生カツオ、店頭から姿消す=寄生虫不安で解凍品増加
旬を迎えたカツオの販売に異変が起きている。この時期は通常、鮮度を売りにした近海の生カツオが店頭に並ぶが、今年は遠洋の解凍物や表面を火であぶった「たたき」などの加工品が幅を利かせている。小売店が寄生虫被害を心配して販売を手控えたため。江戸時代から食通に愛された新鮮な旬の味が食卓から遠のいている。
春から初夏に漁獲される「初ガツオ」は5月以降、伊豆諸島周辺で漁獲が活発化。東京・築地市場(中央区)にも今月上旬は、昨年をやや下回るが1日35トン前後の安定した入荷が続く。卸値は主力の千葉県産の小型が1キロ当たり400円前後と、ここ数年の中でも安値で推移。販売面では好条件がそろっている。
しかし、今年は春先から寄生虫のアニサキスによる食中毒被害が各地で頻発し、厚生労働省もホームページで注意を呼び掛ける。アニサキスは冷凍や加熱処理で死滅するため、多くの量販店が消費者心理に配慮して、生カツオから解凍物などに切り替える動きが加速。ある小売り関係者は「万が一、寄生虫などのクレームが出れば、店の信用を失いかねない」(首都圏の大手スーパー)と生カツオの扱いを自粛した理由を打ち明ける。
解凍カツオの首都圏の店頭価格は、2〜3人分の1パックが700円前後で、生カツオ並みか、やや割高な場合もある。加工や冷凍技術の発達で味や食感も向上しているが、「身に甘味があり色も美しい生(カツオ)にはかなわない」と築地の卸会社。寄生虫の問題を除けば、販売面で有利な条件は少ない。
カツオ漁場は今後、夏から秋にかけて三陸沖に移り、脂の乗った戻りカツオのシーズンを迎えるが、生カツオの扱いが復活するめどは立っていない。関係者からは「寄生虫対策は大事だが、あまり過敏になるとカツオ自体の消費者離れも進んでしまう」(築地の卸会社)と危惧する声も上がっている。