What A Wonderful World

毎日の暮らしの中で、心惹かれたことを語ります。

三浦 しをん 『お友達からお願いします』

2012年09月18日 19時56分58秒 | 図書館で借りた本
 昨日の晩も、今日も強風が吹き荒れて、しかも暑かった!暑いから窓を開けて風を入れたいんですが、こまかい砂が入ってくる~。ご飯の時に飯台を拭いたら、台ふきんに茶色い砂がついてげろげろでした。

明日は彼岸の入りだぜ!頼むよお天道様!!いいかげん秋になろうよ~~



○ 三浦 しをん 『お友達からお願いします』 (大和書房)

 表紙裏で、しをんさんが「よそゆき仕様である!(あくまで自社比)」と書いてあるとおりに、あんまり毒毒しくもなく、飲んだくれてもおらず、奇想天外なご友人たちとの体験話はありません(爆)でも、いろんな雑誌に掲載された短いエッセイが多いので、なんだかとってもお得な感じがありました。

 そんなお話のなかで、私と同じような印象を、しをんさんも感じておられてる!というお話があって、嬉しかったです。

だいぶ前ですが、脚本家の三谷 幸喜さんのエッセイ『ありふれた生活』のどれかに、元・奥様の東北在住のご親戚の家に行かれた時に驚いたことを書かれていました。ご家族が集まってお話をするときに、お互いに「相手の話を聞き終わるまで黙って聞いていること」に驚かれたんだそうです。三谷さんのご実家では、いっせいに他人のお話おかまいなしに、自分のしゃべりたいようにしゃべるそうで。それって相手の話をどうやって聞き分けるんでしょうね?テクニックがあるのかしら。

全部の東北人がそうではないと思いますが、確かに私は相手が話しているのをさえぎって自分が話すというのはしないです。相手の話を聞き終わってから話すという、自分は普通だと思っていることが、ほかの地域では驚きの行為だと言うのは面白いですよね~。

しをんさんは、青森を旅された時に「ツッコミがない」という事に気づいたというお話を、いかにもしをんさんらしい、相手に敬意を持って接する語り口で書かれています。


>P160 * 「キリストの墓とピラミッド」から引用

* しをんさんが、青森県三戸(さんのへ)にある「キリストの墓」を見に行くお話。


 そうか、ここには「ツッコミ文化」がないんだ、と気づく。(タクシーの)運転手さんと私は、けっこう打ち解けて話すようになっていた。これが大阪だったら(東京であっても)、「なんやー、ヘタレやなあ」とツッコミのひとつも入る局面だ。しかし、穏やかで奥ゆかしい東北人気質ゆえなのだろうか。会話にツッコミが入ることが、旅のあいだ、ついに一回もなかった。

 もちろん、もっと親しくなれば、東北人とてツッコミを入れるのかもしれない。だが、考えてみればツッコミとは、親愛と冗談でコーティングされているとはいえ、相手の発言や行動を一瞬否定することにつながる行為だ。私の感触では、どうも東北(というと範囲が広すぎるのであれば、五戸町と新郷村)のひとは、相手を極力否定しない傾向にあるようだった。

 この、礼儀正しくつつましやかな態度こそが、キリストの墓とピラミッドの存在を、鷹揚に受け入れた原因ではないだろうか。いきなりやってきた古文書の研究家が、「ここがキリストの墓だ!」と言いだしたら、「んなわけあるか!」とふつうはツッコむ。しかし、ツッコむのは失礼だと考える土地柄なので、「むぐむぐ、へぇ、そうなんだ!」と人々はガッツで受け止め、七十年の年月を経るうちに、「キリストの墓だっていうんだから、まあそうなんだろう」と、おおらかに「事実」として認定するに至った。真相はどうもそのあたりにあるのではないかという気がする。

(中略)

 正直なところ、私は最初うさんくさいものを見に行く心づもりだった。だが、タクシーの運転手さんをはじめ、何人かの村人と話すうち、本物か偽物かなんて、どうでもいいことだと思えてきた。みなさん、「ああ、あれ。昔、えらい先生が来て、キリストの墓だと認定したんでしょ」という反応なのだ。

 地元のひとにゆるやかに受け入れられ、もう七十年もキリストの墓としてそこにある。それ以上に、いったいどんな証が必要だろう。

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ヴィカース・スワループ 『6人の容疑者 上・下』

2012年09月06日 16時17分24秒 | 図書館で借りた本
 登場人物たちの絡み合いが頭の中で整理できなくて、何回も読んではもどり、確かめてはまた読み進むということをしました(汗)インドのお名前はそんなに苦にならないんですけどね。二転三転しても、ゆるぎない悪党たちの自己保身ぶりに腹が立つ!

