熊野地方の独特な地形や奇岩は,約1500万年前の熊野カルデラ噴火に由来する。この噴火は地史的に見ても指折りの大噴火でカルデラの大きさは半径30kmにも及んだが,あまりにも古すぎるため今では熊野各地の名勝として痕跡程度にしか残っていない。
熊野地方は温泉地としても有名で,和歌山・奈良・三重の広範囲にわたって名湯が分布するが,不思議な事に熊野地方には火山が存在しない。火山がないのになんで高温の温泉が産出するかというと,それには熊野カルデラ噴火が関係している。
紀伊半島沖に存在する南海トラフにプレートと共に海水が絶えず沈み込み,それがマグマに触れて上昇圧を持つが,通り道がないと地表には現れない。熊野地方の地下には,カルデラ噴火の際に生じたマグマの噴出道が残っているため,高温・高圧の海水はそれを通って地下水を伴いながら地表に温泉として現れているのである。
本宮町大塔川のほとりに位置する川湯温泉・仙人風呂もしかり。当地の川底からは70℃を超える温泉が湧き上がり,冬季に川岸の一部をせき止めて一大露天風呂を作り,無料で開放している。その特異性から,熊野温泉群の中では知名度が最も高い。しかしながら,熊野地方の片隅に住んでいながら,これまで一度もこの温泉に親しんだことはなかった。
そこで,2月のある極寒・快晴の平日に当地を訪れた。ところが当日は生憎の河原の整備,入浴は中止となっていた。縁がなかったとあきらめて近所の温泉に入って帰宅した。
仙人風呂の開期は2月一杯であるため,再訪は来季に持ち越しと決めていたのであるが,今季の最終日の前日,天気が良好であったため(翌日の天気は雨の予報),急遽リベンジを思い立った。
自宅から川湯までは車で2時間ほど。仙人風呂は入浴無料であるばかりか,駐車場や更衣室・トイレまで無料で整備されている。素晴らしいサービスである。
仙人風呂は露天・混浴のため水着着用が義務づけられ,洗剤の使用は禁止されている。駐車場から風呂までは公道と河原を数分歩く必要があり,しかも寒いので水着の上に着衣が必要とされる。ただし,通りがかりに興味を引かれたのであろうか,腰にタオルを巻いて走っていく強者もいた。
千人風呂とも言われるため,広いプールを予想していたが,意外と狭い。200人風呂といった感じである。人が少ないプールの山側から入ったが,とても熱い。それもそのはず,山側には源泉があり,あぶくと共に湯が湧いている。そこは50℃以上はあろうか。河原を見ると「高温注意」の小さな立て札があった。
プールの川側は温度が低いのであろう,人が多い。我々夫婦は直接湧き上がる場所を避けて山側に居座り,入浴はプールの中央で行ったがやはり熱い。45℃はあったであろう。出たり入ったりを数回繰り返して風呂を出た。ゆっくりつかれなかったがが,それなりに堪能し,満足できた。
風呂は夜の10時まで入れるとのこと。来季は雪の降る夜にでも入りたいものだと思ったが,妻君は同意しないであろう。

温泉街の中ほどにある橋にはオブジェが並ぶ。千人風呂は画像の上部中央にある。
千人風呂(画像上部)
風呂の広さはこんな感じ。
風呂の川側は温度が低く人が多い。
山側は源泉があり温度が高い。
高温注意の立て札
分かり難いが,山側からはあぶくと共に温泉が湧き出ている