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窪美澄『アニバーサリー』あらすじと感想

2016-01-18 10:14:38 | 紙の書籍
新潮社 窪美澄『アニバーサリー』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
第一章
第二章
第三章


【あらすじ】
第一章はマタニティスイミングを教える晶子の話。晶子は小学生の時に終戦を迎え、その後はただ一生懸命に生きてきた。
あるときからマタニティスイミングを教えることになり、そこで真菜という妊婦と出会う。彼女は未婚のうえ、両親とも上手くいっていない。おまけに母親は有名な料理研究家なのだ。
晶子が妊婦たちにと手料理をタッパーに入れて持参しても、「タッパーに入った料理は食べられないんです」と食べることを拒む。
そして、あの東日本大震災が起こる‥。

第二章はマタニティスイミングの教え子、真菜の話。

第三章で真菜は不倫関係にあった岸本の子を妊娠する。もちろん望んだ妊娠ではない。それでも、真菜は一人で育てる決心をする。そんな矢先にあの震災が起こる‥。


【感想】
真菜の母は美人で有名な料理研究家だが、実際は母親業を放棄しているような母である。父も現実から目を背けており、自分の見たいようにしか現実を認識できない。両親の仲はあまりよくない、何故離婚しないのか不思議なくらいだ。
離婚しない理由は、有名な料理研究家である母の「いい妻、いい母、いい家庭」のイメージが崩れるからにほかならない。真菜はわかっている、自分が愛されていないこと。母のお人形のような存在であること。
ほんの子供のときはまだよかった。やがて思春期を迎え、有名俳優の娘で問題行動のある絵莉花と友達になってからは坂を転げ落ちていく。絵莉花の仲介で援交、要するに売春を始めるのだ。自分の力で一眼レフのカメラを買う!という目標のために。
この辺のくだりは読んでいて若干、イライラさせられる。決して、倫理感を振りかざそうというのではない。あまりに幼く狭い考え方に囚われている真菜が歯がゆいからだ。1999年に世界は滅びないし、人生は終わりがくるまでどんな状況になっても続いていくのだ。
機能不全の家庭で、孤独と愛情の欠如の中で育ってきた真菜が痛々しい。援交も自傷行為のようだ。

やがて真菜は不倫関係にあった岸本の子を妊娠、望んだ妊娠ではないが、一人で育てる決心をした矢先にあの震災が起こる‥。放射能や地震の揺れに怯え、一人で追いつめられてゆく真菜。様子を見にきた晶子によって連れ出され、晶子の自宅でしばらく同居することになる。
ここで真菜は初めて普通の家庭を味わうのだ。家族で囲む暖かい食卓。決して料理本に載っているような凝った料理ではないけど、しみじみと美味しく、心と身体に染み渡る。家族がお互いに気遣い、思いやる光景。こんな当たり前なことさえなかったことを感じ、複雑な感情が湧き上がるのを抑えきれなくなる。
晶子に甘えだとわかっていながら当たり散らしたり、岸本に会いに行ったり、父と再会したり…。いろいろありつつ、自分を見つめていく真菜。
晶子と長年の友人である千代子に助けられながら、シングルマザーとして、カメラマンとして生きていくことを選ぶ。

>「どんなにひどい世の中だって、親がいなくたって、子供は育っていくわよ。その子の親はあなたしかいないんだから、あなたが育てたいように育てればいいじゃない。あの人にしてもらいたかったこと、その子にしてあげればいいじゃないの」
「だけどね、あなたが正しいと思ってしてあげたことだって、この子は嫌がるかもしれないよ。いくら親が愛情だと思って、子どもに差し出したって、子どもは毒に感じることだってあるんだから。その子もいつか、母親を憎むかもしれない。‥‥あなたみたいに」
「でも、それでいいのよ。そうやって続いていくんだから」
千代子の言葉が胸を打つ。なんだろう。。涙が出た。


【余談】
真菜の母親のモデルは、あのKさんではないか?と感じたのだが…。苗字も若干似ているし。まぁ、本当のところは作者でなければわからないのだが。

あと、是枝裕和監督のドラマ『ゴーイング マイ ホーム』を思い出した。このドラマにも私立小に通う娘と有名な料理研究家の母が出てくるのだ。
こちらのドラマでは、母親と反りが合わないのは娘ではなく、自分の母親なのだが。「母と娘の確執」は小説やドラマなどの題材にしやすいのだろうか?







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