アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第25回東京フィルメックス:Day 2

2024-11-25 | アジア映画全般

Day 2の11月24日(日)は、3本の映画を見てきました。

『サントーシュ』
 2024年/インド、イギリス、ドイツ、フランス/120分/原題:Santosh संतोष
 監督:サンディヤ・スリ
 主演:シャハーナー・ゴースワーミー、スニーター・ラージワル

©Oxfam

字幕を担当した作品で、2,3日前まで字幕製作会社アテネフランセ文化センター制作室の担当者さんといろいろやり取りしていた作品なので、たくさんの観客の方が見て下さってまずは嬉しさいっぱい。警察の拷問シーンなどがあるので、どうかな、と思っていたのですが、シーン、という感じで皆さんご覧になっていました。巡査である夫を暴動で亡くし、遺族枠で女性巡査になった主人公サントーシュが、ダリト(被差別カースト)の15歳の少女レイプ殺人事件を捜査する中で、村のいろんな真実に気づいていく、というストーリーです。警察や支配層のいやらしさもたっぷり描き、主人公にも共感できない感じを持たされるのですが、ラストで少し救いがある、というシビアな作品で、よくインドの農村でこれだけの映像が女性監督、しかもイギリス在住インド人という監督の手で撮れたものよ、と感銘を受ける作品でもありました。

Q&Aに登場したサンディヤ・スリ監督は、映画からは思いも及ばないチャーミングな女性で、そのギャップに驚きました。監督が本作を作るきっかけになったのは、2012年にデリーでバスに乗っていた若い女性がレイプされ、殺されるという事件があったのですが、その時大きな抗議運動が起き、それに対処する女性警官が複雑な表情をしていたことから、主人公を女性警官にする物語が浮かんだそうです。

舞台となった北インドはヒンドゥー教勢力が強いエリアで、タペストリーのように宗教、カースト、女性差別などが日常生活の中に組み込まれている地域であり、こういう社会構造の中で女性警官を描くとしたらどうなるのか、というところから、今回の作品に繋がっていったようです。ある種の日常的な暴力にさらされている場所、という表現が印象に残りましたが、そういう不穏さが作品の中にもずっと流れている感じです。

あと、「主人公が上司の飼っている犬を散歩させるシーンで、石像みたいな物があり、カバーが被されていたのですが、あれは何だったのでしょう?」といういいご質問が出て、私も答えに聞き耳を立てました。下に画面を家でカメラ撮りしたそのシーンを付けておきます。

「あの像はアンベードカルの像です。インド人以外にはわからないかと思いますが、カバーをかけられたあの像は、インド人が見るとアンベードカルだとわかります。カーストが上の方の人たちにとっては好ましくない像、ということですね」ビームラーオ・アンベードカル(1891-1956)は被差別カースト出身で、父の後押しもあってイギリスやアメリカの大学で学び、帰国後はインドの独立に向けての制度作り等に貢献し、インド憲法起草案作成も行いました。同時に、被差別カースト解放運動も推進し、亡くなる2ヶ月前にはカースト制度のくびきの元となっているヒンドゥー教から仏教に改宗、現在はダリトと呼ばれる被差別カーストの人々にとっては解放のシンボルとして、各地に銅像や胸像が作られています。

 Q&Aの最後に「会場の写真も撮りたいわ」とセルフィーするサンディヤ・スリ監督。終了後は外でお嬢さんらしきお子さんと一緒に、サインをもらうファンに対応しておられました。

                                 

『椰子の高さ』
 2024年/日本/100分/原題:The Height of the Coconut Trees
 監督:ドゥ・ジエ
 出演:

日本を舞台にした2組の男女の、恋物語&幽霊話&自殺の影、とでも言えばいいのか、全然私向きではない作品(笑)でした。というわけで、上映後のQ&Aをパスしてしまいました。

 

『未完成の映画』
 2024年/シンガポール、ドイツ/107分/原題:An Unfinished Film  
 監督:ロウ・イエ(婁燁)

©Yingfilms Pte. Ltd.

ある日、10年前のハードディスクが見つかり、その中に収録されていた10年前の作品が脚光を浴びることに。音声が付いていない映像だったのですが、ちゃんと音声入りの映像をキープしていたスタッフもおり、監督(毛小睿)はその作品をこのままうち捨てるにはもったいない、と思うようになります。そこで、10年前の主演俳優である江誠(秦昊)を呼び出し、何とかこの作品を完成させたい、と説得します。江誠は妻が妊娠中で、間もなく子供が生まれるため、その期間は仕事をセーブすることにしており、また春節(旧正月)もあることから、撮影に協力することを承諾します。こうして春節直前まで、あるホテルを拠点にして撮影が続くのですが、そのうち武漢で新型コロナウィルスの患者が発生し、中国政府は隔離政策を強行し始めます...。

©Yingfilms Pte. Ltd.

いやー、も~のすごく面白い作品でした。ドキュメンタリー映画かな、という感じで始まり、若い秦昊の映像などを懐かしく見ていたら、パンデミックの混乱がどどっと襲ってきて、「これ、本当にあの頃の映像? いや、誰かが撮っているんだからフィクションでしょ?!」等々、見ている側の気持ちも揺らぎながら、手に汗握るような展開を追いかけていくことになります。「欺された」と言うべきでしょうか、すっかり映画に取り込まれてしまうという、近頃ない興奮を味わわせてもらった秀作、快作、怪作?でした。金馬奨の最優秀作品賞と監督賞を獲得したのも納得のこの作品、まだ1回上映がありますので、ぜひご覧になってみて下さい。作品サイトはこちらです。

ロウ・イエ監督のQ&Aも写真だけですがアップしておきます。内容が書けるのはいつの日か...。

気難しそうな監督でしたが、最後に退出する時はいい笑顔が出ました。


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