しかったかも
犯人当てより、「相貌失認」にまつわる部分の方に、重点が置かれていたのかもしれませんが。

それと、これは、好みの問題だと思うのですが…
全体を通して、淡々とした感じだったのが、ちょっと残念。
気持ちの盛り上がりに欠けるというか…全体的に「真面目」なんですよね。御手洗潔(島田荘司氏の作品に登場する名探偵)ほどでなくても、もう少しキャラクターの個性が強い人がいて欲しかった。
私が好きなミステリーは、本格としてのトリックはもちろんですが、読んでいてワクワクするような展開や、魅力的なキャラクターに惹かれる部分が大きいので…
エンターテイメント性の強いものというか。
そういう意味では、ちょっと好みとは外れていました。でも、嫌な感じではなかったです。ツボにはまるほどではなかった、という、あくまでも、好みの問題

「受賞後も、コンスタントに書き続ける意思のある人が望ましい」という賞なので、ぜひ今後の作品にも期待したいと思います。


ついでに、もう1作品。
地元つながりで、最近読んだ中島京子さんの「ハブテトル ハブテトラン」。
作者は東京の方ですが、舞台が、広島県福山市の松永町です。

ハブテトル ハブテトラン ハブテトル ハブテトラン
中島 京子

ポプラ社 2008-12
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こちらはミステリーではなく、不登校になってしまった小学5年生の男の子が、2学期だけ、母親の故郷である松永の祖父母のもとで暮らし、色んな経験をして、成長するお話。
タイトルからして分かるように(というか、意味不明ですか?)、備後弁てんこもりで、松永の土地柄や、地元のお祭り、ゲタリンピック(特産の下駄を使った競技を色々楽しむイベント)なども次々登場、かなり楽しく読みました。祖父母の友人のじいちゃんが、特に個性的でいいキャラです
そして、以前書いた、「ルナのプリントップ」も出ているのですよ
松永を書くなら、やはりプリントップは外せない(笑)

主人公の男の子の語り口調で書かれているので、方言やその土地だけの常識に戸惑う様子なども、子ども目線で描かれています。児童書ではないようですが、小学校3、4年くらいからなら充分読めそうです。

あ、ちなみに「ハブテトル ハブテトラン」の意味ですが、備後弁で、「はぶてる」=「むくれる、すねる、怒る」というような意味。
「ハブテトル」=むくれている
「ハブテトラン」=むくれていない ←否定形
つまり、「ハブテトル ハブテトラン」には、「あ、怒ってる(笑)」と指摘され、「怒ってないよっ」と言い返しているようなニュアンスが含まれているように思います
コメント (12)
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