○ ヴィカース・スワループ 『6人の容疑者 上・下』 (ランダムハウス・ジャパン)

 下巻の作者紹介のところに「映画化決定」とあったのですが、読後、確かに映像化された方が面白いだろうと思いました。上下巻使っての、6人の容疑者それぞれが「容疑者たる所以」がじっくり書かれていて、インドの巨大すぎる闇が前作同様暴かれていくんですが・・・・もう真犯人探しはどうでもいい感じ。ミステリー仕立てにしないと、6人+被害者の人間模様を描く理由が無かったのかもしれなけど、う~ん、普通の小説でも良いんじゃなかったのかしら。

前作『1ルピーの神様』もそうですが、物語を創るというか構成するのが上手いんですよ、この作者さん。それがかえって、もう純文学でも良いんじゃないのかしら?もったいないんじゃないだろうか?と感じました。そうしたら、売れなかったりするのかなぁ。



 図書館の今月購入の新刊をチェックしていたら、三浦 しをんさんのエッセイ『お友達からお願いします』(大和書房)があって、さっそく予約を入れました。三浦さんのエッセイ大好きなんです!どんなお話なのかな~と久々に三浦さんのブログを拝見したら、今年発行のもう一冊の本と、表紙絵にしかけがあるそうです。う~む、図書館で借りて読むのが信条の私には、ちょっと切ないしかけですけど、発行されたら二冊借りて並べてみようっと。あ~、早く順番こないかな♪

★三浦さんのブログ「ビロウな話で恐縮です日記 / 『お友だちからお願いします』発売中です」
( http://blog.goo.ne.jp/below923 )より引用

 内容は、いつもどおりの日常アホエッセイです。どうぞよろしくお願いします。

装画は、スカイエマさんに描いていただきました。きゃっほーい!とってもきれいでかっちょいい絵なので、みなさま本屋さんで見かけられましたら、レジへゴーだ。

レジへゴーしたほうがいいんじゃないかな、と思う理由はもうひとつあって、実は十月だかに書評集も刊行予定なのです(自分の本のはずなのに、刊行月すらうろ覚えという……)。そちらのタイトルは、『本屋さんで待ちあわせ』(大和書房)です。ただいま絶賛、ゲラ作業中。

そしてですね、『本屋さんで待ちあわせ』の装画も、スカイエマさんにお願いずみなのです!『お友だちからお願いします』と『本屋さんで待ちあわせ』を二冊並べると、カバーの絵に仕掛けが……。むぐむぐ、まだ内緒だ。

とにかく、二冊ともお手もとにそろえていただきたい!そういう願いをこめて、まずは『お友だちからお願いします』をおすすめする次第であります。スカイエマさん、美麗で楽しい装画を、本当にどうもありがとうございます!

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加納 朋子 『七人の敵がいる』 すごくリアルだった理由。

2012年08月31日 09時30分15秒 | 図書館で借りた本
 いま、図書館から借りてきた、『読むのが怖い! Z 日本一わがままなブックガイド』(北上 次郎×大森 望)を読んでいるんですが、面白い逸話ばかりで、何度も読み返しています。

やっぱりなぁと思ったのが、加納 朋子さんの『七人の敵がいる』の裏話。このお話、ネットで本の紹介やあらすじを読んで、見事に読む気が失せたんです。だって、当時はリアルタイムでPTAの事でしんどい思いをしていて、なんで本でまで読まなきゃならんのだ!と思いまして(笑)逆説的ですが、それくらい、主人公の悩みが真に迫っていて苦しいし、辛いんです。とてもじゃないけど私には「面白い」とは読めなかったんです。

* 『七人の敵がいる』あらすじ
 「PTAエンターテインメント」っていうんですが、小学生の子供を持つお母さんが主人公で。いわゆる働く親なので、PTAに出ていくと、なかなか周囲と意見が合わないという。その、大変な近所の連中と、戦わなきゃいけないって話でね、すごくおもしろかったですね。(by北上 次郎)


で、本書で北上さんと大森さんの話を読んで、だからこんなにリアルだったんだ!と納得しました。

以下、『読むのが怖い Z』P248から引用

>大森
 加納さんのインタビューによると、この小説の最初のほうに、PTAの役員を決める会合で、主人公が「そういうことはヒマな主婦の方がやったらいいんじゃないですか?」って言っちゃうシーンがあるでしょ?あれ、半分実話なんだって。といっても、そう発言したのは加納さんじゃなくて、加納さんの旦那さん(注:作家の貫井 徳郎 ぬくい とくろう氏)PTAの初会合には旦那が出たんだけど、その発言のせいでみんなから総スカンを食ったと。帰ってきた貫井さんからその話をきいて、「これはまずい」と思って、それからは加納さんが自分でPTAの会合に出ることにしたんだそうです。

>北上
 じゃあ、それで行って、いろんなPTAの人たちの・・・・。

>大森
 そうそう。その実体験がもとになってる。うちの女房も言ってたんだけど、PTAに関わると、これだけ苦労したんだから、これは本に書かないと損だって思うらしい(笑)

(中略)

>大森
 ~今までの加納さんの作品とは全然違う、ある意味ベタな展開で。ただ、その分すごく誇張もしてるし、いくらなんでもこの結末はちょっと無理があるだろうと思うんですけど。そこで急にリアリティがなくなっちゃう。

>北上
 まぁ、明るい未来を出す感じで、終わりたかったんじゃないの?でも、じゃあうちのかみさんもいろいろ苦労してたのかなぁ?全然きいたことなんだけど、オレ。

>大森
 下手にきくとすごく怒られますよ、きっと。

>北上
 「何よ今さら!」って?

