昨日は、日本シンガポール協会と日本香港協会とが共催して下さった集まりで、久々に香港映画の話をしました。香港映画だけでなく、中国・台湾・シンガポールの映画も含んだ「中国語圏映画の現在と未来」という話だったのですが、香港映画を中心にこれらの映画界の動向をまとめてみて、私自身とっても勉強になりました。
最近の中国語圏映画の大作は、これら4つの土地と、時には韓国・日本を加えたそれぞれの映画界から、様々な人材が集まって作られることが多くなっています。それらの作品をまとめて俯瞰してみると、監督は香港から、主演男優も香港から、主演女優は中国・台湾から、若手の脇役は台湾、シンガポールから、というパターンが見て取れます。もちろん全部そうだというわけではありませんが、何となく中国語圏の中で役割分担ができつつある感じがするのです。ですので、このパターンからはずれる俳優さんたちにとっては、活躍の場が狭まっている気もします。もっと中国から華のある主演男優役が出てきたり、香港から光る若手男優が出てきたりしてほしいですね~。
さらに昨日は、香港映画の二極化に触れて、香港映画は前述のような大作と、香港らしいテイストを持つ低予算映画に分かれる、という話もしました。香港テイスト作品と言えば、筆頭は杜[王其]峰(ジョニー・トー)監督作品。彼の周辺にいる韋家輝(ワイ・カーファイ)、羅永昌(ロー・ウィンチョン)、游乃海(ヤウ・ナイホイ)、鄭保瑞(ソイ・チェン)らの監督作も含めて、ジョニー・トー組の作品は香港のロケがふんだんに使われているのが何よりも魅力的です。「俳優よりも香港の街自体が主役」と昨日言ったら、大きくうなずいて下さった方が何人もいらっしゃいました。
その、香港の街が主役の作品が近々2本公開されます。
『アクシデント』(2009/香港/原題:意外/カラー/86分) 公式サイト
監督:鄭保瑞(ソイ・チェン)
<配役>
ブレイン(ホー):ルイス・クー (何國輝 / 大腦)古天樂
フォン:リッチー・レン (芳洲)任賢齊
女:ミシェル・イエ (女人)葉璇
おやじ:フォン・ツイファン (阿伯)馮淬帆
太っちょ:ラム・シュー (肥佬)林雪
フォンの妻:ハン・ユィチン (芳洲太太)韓雨芹
ブレインの妻:モニカ・モク (大腦太太)莫小棋
提供:キングレコード
配給:ブロードメディア・スタジオ
協力:東京フィルメックス
◎10月8日(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!
2009 Media Asia Films(BVI)Ltd.All Rights Reserved.©
原題「意外」は日本と香港では意味が違う言葉の一つです。日本では「意外に知られていない」とかいう使い方をしますが、広東語では日本語の「意外」の意味も持つものの、「事故」「アクシデント」の方が第一義です。この映画は、まさにその「意外」と見せかけて、人を殺すプロ集団が主人公となります。 冒頭に展開される殺しの現場は、見事としか言いようがありません。少しでも時間が狂っていれば、少しでも登場人物たちが違う動きをしていれば、ラストの殺人はあり得ないという、ドミノ倒しのような殺人。途中倒れないドミノが出現したら、それだけでアウト。そうならないよう、リーダーのブレイン(ルイス・クー)は緻密&綿密な作戦を立てるのです。そのあざやかな手腕が見られる前半と、あまりに緻密さを追求するがゆえにブレインが破綻していく後半との対比も鮮やかです。 香港の街が主人公、というのはこの映画でも言えることで、ここは北角? これは確か中環のビル...等々、懐かしい香港の風景がいっぱい出てきます。香港の街好きの方は、お見逃しなく。 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
『密告・者』(2010/香港/原題:綫人/カラー/115分) 公式サイト
監督:林超賢(ダンテ・ラム)
主演:謝霆鋒(ニコラス・ツェー)、張家輝(ニック・チョン)、桂綸[金美](グイ・ルンメイ)、陸毅(ルー・イー)
提供:キングレコード
配給:ブロードメディア・スタジオ
協力:東京フィルメックス
◎10月29日(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!
(C) 2010 Emperor Classic Films Company Limited Huayi Brothers Media Corporation All Rights Reserved.
こちらは、毎度ヘビーなバイオレンスで知られるダンテ・ラム監督の作品です。日本では公開されていませんが、2010年の香港国際映画祭で上映された『火龍』もすさまじかったです。『密告・者』もまた、特に最後のアクションシーンがハンパではありません。とてもイタイ映画です。
ストーリーは、警官(ニック・チョン)が刑務所から出たばかりの青年(ニコラス・ツェー)を説き伏せて、綫人=情報提供者となることを承諾させ、凶悪な犯罪者(ルー・イー)を捕らえようとする、というものです。犯罪者の情婦(言い方が古いですかね~)役がグイ・ルンメイで、酒は飲むは、タバコは吸うは、アブナイ格好はするはの汚れ役。さらに最後ではボコボコにされてしまうという、私が知る限りではルンメイちゃん初の汚れ役です。見ていて痛々しく、ルンメイ・ファンなら涙目になること請け合いです。
警官もスーパーヒーローではなく、心に瑕を負っている設定で、これまた痛々しい。ニコラスの役も生傷が絶えない情けない役で、ちょっとすねたような眼差しで負け犬を実に上手に演じています。ニコラス、ひねくれ者が上手くなりすぎてきてるような気がして、ちょっと不安です....。
私の一番好きなシーンは、ニック・チョンがリンゴを囓るシーン。ここはまさに「危機一髪」なところで、脚本の巧みさにうならされました。暗さが勝っている映画ですが、脚本がしっかりしているので見応えがあります。この映画にも香港の街のあちこちが登場し、ラスト直前の逃避行シーンはひょっとしてこれ調景嶺でしょうか? 本当にドンぴしゃのロケ地を捜して来ますね、ダンテ・ラム監督。
香港映画は2010年の年間製作本数が54本だそうですが、その中身は実に濃~いことがわかる2作品です。夜のシーンも多い両作品なので、ぜひ劇場のスクリーンでご覧下さいね。
「香港の街が主役」。
まさにその通り!と思った次第です。
いつも「ここはどこかな?」と通りの表示板を探しながら見てしまいます。
このところ、ドニーの映画公開が続いてますがそれだけじゃなくもっとたくさん日本で公開になることを願っています。
香港映画のロケ地は、ブログでも皆さんよく取り上げてらっしゃいますね。街だったり、氷室等のお店だったり、よくご存じだなあ、と感心しながら眺めています。ロケ現場に、一度ぐらい遭遇してみたいです....。