そして皆さんには豊富な買い物体験がありますので、つまりは買い手の立場に立った販売を想定できると言えます。さらに客観的な裏付けとしての店舗データを活用できれば、より確実に成果を得る可能性が高まるはずです。
そこで店舗データを有効活用するためにも「買う」という行動を、個人の経験から漠然と想像するのではなく、一つの仕組み(システム)として考えてみたいと思います。
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POS分析が示せる範囲は「購入」の赤丸部分のみ。その他のピンクが動線追跡による分析範囲。
広大な範囲を占める非購入者の行動を知る事が成果を出すための重要なカギになる。
【購入者の心理推移】
1.見つける(注目の獲得)
皆さんが何かを買う時の、最初の行動とは何でしょう?
まずは商品(サービス)を探す。ですよね?
購入すべき商品(銘柄)が決まっている場合でも、選択する場合でもそれは変わりません。
リアルでもオンラインでも売場に行って必要な(好みの)商品を見つける事から買い物は始まります。
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厳密には売場(ショップ)選びも必要ですが、今はシンプルに商品の購入という行動に絞って考えます。
理想は、目当ての商品がすぐに見つかる(銘柄が決まっている)、あるいは目的に適う商品が見つかる、です。
逆に売る側は商品に気づいてもらえなければ、その商品自体が存在しない事になります。
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皆さん自身がそうであるように、通常、消費者は1、2秒…長くとも3秒以内で、それが目当ての商品か否かを判断します。現在はこの判定、つまり特定の商品を認識させる事が最大の難関なのです。これが所謂「3秒の壁」と呼ばれるものです。
2.興味を持つ(興味喚起)
目当てと思しき商品が見つかると、次にその商品が自分にとって本当に必要か?あるいは好きか?を判定します。銘柄が決まっていれば購入判定に進みますが、そうでない場合、デザインや特徴などを競合品と比較検討します。どの程度の検討がなされるかは個人差があるでしょうが、皆さんもよく分からないままに、ただ最初に目についた商品を買い物カゴに入れるような買い方はしないと思います。
ちなみに競合品は何もその場にある商品とは限りません。記憶にある商品も含みます。覚えがないですか?
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つまり売る側は、ごく短時間(数秒)で消費者の興味を喚起させるコピーライト、パッケージデザイン、陳列、POPなどが必要になります。そう考えると「注目の獲得」と「興味喚起」はセットである事が解ります。ただし獲得の順序が違いますので、そこは強く意識する必要があります。
3.購入の決断(購入動機の提供)
実際に購入するか否かの判断は、一定の興味(必要性)に満足を得ている事が前提です。
その上で商品を手に取り、より詳細に製品仕様を確認します。価格を確認し、妥当性を肯定できて「買い物カゴに入る」になるでしょう。
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あるいは妥当性を見出せず、購入を取りやめるか保留にするケースも少なくないはずです。
売り手の気持ちとしては、来店した以上は買って欲しいところです。逃してはなるものかと即断を迫り、それで売ったという経験があるかもしれません。しかし売り手に説得される買い物体験は、消費者から常に好ましいと思われるとは限りませんよね? はたして皆さん自身はどうでしょう?
【分析と解析】
人が相手である以上、購入システム(購入心理の推移)に例外はありません。国も時代性も無関係です。ただし、システム内の何処を問題にし、また重視(優先)するかについては、個社と市場の環境が大きく影響します。
店舗データの「分析」は現状を客観的に知るためです。数値やトピックス(製品に関する話題)により現状のシステム構成を明らかにします。
次に解析ですが分析結果を基に、システムの問題点と重要視すべき点を論理的に明らかにする作業となります。基本ロジックは先の購入システムを利用します。実は動線追跡リサーチの仕組み自体もこれを礎に設計されています(前投稿の推移グラフを参照)。
またどのように解析するかについては各社のトップシークレットです。同じような調査データを得て、成果に差が出るのは解析の差によるかも?しれません。(あるいは施策の優劣かもしれませんが…)
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例えば分析の結果、
- 注目されない → ターゲット層が注目する周知を改善施策
- 興味は得られるが、手に取られない → 興味の育成要素を変更・追加
- 手に取られるが、カゴに入らない → 購買動機の提供、価格妥当性の再確認。
など、得られたデータを基に個社環境と目的とする市場環境を鑑みて推定していきます。
ただ残念ながら、分析で満足し、それで終わる企業さんが少なくないそうです。
私たちは、店舗データの取得はあくまで成果を出すために実施されるべきとの考えから、必ず解析報告を添付するようにしています。
【結び】
自分が消費者の立場で具体的な満足や不満を挙げる事はできます。
けれど、いざ自分が売る側に回ると、自社の販売条件は動かし難いと考え、買い手を自社都合に合わせたい…そう考えるのも仕方ない事なのかもしれませんね。
データから課題や問題点が判明しても、対応策を講じられない事情もあるでしょう。
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常に短期間での収益を求める経営戦略にとって、データの活用はあまり相性が良くないかもしれません。最低限のデータ集積と分析、解析にも一定の期間を要します。また改善施策の準備とその実施にも時間が必要でしょう。つまりデータの活用とは、そもそも中長期的な事業展望がないと活かしづらい。という結論になります。
せめて半年~1年後の事業目標を見据えての利用が望ましいと思われます。
次回は、3秒の壁を超えるには?
「注目の獲得」を考えてみたいと思います。