>大森
 そう。「今までどんだけ大変だったと思っているの!」って。

>北上
 そうか。じゃ、きくのやめよ。

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ここ読んで、北上さんを奥様のかわりに思いっきりぶっ飛ばしたくなりました(笑顔)あ、加納さんのかわりに旦那さんもぶっ飛ばしたい。

私は貫井さんの作品は、どれも重すぎてまったく読みたくないジャンルなので、ご本人のこともさっぱりわからないんですが、このエピソードで一気に印象が悪くなりましたよ(苦笑)
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ヴィカス・スワラップ 『ぼくと1ルピーの神様』

2012年08月26日 15時13分01秒 | 図書館で借りた本
 のだめ様にオススメ頂いた小説を、ようやっと図書館で借りることができました~。

○ ヴィカス・スワラップ 『ぼくと1ルピーの神様』 (ランダムハウス講談社)

 この小説を原作とした映画「スラムドッグ$ミリオネア」は、2008年公開の作品で、なんでそんな前の作品をいまごろ読んでるの?と思われるかもしれませんが、実は原作があるとは知らなかったんです(汗)のだめ様、ありがとうございました♪

スラムドッグ$ミリオネア - goo 映画

映画公開後に、出演していた子役への出演料の支払いをめぐってのゴタゴタがあったり、いまなお変わらぬ大国インドの混迷などが話題になったのを覚えています。なので、ある程度覚悟して読み始めたお話でしたが、ノン・フィクション作品ではないのに、圧倒的な「大国インドの闇」に、胸を押しつぶされそうになりました。

「なぜクイズに全問正解できたのか?=主人公の体験していた事すべてが、答えに繋がった」

これだけの事です。ですが、そのひとつひとつが、深いため息のでるような辛いことばかりでした。たぶん、世界中どこにでも起きていることで、私にも起こりうることで、それが読者の心を惹きつけるんだと思います。

幸せな終わりは、S・キング原作の映画『ショーシャンクの空に』(原作タイトルは『刑務所 のリタ・ヘイワース』)の終わりを思い出させました。

そうか!『ショーシャンク』も、映画も原作もどちらも素晴らしい出来栄えとオチなんですが、これも映画と小説とあちこちが違う(私は未見)ながらも、映画はアカデミー賞やゴールデングローブ賞を受賞したんでした。もし映画を観て感銘を受けた方なら、この原作小説もきっとお気に召すと思います。ぜひお読み下さい、オススメです。
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初野 晴 『退出ゲーム』&『初恋ソムリエ』

2012年08月18日 10時48分15秒 | 図書館で借りた本
○初野 晴 『退出ゲーム』&『初恋ソムリエ』(角川書店)

 あぁ、これはダメだ、シリーズ全四巻買おう。読み終わってそう思いました。自分を励ますために、手元に置いて繰り返し読み返す、そういうお話です。あとは『空想オルガン』だけ未読なんですけど、もう図書館で借りるより買った方が早いかな~。


>追記

 おいおいおい、検索したら、図書館に『空想オルガン』だけないよ!

何故に初野さんの他著作は全部あるのに、狙ったように未読作品だけ無いんだ!?これは買わせるための陰謀か??

>追記・2

 本を読んだ感想も何も書いてなくて、こりゃ酷い!と思ったので。

高校の弱小吹奏楽部の、しかも高校になってからフルートを始めた主人公に、感情移入しまくり(というか親の気持ちになりまくり)で、謎解きも素晴らしいんですが、主人公が葛藤するたびに、大丈夫!応援してる!!と声が出そうになりました。

私の長男&次男は、主人公と同じく即レギュラーな弱小吹奏楽部(人数が少ないので初心者のへたっぴでもOKだったんです)に、中学&高校と所属していました。(次男は進行形)なので、楽器のメネナンスにお金がかかるとか、部員を集めるのに四苦八苦といかいうエピソードを読んで、胸が痛くなりました。

楽器の「音」は正直で無常です。人間の思惑は関係ありません。下手なのはすぐにわかります。それなのに、テクニックを越えた「なにか」が、演奏者や観衆を動かします。多感な十代に、その「音」に真摯に向きあう時、その姿が多くの人間を動かします。

このお話は、上質なミステリーによくあるように、多くの人間の生き様を重ねて情景を深くします。坂木 司さんの『夜の光』とともに、高校生の日常を題材としていますが、周囲の大人の生き様こそ、作者さんが描きたかったものだろうなと思います。
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初野 晴 『千年ジュリエット』

2012年08月04日 21時49分05秒 | 図書館で借りた本
 もしかしたらお気づきの方がおいでかもしれませんが、最近さっぱり図書館で本を借りて読んでいません。とういか、本をさっぱり読めません。先日、ツタヤに行ってジョー・ヒルの『ホーンズ』があったのに、買わずに帰って来た自分にがっかりしました。手がでないんですよ。

いままでも、本とコミックの波はあったんですが・・・ちょっとストレスの自覚があるんで、嫌だなと思ってます。

そんな中で、のだめ様オススメの作品を図書館に探しに行ったら無くて、しょぼ~んとうろうろしてたらスマッシュヒット!

