コールフロイデ 函館 (混声合唱団)

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特別寄稿「病床で考えた繰り言」

2024-07-11 15:10:28 | 番外編
当団の最長老、テナーMさんが入院されていましたが、無事に退院され、また私達と一緒に歌う事ができて一同、大変喜んでいます。
私達にとって、こんな風に穏やかに優しく年を重ねていきたいと目標、憧れにしている団員さんのお一人です。
いつも優しい目線で私達後輩を見守ってくださっているMさんから手記をいただきましたのでご紹介します。

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「病床で考えた繰り言」 2024年6月11日  テナーM

4月19日4時間半もかかった厳しい手術が終わった。手術中の事は何も判らない。
「お父さん大丈夫?」という息子の声と顔が近づいてきた時、意識を取り戻し手術室からICUに収容された。
後日の執刀医の説明では、切り取った大腸の長さは200mm、その中に30数mmのがん病巣が陣取っていた。
病巣の腸壁への深速度は比較的浅くリンパ節も除去した。その為、もっとも懸念していた転移を免れたようだ。

全身に5本のチューブを付けられ、2時間毎の寝返りも看護師の手を借り、ただただ時間の経過だけをじっと待つ2日間だった。
3日目から少しずつ便通(水溶液)とガスが通じ始めた。医師も看護師さんも良い兆候だと我が事のように喜んでいる。私は窮屈な失禁パンツのお世話になりながらも少しずつ人間生活を取り戻した感じがしていたが、本来は誰もが苦手な排泄作業の復活を喜んでいる姿は滑稽でさえある。

気がかりであった手術後の傷の痛みは幸いにも予想より軽かった。
3日目から重湯の中を数粒の米粒が泳いでいる食事が提供された。副食はメニューには「柚子味噌味のトーフ」と書かれていたが柚子の香りも味もしない。
体力回復には欠かせないからと言われたが、食欲は全くないまま箸を取った。

水溶液のような糞便でも便意を催す度にトイレに足を運ぶ。多い日には2桁の回数もあったのではないか。
『大腸がん』を患った患者の最大の悩みはこの便通異常とどう折り合いを付けて暮らしてゆくかにあるように思った。食事は排泄の原因物質だ。人間も動物も生きていれば食事後の生理反応として尿・糞便の管理は避けられない作業だ。
しかし、生活の大部分をそのことに集中している自分の姿を見ると、『シートン動物記』に登場してくるスカラベ君を思い起こす。『スカラベ(たまおしコガネムシ)君』は獣糞を丸めて転がし運ぶコガネムシの一種で、古代エジプト王朝時代は再生・復旧の象徴として崇拝され、エジプト壁画にも度々登場するユニークな昆虫だ。

10年前『前立腺がん』を患った時も、術後の「尿排出の管理」に悩まされた。
そう言えばボランティア活動の一環として副会長の役を10数年担っている『クリーン環境事業運営協力会』の事業も、市内から収集した「缶・びん・ペットボトル」の運用・再生する事業なので、私の生活に宿命的に関わって居るのかもしれないと自分を納得させた。

そうだ、数千年も前から無心に糞を転がし続けているスカラベ君に今度出会ったら、そっと頭を撫でてやろう。


スカラベ君

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