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アガサ・クリスティー 中村妙子訳『春にして君を離れ』あらすじと感想

2009-12-05 17:50:42 | 紙の書籍
早川書房 アガサ・クリスティー 中村妙子訳『春にして君を離れ』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
1-12
エピローグ
解説 作家栗本薫


【あらすじ】
主人公のイギリス中流夫人のジョーン・スカダモアは、弁護士の夫と三人の子供たちに恵まれ平凡で幸せな生活を送っている。ジョーン自身も固くそう信じていたのだが…。



【感想】
アガサ・クリスティーと言えば、名探偵ポワロなどのミステリーが真っ先に頭に浮かぶが、この作品は全く違う傾向の作品。‘人間’をきっちりと描いたもの。
ジョーンの末娘エイブラルが結婚先のバグダッドで病気になり、看病のため駆けつけたことから、旅先で自分自身と向き合うことになる。自分と向き合う、今までの人生の中で、ジョーンが一度たりともしたことがなかったこと。向き合うことから逃げ続けてきたのだから、その驚きと不安と恐怖はとてつもなく大きく、彼女には耐えられないものだった。
帰路についたテル・アブ・ハミドの鉄道宿泊所に足止めをくい、持ってきた本も読んでしまい、手慰みの針仕事もなく、何もない所で彼女は‘広場恐怖症’めいた奇妙な気持ちに陥ってしまう。

「穴からひょこひょこ頭を突きだすトカゲ。ちょうどそんな具合にさまざまな思い出が次々に胸に浮かんで‥‥‥ぞっとするような、心騒ぐ思い出‥‥‥考えたくもない不愉快なことばかりが。」

自分の義務を信じ、家族のためによいと信じ、ひたすら日常を切りまわすことで自分から逃げ続けてきたジョーン。その彼女を家族は冷ややかに見ている。
「何を言っても無駄だ」と諦めている夫のロドニーも、彼女の犠牲者のようだが実は彼も同じなのだ。ロドニーも自分自身から、結婚生活の伴侶と向き合うことから逃げ続けてきたのだから。
作品の根底にずーっと流れている人の悲しさ、哀しさ、弱さ、不安。ずっしりと心に重くのしかかる感じの作品。



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