○初野 晴(ハツノ セイ)『千年ジュリエット』(角川書店)

『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』『空想オルガン』に続く、ハルチカシリーズ第4弾。と書いておいでなんですが、前作三作品は未読。某虹捜索サイト主さんが日記で、

>高校の吹奏楽部を舞台にした青春ミステリの連作・ハルチカシリーズ。
高校が舞台というとアニメ化された米澤穂信の古典部シリーズがありますが、あっちは男性作家・男子高校生主人公らしい硬質さがありますが、こっちはもっとずっとライトで楽しく読めます。でもミステリとしても一級品。ぜひシリーズ1作目から読んでいただきたい小説です。

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と書かれていて、次男に読ませようかな~と思って借りてきて、自分が先に読んで感動(笑)ちょっと、坂木 司さんの『夜の光』を思い出させる、切ない十代の真摯な気持ちに胸を打たれ、謎解きににワクワクしました。この作家さん、2002年の横溝正史ミステリ大賞を受賞した方なんですよね~。とにかく巧い!切ない!前作三作も、必ず図書館で借りて読みますよ~♪

どうか”トモちゃん”が、望むように生きていかれますように。創作のキャラだけど、切に願います。


肝心の次男ですが、入間 人間(イルマ ヒトマ)さんの『ぼっちーず』を学校の図書館から借りて読んで、面白い!と絶賛しています。このまま『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』とか、どしどし読み進めて欲しいな♪今は、有川 浩さん『キケン』を読書中。

私も長男も未読のジャンルに、次男が突き進んでくれるのがめっちゃ快感!あはははは(笑)と明るい気分になるのは、ストレスの自覚があるからよね・・・。
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辺見 庸 「置きざりにされた記憶」

2012年07月27日 19時56分55秒 | 図書館で借りた本
★「ベスト・エッセイ 2012 日本文藝家協会編」( 光村図書 )

・辺見 庸 「置きざりにされた記憶」より一部引用

 南浜町は「なくなったよ」よいう。パソコン画面じゃあるまいし、そんなことがあるものだろうか。毎日、親類、級友、知人、恩師らをおもう。どうしても連絡がつかない。つらい。記憶だけが、水びたしの廃墟にとりのこされて、存在はなにもあかされないのだ。肝がぎりぎりとしぼられる。もっとあたたかくなったら石巻にいってみよう。南浜町にもいこう。「スナックひばり野」で酒をのもう。そう友人と話していたのだ。友人は近年できたという「スナックひばり野」の、わびしくて店中磯くさそうな写真を送ってきたのだった。中学時代のクラスメイトがママさんをしているかもしれないし、いってみようや。はじめて恋心をむけた綾子さんは生きているだろうか。わたしの子分役をだまって耐えてくれたかつひこちゃんは助かったのか。日和山から写生した海の絵をほめてくれた仙石先生はどうされているか。みんなしてスナックにあつまって、あんだ老けたね、おらもうとすより(年寄り)だ、と笑いあいたかったのに。スナックはまっさきに津波にのまれたろう。

(日本経済新聞 三月二十一日掲載)

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↓の動画は、石巻専修大学の学生さんが3Dプリンターを使って作った、震災前の街並みを再現したジオラマを映したものです。現在は、石巻信用金庫本店に展示されていて、誰でも自由に見ることができます。

地震と津波で「なくなった」町には、こんなにもたくさんの家々が立ち並び、人々の暮らしがありました。海から流れつかれた濡仏様は、また海に還られてしまいました。

辺見さんのお心が、少しでも癒される日が来ることを、切に願います。


宮城県石巻市門脇町、南浜町周辺の震災前再現ジオラマ
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ジョナサン・サフラン・フォア 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

2012年02月18日 09時48分36秒 | 図書館で借りた本
 TVCMを観て、ちょっと気になっていた映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』。

たまたま豊崎 由美さんのツイッターを見ていて、

>@sunamajiri いえいえ、うざくないです。良い小説です。9・11で父親を亡くした少年の一人称語りを中心に、第二次世界大戦のドレスデン大空襲で失われた愛の物語も絡めた重層的な物語になっています

>@sunamajiri 子供語り(子供の一人称語り)の小説はけっこう多いですよ。今話題の『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』もそうですし

>子供語りの小説は、『エドウィン・マルハウス』くらいの大仕掛けがないと、どうしても読みながら「ずるい」と思ってしまうわたくしがいるのでございました

というやりとりを読んで、そうか原作があったんだと知り、さっそく図書館で借りてきました。

○ ジョナサン・サフラン・フォア 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 (NHK出版)

