先日、某絵画教室の生徒さんの展示会に行ってきました。
この展示会はここ数年、連続して楽しみに拝見させていただいています。
本来、教室に通う生徒さんたちの主たる目的は自己の描画技術の向上にあると思いますが
今年の作品展は例年に比べると作者の個性が強く出ていて素晴らしい傾向だと感じました。
以前にも申し上げましたが、私の絵画に対する視点はその作品に芸術性を感じるか否かです。
デッサンも構図も色彩もどれをとっても素晴らしい絵画であったとしても心に訴えるものがなければ
いくら技術的に優れた美しい作品であっても装飾用の単なる美術品でしかありません。
精密な写実画なら写真でもそれを代理することができるはずですし、制作意思(思想)が希薄な
風景や人物の写生は芸術とは呼びがたいでしょう。
芸術としての絶対要素『技術・思想・創造力』が存在していれば情感の滲み出る作品が仕上がるはずです。
そんな中で、心を動かされて足を止めてじっくりと眺めたくなる作品の一つを紹介しましょう。
夕闇迫る静かな波打ち際で寄り添う男女のシルエット。
クールな中に暖かさが通う見事な配色で、ロマンティシズムに溢れてます。
何よりも、この絵の中にひとつの物語が感じられます。
(どのように感じ取るかは鑑賞者個人の感性によって様々でしょう)
物語を想像するということは、静止画の中で時が動いている証拠です。
そこに時空があります。
想像するにつれて、この絵画自身が時空を意識しているのが読み取れます。
絵画の持つ二次元という制約を乗り越え、時空(四次元的表現)を感じ取ることができるのです。
静止画であっても、時の経過を感じさせる作品は、そこに芸術としての要素である思想を織り込むことができます。
時空を感じさせることができる作品は素晴らしい芸術絵画といえるでしょう。
余談になりますが、この作品については賛否両論の評価があったそうです。
鑑賞者が的確に作者の思想や制作意思を読み取れるかといえば、それは不可能でしょう。
鑑賞者の趣味趣向(好き嫌い)によって評価の落差もあることでしょう。
極論すれば『ありあわせの乏しい既成知識』でさまざまな評価を受けるのが現実です。
ただ、私が言えることは、この絵画は時空を意識して描かれたものであり、この絵画には
芸術としての絶対要素『技術・思想・創造力』が存在しているということです。
強い情感で訴えかける絵画はどんなに優れた美術的装飾絵画よりも立派だということです。