ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

Ⅵ.臨床統計と臨床試験

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 臨床研究についてその立案や説明を行う上で必要な疫学、統計的手法を十分理解する。

行動目標
A. 以下の疫学に関する基本的事項を記述或いは説明できる。
 1. 疫学的事項
  a. 疾病頻度、疾病罹患率
  b. 疾病率の標準化

 2. 病因について
  a. 病因を判定する基準
  b. 定量的判定法(相対危険率、オッズ比)

 3. 疾病、危険因子のスクリーニング
  a. スクリーニング法を確立するための基準
  b. スクリーニングの定量的評価法
    感度、特異度、receiver-operator characteristic curve (ROC 曲線)

 4. 研究方法
  a. 実験的ランダム化比較臨床試験等
  b. 観察的前方視的コホート研究、後方視的コホート研究、ケースコントロール研究

 5. 研究において考慮すべき事項
  a. 検出力
  b. 対象の選択
  c. コントロールの選択
  d. 無作為抽出法
  e. 倫理的配慮
  f. バイアスの回避
  g. 混乱因子の回避

B. 以下の統計に関する基本的事項を理解し説明できる.
 1. 記述統計
  a. 標本統計量の計算
  b. 分散の計測

 2. 統計学的推測の信頼度

 3. 推論(仮説検証)
  a. 信頼区間
  b. ノンパラメトリック法
  c. パラメトリック法
   (1) 二群の差の検定(z 検定、t 検定)
   (2) 多群の差の検定(分散分析法等)
   (3) 比率の検定(カイ二乗検定等)
  d. 多変量解析(重回帰分析, 比例ハザードモデル、ロジスティックモデル)

C. 研究を計画するにあたり、いつどのように統計学者に相談するかを理解する。

D. データの蓄積及び分析に関してコンピュータの使用、重要性、限界を理解する。


Ⅶ.腫瘍免疫学

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 免疫システムの基本的な要素について知る。

行動目標
A. 定義
以下の事項について定義を理解する.
 1. 抗原および抗体
 2. 以下の細胞とその由来、機能
   マクロファージ、B 細胞、NK 細胞
 3. 抗体の5つのクラスとその機能
 4. T 細胞とその分類、その由来、機能
 5. 医療的に利用される可能性のあるサイトカイン
   TNF, インターロイキン類、インターフェロン類、等
 6. 補体とその由来、機能

B. 免疫反応
以下の事項について理解し説明できる.
 1. 抗原に曝露された後の抗体産生の機序
 2. 異物抗原に曝露された後の殺細胞的リンパ球の働きと機序
 3. 主なサイトカインの効果とその発現の機序(単独の役割とサイトカインネットワークの中での役割)
 4. 即時性過敏症反応と遅発性過敏症反応
 5. 液性免疫反応と細胞性免疫反応の違い
 6. 細胞性免疫反応の機序
 7. 免疫抑制、免疫賦活、免疫寛容の状態の例
 8. 低栄養状態が免疫に及ぼす影響とそれをモニターする方法

C. 腫瘍免疫
免疫系が腫瘍発生の過程で関与している証拠とされる資料について知ると共に、以下の事項を理解し、説明できる。
 1. 以下の抗原の違い
  a. 癌特異移植抗原(TSTA)
  b. 腫瘍関連抗原(TAA)
  c. ヒト白血球抗原(HLA)

 2. 腫瘍に対する免疫監視機構および拒否反応の欠落に関する理論

 3. 免疫不全、免疫抑制状態における癌の発生

 4. 化学発癌物質により発生した癌の特異抗原

 5. ウイルスにより誘発された癌の抗原性

 6. ウイルスにより癌が誘発される免疫学的証拠

 7. 婦人科癌における腫瘍関連抗原の証拠

 8. 婦人科癌における腫瘍マーカーの有用性
   CEA, AFP, hCG, CA125, CA19-9, SCC 等

D. 免疫療法
以下の事項について理解し説明できる
 1. 3 つの免疫療法(特異的能動的免疫療法、非特異的能動的免疫療法、受動的免疫療法)

 2. サイトカインの医療応用

 3. 単クローン性抗体の製造の機序と癌の診断、治療への応用


Ⅷ.化学療法

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 臨床的に使用される抗癌剤の薬理を十分に理解する。効果と安全性を考慮し、ガイドラインに従って適切に治療を行うことができる。

行動目標
A. 以下の事項について理解すると共に説明できる.
 1. 腫瘍生物学
  a. 癌細胞増殖の機構、細胞周期
  b. 薬物効果の原理
   (1) 対数的殺細胞理論
   (2) 細胞周期特異性
   (3) Dose intensity
   (4) 薬物耐性