P50より引用

 一年たっても、ぼくにはまだものすごく苦労することがあって、どういうわけか、シャワーを浴びることとか、当然だけど、エレベーターに乗ったりすることがなかなかできなかった。ぼくをパニくらせるものもたくさんあった。

夜は最悪だった。いろんなものを発明しはじめて、うわさに聞くビーバーみたいにやめられなくなる。(中略)木をかじりまくってしょっちゅう歯をけずっていないと、のびた歯が顔に食いこんで自分が死ぬことになるからだ。ぼくの脳みそもそんなふうだった。

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残された者が、苦しみや哀しみにどうやっておりあいをつけていくのか。人それぞれ方法もかかる時間も、違うでしょうけれども、この主人公の男の子が全力で父親の死に向かい合っているのを読んでいると、彼がすぐ隣に居るような気持ちになります。

子ども視点で描かれているぶん、どうにもしようがない気持ちを母親にぶつけたり、関わりあっていく人たちとの会話が、大人の混乱をこどもなりに消化しようとしていたり、ショックな体験をした時は物事が整理整頓に進んでいかないという事実を、よく表現できているように思いました。

400ページを費やして、とうとう彼が隠していた本当の苦しみの元凶を吐き出せた、他人に語れるようにまでなった時は、泣きました。どうか、彼のこの哀しみや苦しみを、時間が癒してくれますように。これはお話しだけど、現実に居るであろう彼と同じ思いを抱えている大勢の子どもや大人の為に、祈らずにはいられません。


 私はもう「9.11」の映像を、「3.11」以前のような気持ちで観る事はないでしょう。同じように、阪神淡路大震災の映像も、平らな気持ちで観る事は出来ません。

震災当日はすぐに停電になったので、TVで地震速報も津波の映像も、私はリアルタイムでは観ていません。あれを遠い場所でリアルタイムでご覧になっていた方たちは、どんなに辛かっただろうと、今思います。家族や友人が災禍に飲まれていく様を、何も出来ずに見ているしかないって、酷いです。ツインタワーが崩れていく様を、私はTVでリアルタイムで観ていたのですが、あの出来事が世界に与えた衝撃は、戦争で人間の歴史を変えてしまうほどのものでした。今回の大震災の映像が、世界に与えた衝撃が、どうか少しでも良い方向へ歴史が変わるものになるよう、願わずにはいられません。


 この小説の構成は、フォントが変わったり、画像が何ページもあったり、一文だけのページがあったりと、いろいろ工夫があります。作者さんが意図する構成なんだろうなぁとは思うんですが、ちょっと読むのにうっとうしかったです(苦笑)翻訳されたものなんで、原文で読むのとはやっぱりだいぶ印象が違うんだろうなぁという想像ができました。

たぶん、映画はこの原作小説の工夫(効果?)が生きて、もっと判りやすくて(伝わりやすくて)好いのかもしれないです。パパ役がなんたって鉄板なトム・ハンクスだから、ずるいよね。

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上橋 菜穂子 『 ー守り人作品集ー 炎路を行く者』

2012年02月09日 08時26分41秒 | 図書館で借りた本
 とっくに読み終わっていたんですが、ちょっと体がしんどくて、アップ遅れました。なんと図書館に入ったその日に借りて読むことができました!あぁ、これで運を使ったのか~と、後から思いましたよ(苦笑)

○ 上橋 菜穂子 『 ー守り人作品集ー 炎路を行く者』 (偕成社)

「炎路の旅人」と「十五の我には」の二つの短編が収められています。「炎路~」はタルシュの鷹アラユタン・ヒュウゴの少年から青年期の激動の日々を、「十五~」はバルサがチャグムの身を案じつつ、自分がチャグムと同じ十五歳だった頃の、育ての父・ジグロとの切ない思い出に胸を痛めるお話しです。

・「炎路の旅人」

 ヒュウゴがチャグムに賭けた一番の理由は、少年の頃の自分が味わった悲しみや苦しみや憎しみが、重なる部分が多かったからなんでしょう。

それにしても、冒頭に老鷹からきた手紙に添えられていた一文ですが、なんというキラーパスなんだ老鷹!と、一度読み終えて、また読み返す時に思いました(笑)

姿形をあれこれ枚数重ねて描写されるよりも、こういう一文を書き添えてくる人だから、さぞや男ぶりのある懐の深い人なんだろうなぁと、キャラの脳内造形(妄想とも言う)が深まります。

助けてくれたおじさんが、病に伏せてからのヒュウゴへの言葉と、それを聞いて黙ってしまったヒュウゴの想い。荒れてはいても、おじさんの清貧の心を尊いとヒュウゴがまだ感じられる人であった事が、ヒュウゴのその後の揺ぎ無い姿勢があるんだなと思いました。

