ボリウッド映画『ストリートダンサー』の予告編がアップされました。まずは、上手に作られたその予告編からどうぞ。
映画『ストリートダンサー』予告編
「上手に作られた」の意味は本編を見てもらうとわかるのですが、日本版予告編はインド版予告編を何カ所かカットしてあり、インド版よりもさらに「ダンスコンペの映画」テイストが強くなっているところが「高評価」なんですね。そう、この映画、ロンドンに住むインド系とパキスタン系のダンスグループが、当初は反目し合っていたものの、やがて手を携えてというか足並みを揃えてダンス・コンテストに挑む、という華やかな筋書きの裏に、インド人ディアスポラ(故郷を離れた人)の悲哀も秘めている、という骨のある作品なんです。
©Remo D’Souza Entertainment ©T-Series ©UTV Motion Pictures
上のシーンは予告編にも出てきましたが、インド系のサヘージ(ヴァルン・ダワン)らのダンスグループと、パキスタン系のイナーヤト(シュラッダー・カプール)らのダンスグループが、ラーム(プラブデーヴァー)の経営するクラブでクリケットの印パ戦を見ていて争いになり、大乱闘寸前、という時に警官(ムルリー・シャルマー)が入ってきたため、仲良しを装う、という場面です。このシーンでは、彼らが注文した食べ物を投げ合っての喧嘩となり、ドーナツが飛び交ったりするわけですが、ロンドンでの彼らの裕福な生活(どちらの家族も結構豪邸に住んでいる)やこの食べ物を粗末にするシーンに、最初見た時はつい批判的な目になってしまいました。ところがところが、レモ・デソウザ監督と脚本家たちはちゃんとロンドン生活の影の部分も用意していて、上手にバランスの取れた作品に仕立てています。影の部分で印象的な演技を見せるのがシク教徒役のアパルシャクティ・クラーナーで、『ダンガル きっと、つよくなる』(2016)の気の弱い従兄役演技を憶えておられる方も多いはず。このアーユシュマーン・クラーナーの弟クン、弱者を演じさせたらとても上手な役者なんですね。というわけで、『ストリートダンサー』でも塩味を効かせてくれています。ご注目下さい。
©Remo D’Souza Entertainment ©T-Series ©UTV Motion Pictures
主演の3人のプロフィールは公式サイトに...と思ったら、公式サイトがまだのようですね。今しばらくお待ち下さい。その代わりに、ちょっと面白い写真とご紹介を付けておきましょう。
©Remo D’Souza Entertainment ©T-Series ©UTV Motion Pictures
まず、ヒ-ロー役のヴァルン・ダワン(上写真右から2人目)ですが、彼の父デヴィッド・ダワン(本名:ラージンダル・ダワン)は1990年代から2000年代の初めにかけて、ヒット作を次々と世に出した人気監督です。特にゴーヴィンダーと組んだコメディ映画の数々はいずれも大ヒットして、10数年間稼ぎまくりました。その頃に父と母、そして現在は『ディシューム』(2016)等の監督として知られる兄ローヒトと共に撮られたヴァルン・ダワンの写真が下のものです。1987年生まれで、この頃多分10歳前後と思われるかわいいヴァルン君、将来スターになる運命だったのかも。どっちかというとお母さん似でよかったね。デビュー作は2012年のカラン・ジョーハル監督作『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え! No.1!!』で、日本でも公開され、ソフトも出ています。他に映画祭上映作品としては、『ヒーローは辛いよ』(2014)、『復讐の町』(2015)、『ディシューム』、『バドリナートの花嫁』(2017)があります。今回も力強いダンスと達者な演技を見せてくれますので、お楽しみに。
Photo by R.T.Chawla
