最近、本棚の隅から、赤茶色に変色した『生きているユダ』を見つけて、読みなをしました。
昭和52年(1977年) 5月20日発行(三刷)の角川文庫ですから、40数年を経てから再読。
単行本として出版されたのは昭和34年(1959年)です。
「ゾルゲ事件」で検挙され処刑された、尾崎秀実(ほつみ)の異母兄弟である、弟の尾崎秀樹(ほつき)…1928年ー1999年…が著者。
それにしても、タイトルに使われている「ユダ」ですが、キリストを裏切ったことにより、裏切り者の代名詞として "ユダ"の表現。現在では、ほとんど耳にも、眼にも、しなくなりました。
無くなったと云えば、同じく、シェイクスピアの戯曲で、人肉を担保にとった、ユダヤ人高利貸しシャーロックが登場する、『ヴェニスの商人』も、現在では、ほとんど耳にも、眼にも、しなくなりました。この話は、子供向けの童話的なものとして、昔はかなり一般的に普及していた気がします。
ベニスの商人が消え、裏切り者の代名詞ユダの表現が消え、そして、その後、ナチスの残虐非道の犠牲となった、ユダヤ人の象徴としての少女のお話「アンネの日記」の世界的に普及。
これらは、かなり、かなり、イスラエルによる、情報戦略の匂いを感じます。彼らは、こういう方面で、かなり、長けています。
欧米では、金融・経済・学者・ジャーナリスト・映画演劇等々にユダヤ人が幅を利かせ、世の中に対して、大きな影響力を持っていると言われています。
特に、米国では政界への影響力は絶大だと云います。そのことが、米国のイスラエル政策に大きく影響していると聞きます。
今回の、パレスチナに対するイスラエルの行為は、明らかに"ジェノサイド"そのものだと考えます。それでも、"人権・人道"を掲げる米国が、イスラエルを外交的に擁護し、軍事的にも支援しているのです。
イスラエルは、ハマスの奇襲攻撃に対する自衛権の行使として、ガザへの攻撃を正当化しています。しかし、明らかに、過剰で、無差別的な武力行使です。
10月7日のハマスによる、イスラエルへの奇襲攻撃を起点にして、物事を判断すべきではないと考えます。数十年の、パレスチナとイスラエルの歴史的経緯のなかで、今回の事態を捉えるべきです。
今回のハマスによる奇襲は、これまでの歴史的経緯、そして、日常的に行われているイスラエルによる、パレスチナへの侵略への、正統な抵抗権の行使だと考えます。
どちらにしても、犠牲になるのは子供たちです。子供たちだけでも、全員避難させてほしい。
それにしても、イスラエルの一部高官は、子供はいずれテロリストになると公言しているそうですし、パレスチナは、パレスチナで、イスラエルは国民皆兵で男も女徴兵され、イスラエルに民間人はいない、居るのは、軍人と元軍人、これから軍人になる人間だけと云っているそうです。
2千数百年前に、パレスチナを追われ世界に散っていたユダヤ人、約束の地として、神に選ばれた民として、ナチスの被害者・犠牲者として、パレスチナの地にイスラエル国家を建設するユダヤ人。
ユダヤ人国家建設の為に、パレスチナの地を追われた、国家を持たない、被害者、犠牲者のパレスチナ人。
悲しいことに、宗教が絡む争いは残虐なものとなります。そのなかでも、神はただ一つとする一神教の、ユダヤ教とイスラム教の対立は、より残虐な争いとなります。
イスラエルの後ろにいるアメリカ、パレスチナの後ろにいるアラブ諸国。そして、中国、ロシアも、絡んで、まさに、まさに、答えの無い、拗れに、拗れた、縺れに、縺れた、捻じれに、捻じれた、とてつもない難問。
2千数百年の背景がある難問は、答えを導き出すのに、今後、2千数百年の年月が必要なのかも知れません。
話が、いつものように逸れてしまいました。
ゾルゲ事件で、「生きているユダ」です。ゾルゲも、秀実も、そして秀樹も、コミュニストです。コミュニストと云えば、マルクスとなり、マルクスはユダヤ人でした。
秀樹も、その事は、当然、知っていた筈、それでも、裏切り者の代名詞として「ユダ」を使っているは、とても不思議だったので、脇道にそれてしまったのです。
それで、ゾルゲ事件は太平洋戦争に突入する前夜の昭和16年(1941年) の秋、東京で、リヒャルト・ゾルゲ、 尾崎秀実ら5名が、治安維持法、国防保安法、軍機保護法等違反で検挙され、当時、「国際諜報団事件」として世間の注目を集めた事件でした。
事件が起きたのが、戦前で、今から82年前の事ですし、単行本の出版は、事件が起きてから18年後で、私が読んだ文庫本の出版は36年後です。
ゾルゲ事件を、それとなく耳にし、眼にし、それなりの記憶のある、興味関心を抱く年代は、70代の私たちが最後かと思います。
何で、また、今頃、読み返したの ? との疑問を抱く方も、いらっしゃると思います。
それは、世間の一部が、タモリが、森田一義が、"新しい戦前"として、あの頃と、いま頃との時代状況が、空気が、どこか似てきていると、云われ始め、感じ始め、思い始めたからだと思います。
それで『生きているユダ』主題は、著者である尾崎秀樹が、ソ連のスパイとして検挙された兄の尾崎秀実の、検挙の「端緒を提供した」と言われた"伊藤律"を追及していくドキュメント。
伊藤律(1913年ー1989年)は戦前からのコミュニストで、戦後も日本共産党の政治局員になった人物です。1953年に"階級的犯罪行為"により除名処分。
それで、「伊藤律スパイ説」ですが、以前より、いろいろな人から、いろいろと否定する、いろいろな文献が発表されています。
近年、伊藤律の遺族や、伊藤律の「名誉回復を求める会」等が、松本清張の伊藤律スパイ説をとる「日本の黒い霧」の該当部の出版取りやめを求めたりしているのです。
2013年、文春編集部の責任で『日本の黒い霧』の該当部に伊藤の証言の引用とスパイ説を否定する文献への参照を促す注釈を、編集部の責任で入れることを決めたそうです。
そんな、こんなで、本日も、あっちに、こっちに、と、いろいろと書き散らしました。
それでは、また。