その後、読み返すたびにずっと脳内BGMは村下孝蔵さんの『初恋』でした・・あああ、切ないよぅ~。

・「十五の我には」

 作中にジグロが読んでいる詩として紹介されているのが以下の詩なんですが、四十過ぎたいま、過去の幼くてどあほうの自分に、言えるものなら言いいたい事が山ほどあって、身に染みるというか痛い想いがしました。

こうやって歯噛みしたくなるような後悔や思いを、がっつり抱いて歳を取っていくからこそ、子供たちに何かしてやりたと切に思うんでしょうね。


>ロルアの詩集より

 十五の我には 見えざりし、弓のゆがみと 矢のゆがみ、二十の我の この目には、なんなく見える ふしぎさよ 

歯噛みし、迷い、うちふるえ、暗い夜道を歩きおる、あの日の我に会えたなら、五年の月日のふしぎさを 十五の我に 語りたや

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あ~、どちらも読めて良かったぁ!と思うお話でした。願わくば、上橋先生にはこれからも、こういった「守り人作品集」を書いて頂きたいです。
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小川洋子・河合隼雄 『生きるとは、自分の物語をつくること』

2012年02月02日 08時56分35秒 | 図書館で借りた本
 2008年初版発行の本で、もう河合隼雄さんも亡くなられておいでですが、心にじわじわと染みる対談でした。日本語には「言霊」があるんだなと思ったお話です。

以下は、目からウロコというか、固まった心から、すとんっと何かが剥がれ落ちた感じがした文章だったので、引用させて頂きます。

○ 小川洋子・河合隼雄 『生きるとは、自分の物語をつくること』(新潮社)

P116より引用

河合 「望みがない時にどうするか」という有名な話。僕は「望みを持ってずっと傍にいる」ことが大事だってさっき言いましたが、「望みがない時はどうするんですか」って聞かれたんです。すると僕の目の前におった人が「のぞみのない時はひかりです」。みたらね、新幹線の売り場なんです(笑)。あんまり感激したから、「あっ、のぞみの次はひかりだね」って言うたらね、向こうはびっくりして、「こだまが帰って来た」って(笑)。僕はこういう話するの大好きなんですよ。毎日やってます。

小川 物の名前っていうのも、うまくついていますよね。

河合 いや、うまくついてますよ。アインシュタインの、光は全てのものの中で一番速いというのは間違いです。光より速いものがあったんです。

小川 のぞみ。

河合 太陽から、ここまで光が届くのに何分かかるか知ってる?八分。ところが僕が太陽に「お願いします」言うたらパッと一瞬にして届く。

小川 一瞬ですね(笑)。

河合 だからのぞみはひかりより速いんです(笑)。こだまとやまびこの差は知ってますか。東京駅で「おーい」って言うて、東北の方から「おーい」って返ってくるのが「やまびこ」、関西の方から返ってくるのを「こだま」って言うの。

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ユッシ・エーズラ・オールスン 『特捜部Q キジ殺し』

2011年12月07日 09時04分57秒 | 図書館で借りた本
○ ユッシ・エーズラ・オールスン 『特捜部Q キジ殺し』(早川書房)

 待ってました!の『特捜部Q』第二弾であります。シリーズは全三作なんだそうで、読破したばかりだというのに、次回作の翻訳が待ち遠しいです(笑)

一作目の『檻の中の女』と違って、これは無難に映像化されそうだなぁと、読み終わってまず思いました。閉鎖的なセレブ御用達の寄宿制の学校での殺人、ちょうじてセレブで始末の悪い大人となった仲間を巡っての殺人、ファムファタールと思いきや、実は一番残酷な被害者で加害者だった女性など、重厚なストーリ-と映像が予想できます。

シリーズとしては、主人公のカールが、またもや不幸全開(特に男性として)なのが、お約束となってきました~(苦笑)同僚で親友で全身不随となってしまったハーディが、ほんのちょっとだけ身体も心も回復の兆しを見せたものの、これはやっぱり、元凶となった事件の解決に、三作目は向かうんだろうなぁというフラグなんでしょうね。

 この小説をネット検索していて見つけた、作家の堂場瞬一さんが翻訳ミステリーの最前線を紹介する『海外ミステリー応援隊』(yomiuri online)の中で、「2011年各雑誌海外ベスト3」というのがありました。

★「海外ミステリー応援隊 【2010年回顧】」
( http://www.yomiuri.co.jp/book/feature/20111205bk01.htm )より引用

■週刊文春「ミステリーベスト10」
〈1〉『二流小説家』
〈2〉『犯罪』
〈3〉『エージェント6』トム・ロブ・スミス著(田口俊樹訳、新潮文庫、上下)

■「ミステリが読みたい!」(早川書房)
〈1〉『二流小説家』
〈2〉『犯罪』
〈3〉『サトリ』ドン・ウィンズロウ(黒原敏行訳、早川書房、上下)

■「IN POCKET」(講談社)文庫翻訳ミステリー
〈1〉『背後の足音』ヘニング・マンケル(柳沢由実子訳、創元推理文庫、上下)
〈2〉『エージェント6』
〈3〉『死角オーバールック』マイクル・コナリー著(古沢嘉通訳、講談社文庫)

