おもしろ古文書『天候五穀作柄百撰』の3回目、最終回です。
今回は、主に、太陽、月、星、雲など、身近なものと天気との関係を扱っています。
太陽、月、星、雲などの様子から天候を予測することは、相当昔からなされてきたに違いありません。
今回の予知法は、今の私たちにも思い当たるものがいくつかあります。
61年前の朝、燃えるような朱に染まっていた東の空が、今でも目に焼きついています。虫や鳥の音も聞こえず、シーンと異様に静まったなかに、東空だけが赤く輝いていました。そして、真夜中、伊勢湾台風が来襲しました。超大型台風の猛威は、想像を絶するものでした。
⑩
一.朝日の出る時、其色青く見ゆるは、大風大雨のしるし也。
一.朝日の出る時、日の両脇に雲あらバ、大風なり。
一.朝日、天を焦すごとく赤けれバ、風のきさしなり。
一.朝日、あかく地をやくごとく成ハ、雨ふるなり。
一.朝日、黄に見へて雲其下にたな引時ハ、北風吹也。
一.朝日、常より大きく、明らかに雲黄色に見ゆるハ、雷雨大風のしるし也。亦、日に雲まとひたるごとく輪光あらバ、大風大雨のきざしなり。
⑪
一.日出る前に、村雲、南北の方へちるならバ、風吹雨降なり。
一.日の出入に、其色青く見へて雲多くかさならバ、はげしき大風吹なり。
一.入日に、雲おほひたる中より、白気直ニ立のぼりて頭上を越る時ハ、期せずして大風大雨あるなり。
一.入日に、その色べにのごとく紅なるハ、雨なく風吹なり。
一.申ノ時より後、日の両脇に雲あらバ、大風のきざしなり。
一.日出る時、暈ある時ハ雨なり、亦、風吹きざしなり。
一.日暈、朝白く夕に赤きハ、大風石をうごかすなり。
一.暈赤きハ旱、青黄ハ大風、しろきハ風雨、黒きハ大水、紫ハ大ひでりとしるべし。
一.日暈、午ノ時より前に有バ、北風吹なり。午ノ時より後ハ、風しづかなり。
⑫
一.月暈、半邊にて、東方に向へバ風あり、西にむかへバ風雨あり、北に向バ風なり旱なり。月暈二重ハ大風、亦、黒く見ゆるハ雨なり。
一.月の暈、少かたすみにかかり消るハ風也。亦、皆掛りて直に消るハ晴也。二重三重、重り多きほどしるし違ハず。
一.三日月の下に横雲あれバ、四日の内に雨ふるなり。
一.四日月、常よりふとく見へて、亦、うごく様に見ゆるハ、大風大雨のきざしなり。
一.四日月、栗色の輪あらバ風吹なり。
一.月の暈の内にほしあれバ雨降す。
一.月に輪ありて、その中に雲少しあらハ、大風吹なり。
一.月、四星の中に入れバ、大凶作なり。
一.十四日、十五日の満ざるハ、ひてりなり。
⑬
一.十五日前に満月なるハ、大に凶事あり。
一.十五日より後にかげずして満月なるハ、わざハひあるべし。
一.暈、常より大に見へて光りかゝやき、又、うごくやうに見ゆるハ、三日の内きびしき大風吹なり。
一.星に赤き輪あらバ、風吹しるしなり。
一.暈の光、びか/\として定らざるハ、明日風吹なり。
一.暈、月をつらぬけバ、旱りなり。
一.天漢の中に、暈少なき時ハ、大ニ旱りなり。
一.八月に、甲寅日、巳丑日有バ、必、風吹なり。
一.大風、一日一夜ふかバ、百里の風也。二日二夜吹バ、四海半分也。三日三夜吹ハ、四海皆風也。
一.雲きれ/\に成てはやき時ハ、大風のきさしなり。
一.雲形、輪のごとくなるハ、大風のしるし也。其くも遅く消れバ、風少し吹也。
⑭
一.大風、吹んとする時、前日よりかならず水ぬるむなり。又、潮汐(しほ)も同然なり。
一.七月七日ハ、大風を生る日也。
一.毎月四日、十四日、亦、四日、二八日、此四ヶ日を番の風といふなり。此日、子丑に当れバ、雨ふり、亦、卯辰に当れバ風雨也。
一.大風、忽に吹止時ハ、必、返しの風吹也。亦、大風おのからやむ時ハ、返しの風吹さるなり。
一.獣の皮をたたきて、其おと常より酷なる時ハ、大風の印也。
一.一天に雲なるニ晴て青けれバ、二日のうち雨なり。
一.亥卯ノ時に雨はら/\とふりて、軈(やが)て晴る時、卯の時ならバ、其夜又大風大雨あるべし。又、亥の時ならバ、翌日、大風大雨あるなり。
⑮
一.雨、久しく降て晴されバ、丙丁の日かならずはれるなり。
一.久しく晴て雨ふらされバ、戌の日にかならず雨ふるなり。
一.甲申の日に雨降るハ米安し。
一.子辰申ノ時に降出す雨ハ長し。
一.寅卯未戌亥の時にふり出す雨は、ふりふらざるなり。
一.丑巳酉の時に降出す雨は、間なく晴るゝなり。
一.雲の色、火の光のごとく成ハ、大ひてりなり。
一.雷声、先に發して後に雨降ハ、その雨少しなり。
一.雨ふりて後に雷なるハ、雨並び大にふるなり。
一.正月に雷なれバ、大不作にして米大に高し。
一.二月に雷の聲をはつする時、其聲和らかなれバ豊年也。
⑯
一.二月に、雷、丑寅方又ハ東方より起これバ、米安く、其年豊なり。
一.二月に、雷、南方より起れバ、其年ひでりなり。
一.二月、雷、北方より起これバ、其年雨ふる事しげし。
一.春の甲子の日に、雷なれバ豊年也。
一.三月朔日に、雷なれバ豊年なり。
一.三月四日に、雷なれバ大豊年なり。
注:
⑫四星:北斗七星の柄杓の部分?
⑬天漢:天の川
⑯丑寅方;北東方
干支は、年、月、日、時刻、だけでなく、方位などを示すためにも使われました。方位は北から時計回りに、子、丑、寅…で12等分し、北、東、南、西は、子、卯、午、酉、その中間、北東は丑寅、東南は辰巳、南西は未申、西北は戌亥となります。
干支の組み合わせは60種。考えてみれば、人生60年の江戸時代には、ちょうど具合がよかったんですね。
元々は中国由来でしょうが、日本的アレンジで日常の生活に欠かせないものになっていたのでしょう。
それにしても、この古文書、農家向けにしては細か過ぎる気がします。それに、米が高い、麦が安いなどが頻繁に出てきます。どうも商人、それも投機的な商売人向けではないかと思っています。
江戸の人がすごいです。
これだけ解読されて素晴らしいです。
この組み合わせは理数系の世界ですね。
読み、書き、そろばんに、干支、もうついていけません。
よく生きていたと思います(^^;
今では、人工衛星などを使って天気予報がされるようになりましたが、少し前までは、闇の中でしたものね。
昔の人は、この『天候五穀作柄百撰』のようなものを大切にしてきたことがよく分かりますね。