瀬戸内海に面した田舎町で、阿部寛演じる無骨な父親ヤスと、北村匠海演じる一人息子アキラを中心に繰り広げられる家族の物語。重松清原作「とんび」の映画化。ドラマにもなっていたようだが、原作もドラマも未読未見で全くの事前情報無しで観た。
アキラが幼い時に、事故で母親を亡くし、ヤスが一人で子育てをする。周りの人達に助けられながら、子育てに迷いながら、親子共々成長していく。アキラは母親が亡くなった状況は記憶にない。ヤスからアキラには「事故」としか伝えていない。が、本当は、ヤスの仕事場の倉庫で荷物が崩れ、下敷きになる寸前のアキラを母親が身代わりになっていたのだった。これをヤスはアキラがまだ幼かったので、伝えていない。周りの人もそれを理解して合わせている。大人になって真実を知ったアキラはどんな反応を示すのか。ヤスがアキラを想う気持ちを理解出来るのか。ヤスはアキラに真実を伝えることは出来るのか。
アキラの年少期は、昭和の行動経済成長期真っ只中で、街全体で勢いにのって大きくなり、人や子供が成長していた時代。「アキラはみんなの子じゃけんのう」という広島弁のセリフがあるくらい、街全体が大きな家族のようである。喧嘩しても仲裁役が存在する。温かくて深い愛情を注ぐ行きつけの飲み屋の女将(薬師丸ひろ子演じる女将のエピソードも泣けた)がいる。皆、元気で仕事には真面目。日頃は頼りない幼馴染が肝心な時は、一世一代の大芝居を演じる。今の時代(特に都会)では体験しないであろう状況が身近にある。この状況は、この時代だからだろうか。昭和~平成~令和と受け継いでほしい。今の子供達は理解出来るのか。ほんの少し前の話なのに、別の国みたいだ。国を挙げてがむしゃらに頑張っていた時代設定から始まるからかもしれないが、余りにも真正面から描かれるので、眩し過ぎる印象(優等生みたい)が残った。
後半に、ヤスの幼友達の父親の住職がアキラに綴った手紙で、母親が亡くなった状況と、アキラのことを想い、嘘を付いていたヤスを「許してあげてほしい」と書かれ、アキラに伝わる。アキラが想いをきちんと受け止めたことには安堵と共に涙した。20年くらい掛かったかな。でも、受け取る側がきちんと理解出来る状況には必要だった年月だろう。その気持ちをアキラは、自分の子供達にも伝えていくことだろう。
(kenya)
原作:重松清「とんび」
監督:瀬々敬久
脚本:港岳彦
撮影:斉藤幸一
出演:阿部寛、北村匠海、杏、安田顕、大島優子、濱田岳、宇梶剛士、尾美としのり、吉岡睦雄、宇野祥平、木竜麻生、井之脇海、田辺桃子、田中哲司、豊原功補、嶋田久作、村上淳、麿赤兒、麻生久美子、薬師丸ひろ子