太平洋戦争中の九州・軍艦島を舞台にした韓国映画『軍艦島』(2017)を見てきました。軍艦島(ぐんかんじま)は実際の地名を端島(はしま)と言い、1810年に石炭が発見されて以降炭鉱の島としての役割をずっと担ってきたのですが、1920年前後からその外観により「軍艦島」と呼ばれ始めたのだとか。1970年代に炭鉱が閉山し、その後はうち捨てられていたこの島は、廃墟ブームなどが手伝って保存の声が上がり、「明治期の産業革命遺産」として2009年にユネスコの世界遺産に登録されたのはご承知の通り。しかし、韓国では世界遺産登録に対して反対の声が上がり、2015年には韓国政府が反対の意志を表明するまでになりました。なぜ韓国でこういう声が出るのか、ということを裏打ちする作品が『軍艦島』になるはずでしたが...。
物語は、1945年の2月から始まります。軍艦島から脱出して、長崎まで冬の海を泳いで渡ろうとする朝鮮人青年2人が監視船に捕らえられたあと、舞台は日本植民地下の朝鮮半島になります。楽団を率いるイ・カンオク(ファン・ジョンミン)は、娘のソヒ(キム・スアン)をボーカルにしたジャズ演奏などが得意でした。ちょっとゴタゴタを起こしたカンオクは、警察の偉いさんから紹介状をもらい、楽団を率いて日本本土へと渡ることにしました。同じ船には、ヤクザのチェ・チルソン(ソ・ジソプ)を始めとする大勢の男女が乗り合わせていましたが、下関に着くと朝鮮人たちは強制的に貨車に詰め込まれ、どこかへ運ばれていきます。さらに船に乗せられ、着いたのは長崎県の軍艦島でした。そこで男たちは炭鉱労働に従事するために劣悪な環境の宿舎へ、女たちは娼婦宿へと有無を言わさず放り込まれます。まだ幼いソヒも娼婦宿に入れられ、化粧をさせられてお酒の席へ。島の責任者に気に入られたソヒは彼の家の使用人になり、父のカンオクも持ち前の要領良さを発揮して、宿舎の裏経済をがっちり握る男となりました。
朝鮮人たちの中では、みんなから「先生」と呼ばれている年配のマルニョン(イ・ジョンヒョン)が精神的リーダーでしたが、一方チルソンも、それまで顔役として君臨していた朝鮮人にタイマンを挑んで勝利を収め、新たな顔役となりました。とそこへ、朝鮮独立を目指して活動する組織から、若いリーダーのパク・ムヨン(ソン・ジュンギ)が送り込まれてきます。ムヨンはマルニョンと連絡を取るよう言われていたのですが、だんだんとマルニョンの行動に疑問を感じ始めます...。
撮影時には韓国に大規模なセットが作られたらしく、炭鉱内部や宿舎の描写、さらには軍艦島内各所の描写は実に迫力があります。しかし、1945年8月15日の日本敗戦直前に起きたことになっている朝鮮人の大量脱出と、それに伴う日本人との戦いはかなりの部分がフィクションのようで、時代考証や事実確認は置いておいて、アクションやドラマの見せ場を作ることが優先されたのでは、という印象を受けました。見ていて思い出したのは、秋田の花岡鉱山で1945年6月30日に起きた中国人労働者800人の決起事件で、この事件の経緯がかなり本作に取り入れられているのではないか、という気がします。軍艦島への強制連行と苛酷な労働、というだけでは物語にならない、と判断されたのかも知れませんが、歴史的事実だけに依拠してもドラマチックな作品は作れたはずで、これはアクション映画を得意とするリュ・スンワン監督の限界だったのかも知れません。時代考証という点から言うと、下関港では戦争末期なのに日本髪を結ってちゃらちゃらした着物を着た女性が何人か登場するなど、あ~あ、の部分もいくつかあって、その点も残念でした。
ただ、フィクションとして見るとどの人物も造形が面白く、それぞれしっかりした俳優によって演じられているので引き込まれます。中でも子役のキム・スアンは、『新感染 ファイナル・エキスプレス』(2016)とは180度違ったおしゃまで活動的なソヒを絶妙の演技力で体現しており、彼女が主役と言ってもいいほどです。ジャズを歌い、ファン・ジョンミンとタップのステップを踏み、スカート姿で連続横転までしてしまうのには、もう拍手喝采したくなりました。表情も豊かで表現力も抜群、これは主演女優賞を上げてもいいのでは、と思います。そういう見所も多い作品なのですが、日本人の描写が「鬼畜」一辺倒な点が作品をうすっぺらなものにしているなど、残念な所も多くてちょっと期待外れでした。う~ん、日本で公開されるでしょうか...。最後に予告編を付けておきます。
'군함도' 캐릭터 예고편
'군함도' 메인 예고편
「軍艦島」、CGVピカデリー土曜の2215の上映回で見ましたが、観客は10人くらいでした。
うーむ、いくらフィクションとはいえ、あんまりな話と、思うのは、私だけでないでしょう。
キムスアンがタップダンスし、唄うシーンが良かったなんて言うのは、的外れなコメントでしょうか。
「タクシードライバー」も見ました。
ソウルから、光州事件を取材する外国人ジャーナリストを乗せるタクシー運転士の、史実を基した話しですが、「軍艦島」と、こちらも見て見ると、良いかもしれません。
ソウルで『タクシー・ドライバー』をご覧になったとはうらやましい。
タイでお世話になった私の友人のご主人が韓国語の専門家で、『タクシー・ドライバー』を勧めて下さっていたものですから、シンガポールで見られるかもと楽しみにして来たのですが(実は私もバンコクを離れて、シンガポールに到着しました)、残念ながらやっていないようです。
ここでの主力は、タミル語映画になりそうで、ダヌシュとカージョルの共演作、それにヴィジャイ・セードゥパティとマーダヴァンの共演作が見られそうです。