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宮部みゆき『荒神』あらすじと感想

2020-11-24 12:11:48 | 紙の書籍
新潮文庫 宮部みゆき『荒神』を読了しました。
あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。

※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
序 夜の森
第一章 逃散 
第二章 降魔 
第三章 襲来
第四章 死闘
第五章 荒神
結 春の森


【あらすじ】
時は元禄、東北の小藩の山村が、一夜にして壊滅した。隣り合い、いがみ合う二藩の思惑が交錯する地で起きた厄災。永津野藩主の側近を務める曽谷弾正の妹・朱音は、村から逃げ延びた少年を助けるが、語られた真相は想像を絶するものだった…。
太平の世にあっても常に争いの火種を抱える人びと。その人間が生み出した「悪」に対し、民草はいかに立ち向かうのか。


【感想】
宮部みゆきの時代小説の到達点といわれる長編作品。全674p。登場人物紹介と地図も載っている。
以前にNHKのドラマで観た記憶があり、調べたら2018.2.17(土)放送のスペシャルドラマだった。作中の登場人物に、その役を演じた俳優の顔が浮かぶのはあまり好ましくないな…と思ったが、順番が逆なので仕方がない。

登場人物が多く、その都度、舞台が永津野藩と香山藩を行ったり来たりするが、文章はわかりやすくて読みやすい。前述の人物紹介と地図もありがたい♪
後半まではどんどん怪物の怖さと登場人物の描写に釘付けになり、最後は一気に終わっていく。呆気ないくらい。
それにしても、宮部みゆきはどうしてこうも、人の心の奥底を覗いて描くことができるのだろう…? 朱音が兄・曽谷弾正や周囲の人々の心情を冷静かつ客観的に読むのは、肉親の情を越えた諦念のような哀しさがある。

香山と永津野を襲った怪物は<つちみかどさま>というもの。かつて永津野を恐れて、香山・瓜生分家の柏原瓜生氏が作ったものだった。
だが、<つちみかどさま>は出来損ない、醜い土の塊となり果て、山神様のおわす大太良山に埋められ祠を建てて封印された。それが目覚め、終わりのない底なしの飢餓のため、目の前にいる人をただひたすら食らう。人の都合で作り、打ち捨てられ、起き上がった<つちみかどさま>。その芯にあるのは、敵を平らげようと欲する人の業の塊。哀れな怪物。
この<つちみかどさま>と対峙できるのは、柏原瓜生氏に連なる者であり、術者になり得る力を秘めた者のみ。彼らが生まれ落ちるとき、大太良山の頂上で雷光が閃く。それが双子として生まれた、曽谷弾正こと市ノ介と朱音だった。
長い年月を経て、二人は<つちみかどさま>と対峙する。朱音は、飢えて暴れ騒ぐ子を母のように鎮めるため、自らを食らわせる。弾正も食らわれ、怪物は朱音の白、弾正の黒の鱗を持つものに変化する。怪物の急所は後ろ首の付け根、ここへ続けざまに発砲されて倒れる。白黒半分に染まった体を横たえ、怪物は瞳を閉じた。
朱音は仮にも武家の女人、覚悟の最期に相応しく、怪物は介錯を受ける。青白い炎がその身から燃え上がり、灰になる怪物。灰は風に乗り、ふわりふわり。。と舞い上がり天に昇っていった。

呪詛、お山の怪物、曽谷弾正の人狩り、養蚕、薬草作り、永津野も香山もそれぞれ誰も悪いことをしたとは思っていなかった。藩のため、領民のためよかれと思っていたことが哀しい。
「だから、追求すればするほど、悪事は消えていってしまう。残るのは悲しみと不信ばかりだ」この言葉のなんと重くて哀しいことか…。
それでも人は生きていかなければならない。明日も明後日も。時代も国も越えた普遍のテーマだとしみじみ思う。


【余談】
NHK公式サイトにドラマの詳細がまだ載っていたので、よろしかったらどうぞ。 → スーパープレミアム「スペシャルドラマ 荒神(こうじん)」

解説は映画監督・特殊技術監督の樋口真嗣。文学畑ではない、映像制作者の視点から観た、「ここはこうしたい!でも、予算と日程が、技術が…。」云々と綴られている。実際の制作現場を覗き見したような感じでおもしろい!
この解説が書かれた日付が(平成二十九年四月)とあるので、NHKでドラマ化され放送されたのが(平成三十年二月)。ご本人はこのドラマをご覧になったのだろうか?もし、観たのならどんな想いで観ていたのか…。感想をお聞きしたいと思った。

文庫を購入した際に同封されていた小冊子に、「宮部みゆき作家生活30周年記念インタビュー」というのがあった。ここで作家本人が「大魔神をやりたかったんです」と話している。「大魔神」そう、昭和四十年代の大映特撮映画のことだ。
正しい生き物ではなく、呪物であり、人間とは意思の疎通がないものにしようと考えたそうだ。映画「シン・ゴジラ」を観たとき、『荒神』を思い出したとのこと。映画館で三回も観て、BRでも観ているらしい。
>「文学的資産」は持ち合わせていないけれど、「サブカル的資産」は持っているということですかね。
という件があるけれど、いやぁ~ものすごい謙遜。大作家でなくしては逆に言えないと思う。





まだ宮部みゆき作品は読み続けるつもり。次はどれにしようかな~。


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