昨日、新宿シネマカリテで『コール・ミー・ダンサー』12:00の上映回終了後に、30分ほどのトークをさせていただきました。おいで下さった皆様、ありがとうございました。トーク後にもロビーでご質問とかに対応させていただいたのですが、こういう点を理解しておいて下さるとこの映画は見やすいかも、と思ったことがあれこれあったので、昨日のトークと併せてメモにしておきます。その前に、この映画のデータをどうそ。
©2023 Shampaine Pictures, LLC. All rights reserved.
『コール・ミー・ダンサー』 公式サイト
2023年/アメリカ/英語/84分/原題:Call Me Dancer/字幕翻訳:藤井美佳
監督:レスリー・シャンバイン、ビップ・ギルモア
出演:マニーシュ・チャウハン、イェフダ・マオール
配給:東映ビデオ
※11月29日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開中
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①『コール・ミー・ダンサー』と劇映画『バレエ 未来への扉』
・『バレエ 未来への扉』のデータは以下の通り。
2020年/インド/ヒンディー語/117分/原題:Yeh Ballet(このバレエ)
監督:スーニー・ターラーポールワーラー
出演:ジュリアン・サンズ、マニーシュ・チャウハン、アチントヤ・ボース*、ジム・サルブ
配信:Netflix
*お詫び:もう一人の少年ダンサーであるアーミル役も、本人がやっているのだと思っていました。Achintya Boseというチャンディーガル出身の少年だったことが、今、調べてわかりました。昨日のトークでは間違った情報をお伝えしてしまい、お詫びします。
・大筋は事実にもとづいているが、細部が様々に変更されている。
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②インド舞踊とバレエ
・インド古典舞踊~バラタナティヤム、カタカリ、オディッシー、マニプリなどでは、他のアジア舞踊(日本舞踊やバリなどインドネシア舞踊、タイ舞踊など)と同じく、踊るためのポーズは体の重心を下げる。
・カッタク(カタック)~イスラーム王朝の宮廷で踊られた舞踊で、この舞踊はバレエと同じく体の重心が上にくる。だが、つま先立ちはせず、足の動きも旋回をしたりするバレエとは異なるステップとなる。⇒<参考>イギリス映画『ポライト・ソサエティ』に登場する、主人公がクライマックスシーンで踊る踊りがカタック舞踊。
・インド人は、足/脚を出さない=あからさまに見せないのが普通。従って、カタックの舞踊手はスパッツ状のものをつけて、その上からドレスを重ねる。女性の場合は、胸もその形をあからさまに見せない、という服装コードがあり、そのためサリーの布を胸に掛けたり、サルワール・カミーズやクルター・パジャマなどの丈の長い上着+ズボン、あるいはガーグラー・チョーリーというブラウスとロングスカートという組み合わせの場合は、胸にドゥパッターと呼ばれるショールやスカーフを掛ける。
・従って、バレエの衣装を着るのは相当勇気が必要となるが、『コール・ミー・ダンサー』を見るとバレエを学ぶ人も多くなっているように見受けられる。
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③インド映画のダンスシーンの変化
・1990年代から、インド映画のダンスシーンにヒップホップダンスなどストリート系のダンス振り付けが盛んに取り入れられるようになった。
・マニーシュがダンスをしたいと思ったきっかけも、アクシャイ・クマール主演作『Aflatoon(自信家の変人、ぐらいの意味)』(1997)のダンスシーンを見てからである。
"Aflatoon Aflaoon [Full Song]" | Aflatoon | Akshaye Kumar
④ダンスのリアリティ・ショー番組
・1990年代半ばに衛星放送がインドでまたたくうちに広まり、21世紀に入るとリアリティ・ショー(視聴者参加)番組が「クイズ・ミリオネア」、インドでのタイトルは「Kaun Banega Karodpati(誰が千万長者になるか)」を筆頭にたくさん作られるようになった。特に人気があるのが、歌やダンスのコンテスト番組で、マニーシュが参加した「Dance India Dance」のほか、「India's Got Talent」↓、「Nach Baliye(踊って)」など、素人が1人、あるいは複数で見事なダンスを披露する番組が多く作られている。
'BamBholle' पर इस Act से Golden Girls ने किया Judges को Impress| India’s Got Talent 10| Full Episode
⑤マニーシュがソロダンスのデビュー曲に選んだのは、ラージ・カプール(ランビール・カプールの祖父)監督・主演作『詐欺師』(1955)の曲「♬Mera Joota Hai Japani(私の靴は日本製)♬」↓。「私の靴は日本製、このズボンはイギリス製、頭の赤い帽子はロシア製、でも心はインド製」という歌詞である。
Mera Joota Hai Japani | Shree 420 (1955) Raj Kapoor | Mukesh | Shankar-Jaikishan Songs
⑥『コール・ミー・ダンサー』が伝えるもの
・イェフダ先生からダンスを学んだレスリー・シャンパイン監督による、映像と音楽との響き合いが素晴らしい。
・マニーシュとイェフダ先生の間に成立する「グル・シッシャ・パランパラー」が感動的。インドの伝統芸能に存在する「グル(教師)」と「シッシャ(弟子)」の心が結びつく「パランパラー(伝統)」という概念だが、外国人教師であっても心を通わせ合う姿は「グル・シッシャ・パランパラー」そのもの。
・インドに特有の家族愛、コミュニティ愛が描かれていて、それも見る人の心を打つ。
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以上のようなことをお話したりしたのですが(一部は終了後ロビーでお話した内容も含まれてます)、最後に『コール・ミー・ダンサー』日本公開にあたってのヴィジュアルの素晴らしさにも触れました。IMDbに出ているオリジナルのポスターは左のものなのですが、これが日本版チラシや劇場用パンフレットの表紙ではこんなに美しく変身するのです! GJ、東映ビデオさん なのでした。
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昨日いらしていた東映ビデオの担当者さんにうかがったところ、あるスタッフの方が『バレエ 未来への扉』をご覧になっていて、そのドキュメンタリー映画ができている、というので提案なさり、買い付けて下さることになったとか。字幕担当が藤井美佳さんになったのも、その方が「インド映画なら藤井さん」と紹介して下さったからのようで、「英語に一部ヒンディー語も混じっているので、ヒンディー語ができる字幕翻訳者さんならお一人でお願いできると思い、依頼したんです」とのお話でした。お陰で固有名詞表記の間違いもまったくなく、素敵な字幕でいい作品がよけいに輝きを増しました。まだご覧になっていない方は、ぜひ今週、劇場においでになってみて下さい。美しいチラシは残念ながらもうありませんが、劇場用パンフレットを買っていただければこのヴィジュアルをご自分のものにできます。マニーシュ君やイェフダ先生、そしてレスリー・シャンバイン監督のインタビューも掲載されていますので、読み応えがあります。舞踊評論家の乗越たかおさんのコラムも詳しくて驚きますが、1箇所だけ間違いが。「ウダイ・シャンカール」とあるのは正しくは「ウダイ・シャンカル」です。こちらとかこちらとかこちらでご紹介したインド映画映画『カルプナー(空想)』(1948)の監督・主演ですね。インド映画ファンなら必見の『コール・ミー・ダンサー』、お早めにぜひ劇場でご覧ください。