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『エージェント6』は、どうにもこの作家さんの作風が好かん!ので未読。『サトリ』は、ドン・ウィンズロウ作品はどれも超超重いって判っているので手を出さず。マイケル・コナリーはもういいわ~(食傷という意味で)で未読。

ヘニング・マンケルの『背後の足音』は、長編シリーズの七作目なので、手をだすかどうか微妙なところ。なによりまず、図書館に入ってないんだもん(涙)

既読の『二流小説家』と『犯罪』が上位なのは、嬉しいわ~。今年は震災があって、本を読めなくなった時もあったんですが、それでも何冊か心震える作品に出会えて嬉しかったです。来年も実につましいんだけど全力で(笑)図書館を利用して、素敵な作品に出会えるよう願ってます。

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ジョン・ハート 『ラスト・チャイルド』

2011年12月02日 20時33分20秒 | 図書館で借りた本
 昨日おじいさんに付き合って、病院の待合室に二時間半?三時間だったかな?座っていたら、左の首から肩にかけてのすじを痛めました。寒くなっきて、筋肉がこわばってくるって嫌ね・・・とりあえずサロンパス30を貼って、オルビスのイチョウ葉&ヨモギエキスの錠剤と、試供品のコラーゲンを飲んでみました。早く治って~


○ ジョン・ハート 『ラスト・チャイルド』(早川書房)

 アメリカって生き辛い国だな、と常々思うんです。資本主義大国、宗教の混乱、ドラッグ、銃、暴力etc.随分長く「自由の国」と謳われてきたけど、どうにも息苦しそうにしか見えない。

本作裏表紙にある「早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品」「英国推理作家協会賞 最優秀スリラー賞 受賞作」という肩書きは、伊達じゃないです。なんども繰り返して読まないと、アメリカの抱えてきた貧困や、差別や、宗教への固執の歴史が、頭に染みてこないんですが、それらが判って読み返すと、また一層と物語が奥深くなります。

残された者たちの再生が、今は特に嬉しく感じられました。

★「翻訳ミステリーシンジケート / 候補じゃないけどこれも読め!第2回 『ラスト・チャイルド』( http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20110118/1295334014 )
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ブルース・ダンシルヴァ 『記者魂』 ほか

2011年11月14日 09時05分59秒 | 図書館で借りた本
○ ブルース・ダンシルヴァ 『記者魂』 (早川書房)

 作中のレッドソックスの試合でマツザカが登板する描写があるので、設定年代はリアルタイムなはずだし、主人公の年齢も40歳にもうすぐ手が届くとあるにもかかわらず、ここ一発、最高に盛り上がる男同士の胸襟を開いた会話の場面が、「無言で葉巻をくゆらしとお酒を飲み交わす」描写だったのに、なんだかがっかり。いまだに日本人のTV視聴者の何割かが、「サザエさん」や「輪鬼」や「水戸黄門」や「のど自慢」や「新婚さんいらっしゃーい」を欠かさず観ているのと同じように、米読者も古き良き風習万歳!と思って読む人が居るんだろうなぁと、ため息がでました。

もう、そういうのいらないんじゃないだろうか?先日、「米男性は、他者から『ゲイだ』と言われる事を異常なまでに恐れていて、ちょっとでも女性っぽい趣向の服装やなにかを好む同性が居ると(その人の性の嗜好に関わらず)に過敏に反応する」というお話しを読んだんですね。少し前の世代の米小説の作中で、男性の嗜好として描写される、野球やお酒や喫煙を愛する場面は、まぁ、仕方ないだろうなと思うんですが、近代が舞台の作品で、いつまでそれが大手をふるうんでしょう?

この作品が、ディビット・ゴードン『二流小説家』ほか、四つの候補作を打ち破って、2011年MWA最優秀新人賞を受賞したのにも、なんだかがっかり。

故郷とレッドソックスと車とお酒と葉巻を愛し、女性への愛と別れに煩悶し、暴力にも圧力にもめげずに、記者ならではのやり方でしっぺがえしをする、「男らしい」米小説の王道を楽しみたい方にはお勧めです。


★「ロイター / 米スモーカーの7割が禁煙希望、成功率はわずか6%」
( http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111111-00000255-reu-int )より引用

 米国では、喫煙者の7割近くが禁煙を望んでおり、半数以上が過去1年に禁煙を試みたが、実際に成功した人は6.2%にとどまるという。米疾病対策センター(CDC)の10日の報告で明らかになった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

○ あさの あつこ 『NO.6』#9 最終巻 (講談社)

 予約してようやく順番が回ってきたので、どういう結末になるんだろうと、ワクワクして読み始めたんですが・・・あさのさんの長編作品特有のオチとなりました。あの前半部分の盛り上がりはどこへ?!というトーンダウン。あれだけ、ああやってこうやって、それぞれのエピソードに枚数と巻数を費やして、さぁ最終巻で謎解きドーン!というカタルシスが数ページって凹む。
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高野 和明 『13階段』 ほか

