12月11日はカルロス・ガルデル(1890年)、フリオ・デ・カロ(1899年)の誕生日です。これを記念してアルゼンチンでは、
12月11日が国民的記念日である “タンゴの日” となっています。
今日はこの日にちなんで少しだけフリオ・デ・カロについて述べてみたいと思います。
まずは、彼の代表曲でもある『マーラ・フンタ』を
『マーラ・フンタ』 フリオ・デ・カロ6重奏団
”Mala Junta” Julio De Caro 【YOUTUBEより】
『マーラ・フンタ』はフリオ・デカロとペドロ・ラウレンスが共同で作曲し、フアン・M・ベリチが詩をつけてデ・カロ6重奏団が
1927年に初演したアルゼンチン・タンゴの古典曲です。笑い声や口笛などを取り入れバンドネオンの細かい音のソロが
際立つ名演です。
”Mala Junta”とは「悪い仲間」という意味で場末の下町情緒を醸し出した異色作でもあります。
フリオ・デ・カロは1899年にブエノスアイレスで生まれで、兄弟のエミリオ、フランシスコのと共にタンゴ草創期に活躍した
ヴァイオリニストで、エドアルド・アローラスやオスワルド・フレセドなどの楽団を経てファン・カルロス・コビアンの楽団に
入り、後にコビアンの楽団を引き継ぐ形で1922年にフリオ・デ・カロ六重奏団を立ち上げています。
彼の楽団にはデ・カロ三兄弟の他にペドロ・マフィア、ペドロ・ラウレンス、シリアコ・オルティスなどが在籍し、従来の曲に
大胆なアレンジを加えることによって一世を風靡しタンゴの世界に編曲という概念を定着させました。
これにより場末のダンス音楽であったタンゴにそれぞれの楽団が個性的なアレンジを施す演奏スタイルが流行していきます。
一つの楽譜をコピー演奏するのではなく、それをいかなる素材でいかなる味付けで提供するかがマエストロの腕の見せどころ、
そして聞かせどころになったわけです。
そういった意味で、デ・カロはタンゴ音楽の特性を確立させた功労者であるといわれています。
また、それぞれの楽団の演奏スタイルは『ラ・クンパルシータ』を聞けばよくわかるといわれています。
元は同じ楽譜なのですが、フィルポ、カナロ、ロムート、フレセド、ダリエンソ、ディサルリ、さらにはモレス、プグリエーセ、
トロイロなどそれぞれの編曲によってかなり違ったアレンジになっているのがお分かりいただけると思います。
『ラ・クンパルシータ』 フリオ・デ・カロ6重奏団
”La Cumparsita” Julio De Caro 【YOUTUBEより】
よくよく聞いてみますとこの演奏スタイルは後年のキンテート・レアルに受け継がれているのが分かります。
デカリシモがペドロ・ラウレンスを通じてオラシオ・サルガンへと繋がっているようです。
更には、デ・カロの楽団に身を置いたペドロ・マフィアの門下生であるオスヴァルド・プグリエーセも、呟くようなリズムによる
枯れた演奏を特徴としていて、これもデ・カロの展開だとも捉えることができます。
デ・カロの新しい演奏を目指すという姿勢は、プグリエーセ、トロイロを経てタンゴ表現の原点として脈々と次世代に
受け継がれています。
デ・カロのタンゴ草創期における功績が如何に多大であったかという証左でもあり、デ・カロの誕生日が “タンゴの日”と
されたことについても大いに頷けます。
*****
今日“タンゴの日”はカルロス・ガルデルの誕生日でもありますので、彼の”La Cumparsita”を併せて聞くことにいたします。
『ラ・クンパルシータ』 カルロス・ガルデル
”La Cumparsita” Carlos Gardel 【YOUTUBEより】
*****
追記
アストル・ピアソラが”Decarisimo”(デカリシモ)という曲を作ってフリオ・デ・カロに捧げたということで、一部ではピアソラは
デ・カロの後継者だと言われていますが私はそう思いません。
ピアソラの音楽はバンドネオンを奏でる単なる現代音楽の領域であって伝統あるアルゼンチン・タンゴではありません。
『ロコへのバラード』『チキリン・デ・バチン』などは楽曲としてはよくできているのですがこれでタンゴは踊れません。
タンゴはタンゴのリズムで踊れなければタンゴではないのです。