角川文庫 宮部みゆき『三鬼 三島屋変調百物語四之続』を読了しました。
あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。
【目次】
序
第一話 迷いの旅籠
第二話 食客ひだる神
第三話 三鬼
第四話 おくらさま
解説 瀧井朝世
【あらすじ】
三島屋の黒白の間で行われている変わり百物語。語り手の年齢や身分は様々で、彼らは正しいことも過ちもすべてを語り捨てていく。
十三歳の少女は亡者の集う家の哀しき顛末を、絶品の弁当屋の店主は夏場に休業する理由を、そして山陰の小藩の元江戸家老は寒村に潜む鬼の秘密を語る。
怪異を聞き積んでいく中でおちかにも新たな出逢いと別れがあり…。
【感想】
序
「人は語りたがる。己の話を。」
そうだ、人は語りたい。ただ語りたい。人には自分の“物語”、“ストーリー”が必要なのだ。
「そこに難しい決まり事はない。聞いて聞き捨て、語って語り捨て。ただそれだけだ。」
自助グループのルールと同じなのは、人は自分の“物語”を語ることで癒しと心の平安を得ることができるからかもしれない。
第一話 迷いの旅籠
小森村に住む少女おつぎが語る村の祭りの話。立春の前日に行う“行灯祭り”という、冬の間は眠っている田圃の神様“あかり様”をお起こしする祭りにまつわる怪異。
村に滞在していた絵師石杖が、自身の亡くなった妻子を蘇らせたいと願うあまり、しきたりを破り暴走してしまった。空き家になった名主の別宅を大きな行灯に見立てて設え、亡者を出現させてしまった。だが、所詮、亡者は亡者、生者ではないのだ…。
余野村の村長が言った「おまえばかりが辛いわけじゃねえ。どんだけ辛くたって、命がある者は生きていかなきゃな。命があるってことは、天からのお恵みなんだから」この言葉が真理だと思う。
石杖が救いたかったのは死者ではなく、本当は“生者の魂”自分自身だったのだろう。自覚はなかったかもしれないが…。
古今東西、“口寄せ”や“死者の写真(遺影ではなく)”などが必要とされてきたのは、そういうところに起因しているのだと思う。
宮部みゆきお得意の展開でそろりと始まり、次にゆるゆると進んでいき、終盤に向かって怒涛の如く物語が進んでいく。構成が上手いと一気に読めてしまう。
第二話 食客ひだる神
『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』に出てくる“くろすけ”を彷彿とさせる話。食客ひだる神が食べすぎてぷくぷく太っていったり、すねたりして可愛らしくてよい♪
仕出し屋だるま屋の亭主房五郎が語るのは、里帰りの途中の切通しで拾って?しまった、ひだる神“餓鬼”のこと。食いしん坊のひだる神は上客を連れてきてくれる。始めは商売繫盛で上々だったが、太りすぎたひだる神の重みで家は歪み、きしみ、隙間風が吹く始末。これは困ると休業したらしたで、ひだる神はひもじがってぶつぶつめそめそ。
房五郎の父の弔いに里帰りしたとき、例の切通しでひだる神は帰ったらしく姿が見えなくなった。寂しい心持ちになった房五郎と女房のお辰は、江戸の店をたたんで里に帰ることにした。
房五郎と女房のお辰とひだる神の関係性が、日本昔話のようでほっこりとする。
第三話 三鬼
栗山藩の元江戸家老だった村井清左衛門が語るのは、かつて山奉行として勤務した洞ヶ森村での怪異。
とりわけ貧しく過酷な生活を強いられている洞ヶ森の村民たち。そこに出現するのは“鬼”。その実態は病を得たものや老齢なものたちの命を奪う“間引き”だ。貧しすぎて彼らを養っていけるだけの余裕が、経済的にも精神的にも体力的にもないからだ。
“鬼”は黒い籠を深々と被り、長い蓑を纏い、雪靴を履いていて、夏でもこの姿で現れる。だが中身はない“無”だ。
村井が「あれは、栗山藩にあった全ての理不尽、全ての業、全ての悲しみが凝ったものでござった」と語る。この言葉にどれほどの想いが込められているのだろう…。
語り終えた後、村井は腹を召し、介錯は義弟の須加利三郎が務めた。村井の亡骸を清めようとしたとき、縁先に転がり出てきたのは黒い籠だった。
「私とおまえは、同胞だ。」村井の声が聞こえるようだ。深く、哀しく、胸がちりちりとする…。
第四話 おくらさま
女浦島太郎と自分を例える老婆のお梅が語るのは、実家だった芝神明町の香具屋、美仙屋の怪異。美人三姉妹として有名だった美仙屋が不幸に見舞われ、心は14歳のまま時が止まってしまったという。
美仙屋には代々この家を守ってくださる“おくらさま”という神様がおられる。おくらさまは華やかな着物を着て、甘い香りを漂わせる若い娘の姿をしている。
初代がおくらさまと交わした約束は大事や変事がおこったとき、その代の主人がお願いすれば奥座敷からお出ましになり守ってくださる。ただし、次のおくらさまに娘のひとりが選ばれるのだ。
30年前、美仙屋は火事で失われ、外に出されていた三女のお梅だけが生き残った。遠縁で隠居生活を送り、死期を悟ったお梅が最後まで手放さなかった振袖がある。衣桁に掛けてもらった振袖を着て心?魂?が三島屋に飛んでいき、美仙屋の怪異を語ったのだ。「くやしい!」と叫んだ後には、振袖と帯ばかりが残されていた。
おくらさまの正体は昔、美仙屋にもらわれてきた養女。器量のよくないその子は不幸で早死にし、美仙屋に恩を感じつつも、積もり積もった憤りと悲しみはひとつの意志としてこの世に留まった。
「人は語る。語り得る。善いことも悪いことも。楽しいことも辛いことも。正しいことも、過ちも。語って聞き取られた事柄は、一人一人の儚い命を超えて残ってゆく。」
語られた“そのひとの物語”はどこかの高みに昇華していくのだろう。
【余談】
『三島屋変調百物語』シリーズの第4弾。何故か先に第5弾のほうを読んでしまい、話の展開にあれれ?となったのは内緒。
今回、四之続を読んでようやく話しが見えてきた。やっぱり順番て大事ね~。
そのときの記事はこちら。→ 「宮部みゆき『あやかし草子 三島屋変調百物語伍之続』あらすじと感想」
【リンク】