続いてシュラッダー・カプールですが、彼女は『愛するがゆえに』(2013)から始まって、『サーホー』(2019)、『きっと、またあえる』(2019)など日本公開&ソフト化作も多く、もう説明は不要でしょう。シュラッダー・カプールもまた、父親が有名俳優のシャクティ・カプールという二世スターです。シャクティ・カプールは1980年代には悪役俳優として名を馳せていたのですが、1990年代に入り、デビッド・ダワン監督作品でコメディアンとして大ブレイク、主役のゴーヴィンダーを引き立てる名脇役として活躍しました。1989年生まれのシュラッダー・カプールはそんな父親を見て育ったわけですが、実は彼女の母親も、1980年代のトップ女優パドミニー・コールハープレー(コールハープリーとも表記)の姉で、きれいな人です。名前はシヴァーンギーと言うのですが、パドミニーの下の妹テージャスウィニー・コールハープレーも女優で、舞台と映画で活躍しています。そんな環境に育ったので、シュラッダー・カプールの女優デビューも必然的、という感じでした。下の写真は以前にもブログで使ったことがあるのですが、右から父シャクティ・カプール、母シヴァーンギー、シュラッダー・カプール、そして叔母のテージャスウィニー・コールハープレーだと思います。これから数年後に磨きを掛けて、2010年に『Teen Patti(スリーカード)』でデビューしたわけですが、現在アーリアー・バットら同期の女優たちが次々結婚してしまったため、1人ボリウッドで気を吐いている、という感じでがんばっています。アクションもこなせる身体能力の高さを発揮して、ダンスもお見事ですが、レモ・デソウザ監督はモロッコ系カナダ人の女優ノラ・ファテーヒーを助演に起用、2人のダンス対決も見ものとなりました。
Photo by R.T. Chawla
そんな若手3人にダンスの見せ場を譲りながらも、出てくると観客の目を奪うダンス名人はクラブのオーナーを演じるプラブデーヴァー。私が「恐怖のタコ人間」と呼んでいる(^^)異常に柔軟な身体を持ち、カルナータカ州マイソールの出身なのにインド人とはちょっと思えない顔つきをしている彼は、1990年代のタミル語映画を面白くした名優の1人でした。今回調べてみて、映画デビューがマニラトナム監督作『沈黙の旋律(ラーガ)』(1986)だとわかって驚きましたが、タージマハルそばで撮られたソング&ダンスシーンで、笛を吹く少年(1973年生まれなので、撮影当時12,3歳)というチョイ役で登場していたそうです。父親がムーグール・スンダルという振付師だったので、それで起用されたのかも知れません。その後、ダンサーとして何本かの映画に出た後、1994年に『Indhu(インドゥ)』で俳優デビュー。続く同年の『Kaadhalan(恋人たち)』で人気が沸騰しました。その頃のプラブデーヴァー、こんな感じでいつもふにゃふにゃ度がすごかったです。
©Filmnews Anandan
以後、人気スター兼トップダンサー&振付師、さらには監督としても活躍しているプラブデーヴァーですが、彼のテーマソングといえば『Kaadhalan』の中の「♫Mukkala Mukkabla」で、『ストリートダンサー』の中でも流れています。そのクリップをどうぞ。相手役はナグマーで、スーリヤの妻である女優ジョーティカーの父親違いの姉です。
Mukkala Mukkabala HD Video Song | Kadhalan | Prabhudeva | Nagma | A.R. Rahman | Pyramid Audio
ところで私が一番好きなのは、ダンサーとして出演した『Gentleman』(1993)のナンバー「♫Chikku Bukku」で、アニメとの合体が当時とても面白く、このクリップだけ何度見たかわかりません。本当の主演はアルジュンとマドゥバーラーで、『Kaadhalan』と共にS.シャンカルの監督作です。これらの作品のあと、シャンカルは『インドの仕置人』(1996)、『ジーンズ 世界は2人のために』(1998)と、娯楽映画のトップ監督となって近年の『ロボット』(2010)、『ロボット2.0』(2018)のヒットへと繋がっていくのですね。
AR Rahman Hit Songs | Chikku Bukku Video Song | Gentleman Tamil Movie | Arjun | Prabhu Deva | Madhoo
この『ストリートダンサー』を機に、ぜひプラブ「恐怖のタコ人間」デーヴァーにもご注目下さい。そんな注目ポイントがいくつもある『ストリートダンサー』、早く大画面で見たいものです。公開は3月1日(金)からです!