イタリアもいいけど日本の田舎も♥

イタリア好きですが、日本の旅にも目覚めました!

essay vol.2 マイホーム・イン・トスカーナ

2009-10-18 16:17:36 | エッセイ
三年前の夏の終わり、家を建てた。
 会社をやめ、フリーのグラフックデザイナーとして自宅で仕事をするようになって一年。パソコンと周辺機器、本に資料。リビングは修羅場と化し、机の角っこでパソコンの電磁波を浴びながら食事をするのには限界がきていたからである。
 本来ならば都心に事務所を借りたいところだったのだが、夫の「そんなことしたら、帰って来ないに決まってる。体のいい別居じゃないか」の言葉に、渋々新居探しが始まった。
 それまで借りていたところは庭付きメゾネットタイプのテラスハウスだった。一階と二階を物探しで往復するのはもうこりごりだったし、庭は雑草でぼうぼう。だから私は、今度はフツーのマンションがよかった。逆に夫は、管理費がもったいないとか、駐車場代がバカにならんとか言いだし、なかなか意見が合わない。
 いろいろ探しているうちに「分筆可」の土地のチラシを見つけた。早速見に行くと、その土地はブドウ園だった。すぐ横には農業用のため池がある。向かいもブドウ園。言ってみるなら名古屋郊外の「トスカーナ」。
 トスカーナ風というだけで、すっかり心変わりしてしまった。ここに家を建てよう!夫も乗り気である。
 ならば家もトスカーナ風にと考えたが、毎年のように私がイタリアに行っているので、十分な蓄えがない。家を建てたからって旅行をやめる気なんてさらさらない。と、ちょうどハウジングセンターで土地の形状に合わせて建てる格安住宅を見つけて、少しだけ土地を買って、とんとん拍子で決めてしまった。
 安いだけあってか、あっという間に家が建った。そしてあっという間にあちこちに問題が出てきて、半年たった頃、二階の床にそっとおいたビー玉がころがるようになった。少し急ぎ過ぎたようだ。

 名古屋のトスカーナも楽ではなかった。向かいのブドウ園は春の絶好のふとん干し日和に消毒薬をまく。洗濯物も干せない。横の池からは大量の蚊が湧く。ゲジゲジが進入してくる。お初にお目にかかる虫の種類と量の多いこと多いこと。入居して一年もたたないうちに、もう引っ越ししたくなった。
 そんな頃、池にポツンとピンクの大輪の花が咲いた。蓮だ。なんだか得した気持ちになった。蓮は池の表面を覆い、今年は毎日二十輪以上咲いている。
 そして、消毒薬ではご迷惑をおかけしましたと、採れたてのブドウが届くようになった。そのブドウ園の「紅瑞宝」は巨峰より甘さ控えめでさわやかな味だ。歯ごたえもあり実のしまり具合はパスタでいうアルデンテという感じ。すっかり「紅瑞宝」のとりこになってしまった。
 「紅瑞宝」の収穫時には我が家でパーティを開き、お中元も「紅瑞宝」と決めている。
 家の造りはイマイチだが、池の蓮と向かいのブドウ園は、今では我が家の付加価値を上げる大事なお宝になっている。 (二○○二年七月)
エッセイ集『火曜日の森』(中日文化センター「自分史・エッセイ講座」テーマ/私の宝物)より

essay vol.1 イタリア人になりたい!

2009-10-18 16:11:51 | エッセイ
 「ダメって言うなら離婚してやる!」と、決死の覚悟で夫を残してのイタリア行きを宣言したのは6年半前の夏のことだった。
 担当した仕事での、度重なる徹夜仕事で疲れ切った日々が1年ほど続いていた。そんな私を見ていた夫は、このバクダン発言をする前にあっさり承諾してくれたのであった。
 その旅は2週間の短期間ではあったが、フィレンツェで工芸学校を営む校長先生の郊外の丘の上にある自宅で、滞在しながらイタリアの伝統工芸を学ぶという体験型の旅だった。
 庭で3度の食事をし、マーブル紙やテラコッタを作った。もちろんシエスタ(昼の休憩時間)ではお昼寝をした。人々が集まる広場では地元の人たちとのふれあいもあった。
 そして、伝統工芸体験はもとより、イタリア人の国民性に私は惹かれて行った。
 イタリア人はお客がいてもシエスタにはきっちり休んでしまう。かきいれ時の日曜日もお休み。夏のバカンスは2ヶ月もとる。儲けよりも休みを大切にする潔さが心地よかった。
 失業率が高く、ろくに仕事に就けなくとも、話し、食べ、飲み、毎日を楽しそうに過ごしている彼らをみていると、時間に追われて24時間365日、仕事ために自分の時間を犠牲にしている生活に疑問を感じた。
 グラフィックデザインという職業柄、締切り重視。徹夜は当然。家に帰れず何日も風呂すら入れないことだってある。学生のころ夢見たカタカナ職業の、これが実状なのだ。
 自分の時間を確保するためにそれから1年半後、私は会社をやめフリーになった。
 それでも、やっぱり優先順位の1番は仕事になってしまう。
 ダメダメッ!断るべき仕事はきっぱり断ろう。少しづつイタリア人に近付くのだ!
エッセイ集『火曜日の森』より