2011年11月09日 13時46分55秒 | 図書館で借りた本
○ 高野 和明(たかの かずあき) 『13階段』 (講談社)

 いまさらながら、高野 和明さんのデビュー作『13階段』を読みました。で、さらにいまさらなんですが、高野さんて、先日第二回山田風太郎賞を受賞した『ジェノサイド』の作家さんじゃん・・・どれだけうっかりなんだ、素で気がつきませんでした(凹)

『13階段』は、第47回江戸川乱歩賞受賞作なんですが、当時「審査員が全員一致で受賞を決定」した作品として、いまも語り草になっているのですよね~。読んでみると、なるほど主役の二人の設定で、すでに勝利!というお話しでした。2001年に発表された作品なので、今なら探せば「刑務所」「死刑囚」「仮釈放」「刑務官」といった要素を含んだ作品が多く見つかるかもしれませんが、やはり発表当時はセンセーショナルだったんでしょう。「死刑執行までに真実を見つける」というタイムリミットも良かったし、主人公二人が心の闇を抱えつつも、生きることを諦めない終わりも良かったです。

う~ん、作家さんが成長されていくのを感じられるって好いな~♪ペンタさんも面白かったって仰っていたし、これは覚悟を決めて『ジェノサイド』を借りて読むしかないか!(あの厚さと設定に、ちょっと躊躇してました)


○ 高城 高(こうじょう こう) 『函館水上警察』 (東京創元社)

 作者さんの生き様が、そもそも語り草になっているという(笑)『X橋附近』でデビューし、何作か作品を発表した後沈黙、そして近年この作品で復活という謎めいた作家さんです。

1935年のお生まれというから、実家の両親より二つお若いくらいで、ほぼ同じ時代を生きてこられた方。実父から題材となった「X橋」の当時の様子聞いていたので、『X端付近』を初めて読んだにもかかわらず、戦後の仙台駅裏の様子とかが臨場感があって凄かったです。

この作品もなるほど趣のあるお話で、登場する人物や出来事が実際はどうだったんだろう?と、ひとつひとつ調べたら更に面白さが広がりそうでした。なかでも、21歳の森 林太郎(森 鴎外)が、函館に突如おきたコレラ騒動に遭遇する『坂の上の対話』が、歴史の表舞台には出ないあろう、でもきっとこんなことがあったかも・・というお話しで、たまらんかったです。

なによりも、P218 ハリスト正教会の小松司祭(元仙台藩士)のセリフ
 
「私も仙台では、ロシヤの脅威を説いた林 子平(はやし しへい)の禁書をこっそり勉教したもんだす。」

とあったのが、私的に大満足でした♪
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ゾラン・ドヴェンガー 『謝罪代行社』 

2011年11月07日 11時27分59秒 | 図書館で借りた本
○ ゾラン・ドヴェンガー 『謝罪代行社』 (早川書房)

 これは手強かった・・正直、二回読むのを止めようと思ったんですが、それじゃいかんと繰り返しページを読み戻り、状況を確認しつつ(誰が何をしているか、判らなくなるです)読破しました。読み終わってみれば、性犯罪に巻き込まれてしまった少年が一番可哀想なんだけど、どうにも登場人物全てが嫌なひとばかりで(苦笑)ようやく犯人が突き止められてお話しが終わっても、さっぱりすっきりはしません。

主役級の四人の男女を含め、親族や友人たち犯人ですら、現実の知人の中に居そうなキャラクターなんですね。まず、その人物設定が巧い。そして、繰り返される「おまえ」や「あなた」という「一人称・二人称」に加えての「三人称」と、「以前に起きた事・以後に起きた事」という現在と過去の出来事が入り混じる物語の構成が、また巧い。複雑に絡み合う、大勢の人間の行き場のない哀しみや憎しみが、このお話しに現実味を持たせています。

タイトルになっている「謝罪代行」業は、私的にはあんまり魅力的じゃなかったです(苦笑)犯罪のきっかけであり根源ともなる仕事なんですが、日本では成立しそうにない仕事だと思います。そう!このお話しをドイツ語から日本語へ翻訳する作業は、ど素人が想像しても、相当難しかったんじゃないかと思います。(原作はドイツ語)確かドイツ語には男性名詞・女性名詞がありましたよね?このお話しの中では「あなた=貴方or貴女」と書けない部分があるので、初っ端から翻訳は大変だったろうなァと思いました。

何かの暇つぶしにこのお話を読むのは、まったくお勧めできません。じっくり時間を取って読める時にどうぞ、というお話です。



 以前読んで面白かった、デンマークのユッシ・エーズラ・オールスンの警察物語、『特捜部Q 檻の中の女』(早川書房)の第二弾、『特捜部Q キジ殺し』が、11月10日に発売になります。めっちゃ嬉しいわ~ このシリーズは三部作だそうなので、このまま三作目まできっちり翻訳されて出版されると好いな♪
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