 2. 抗癌剤の分類
  a. アルキル化剤
  b. 代謝拮抗剤
  c. 植物アルカロイド
  d. ホルモン
  e. その他抗体、酵素等

 3. 薬剤の特徴的な作用機序
  a. 特異的作用機序
  b. 細胞周期と作用の関係

 4. 薬剤の薬理と以下の事項
  a. 投与方法と吸収
    経口、静脈注射、動脈内注入、筋肉注射、髄腔内投与、腹腔内投与
  b. 薬剤の分布
  c. 体内での代謝と活性の変化
  d. 排泄
  e. 他の薬剤との相互作用
  f. 放射線治療や温熱療法との相互作用
  g. 薬剤耐性の機序と耐性を予防する方法

 5. 薬剤併用療法
  a. 薬剤併用療法の原則
  b. 単剤の薬理と併用療法を立案する際の原則および理論的な併用療法案の作成
  c. 骨髄移植、末梢血幹細胞移植を伴う高用量化学療法や腹腔内化学療法等の特殊な化学療法の原則

 6. 臨床的評価法の一般的ガイドライン
  a. 固形がんの効果判定基準(RECIST)ガイドライン
   (1) 標的病変の評価
     完全奏効(complete response)、部分奏効(partial response)、安定(stable disease)、進行(progressive disease)
   (2) 非標的病変の評価
     完全奏効(complete response)、不完全奏効(incomplete response/stable disease)、進行(progressive disease)
  b. 化学療法による毒性の評価
    National Cancer Institute-Common Toxicity Criteria(共通毒性規準)による毒性評価

C. 臨床試験の第Ⅰ相、Ⅱ相、Ⅲ相の概念

B. 婦人科腫瘍に対する化学療法
上記の一般的事項を理解した上で、適応のある症例に対して化学療法を選択し、これを安全に施行できる。
 1. 婦人科悪性腫瘍に対して、その原発巣、組織像、進行期により確立された化学療法について、その治療効果・治療成績を熟知し、実際に使用できる。
  a. 単剤
  b. 併用化学療法

 2. 薬剤の用量、投与時期、投与周期およびdose intensity の理論的根拠を理解し、安全性を十分考慮した化学療法を行うことができる。

 3. 化学療法における毒性、合併症を理解し、対応できる。
  a. 細胞増殖の活発な細胞に対する一般的効果
     骨髄、消化管上皮、毛嚢
  b. 各薬剤および併用療法に特異的な有害事象
  c. 副作用の管理
   (1) 支持療法
     栄養的、鉄分補給、予防的抗生剤投与、コロニー刺激因子製剤投与
   (2) 特異的治療法
     成分輸血、特異的拮抗剤投与
  d. 抗癌剤の血管外濾出の管理

 4. 各疾患において手術或いは放射線治療との併用の有用性について理解すると共に治療に応用できる。


Ⅸ.治療薬剤の薬理学

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 よく使用される薬剤について、以下の薬理学的特徴を理解し、適切に使用できる. 薬剤の吸収、分布、代謝と変化、排泄、薬物効果の時間的変化を理解する。

行動目標
A. 栄養
以下の薬理学を理解する
 1. 中心静脈栄養(TPN)
  a. 適応
  b. 投与ルート
  c. 投与される点滴の成分
  d. ビタミンおよびミネラル類補充
  e. 以下の状態における中心静脈栄養の合併症と穿刺部の合併症
   (1) 腎機能障害
   (2) 肝機能障害
 2. 経管栄養
  a. 適応
  b. 投与物の成分
  c. 合併症

B. 創傷治癒の薬理学
以下の因子の創傷治癒に対する役割や影響についての知識がある
 1. ビタミン類
 2. 微量元素
 3. 増殖因子
 4. 化学療法
 5. 放射線治療

C. 造血剤
腫瘍に関連した貧血、或いは治療に関連した貧血について、造血剤の使用、効果、および副作用について理解する。

D. 抗菌剤
以下の知識を有する.
 1. 予防的抗生物質療法の原則
 2. 主な抗生物質の作用機序
 3. 主な抗生物質の副作用
 4. 適切な薬剤や併用療法の選択

E. 鎮痛剤と催眠鎮静剤
以下の一般的知識を有する.
 1. 肝疾患、腎疾患を有する患者に対する適切な薬剤の選択
 2. 過量投与の識別と対応
 3. 高度の疼痛の鎮痛
 4. 慢性的な疼痛の鎮痛(WHO 方式)
 5. 鎮痛における補助的方法
 6. 鎮痛剤の経静脈投与から経口投与への変換

F. 麻酔薬
以下の一般的知識を有する.
 1. 吸入麻酔薬
   代謝、腎障害、肝障害、副作用、心循環器系に対する作用
 2. 局所麻酔薬
      麻酔法、副作用、麻酔薬の代謝、腎障害、肝障害、過敏反応、心循環器系および神経系に対する効果

G. 抗凝固剤
以下の知識を有する.
 1. 短時間作用薬(ヘパリン)と長時間作用薬(ワーファリン)の作用機序
 2. ヘパリン治療とワーファリン治療の適応と合併症
 3. 予防的低用量ヘパリン療法の適応と合併症

H. 心循環器系薬剤
以下の薬剤の適応と使用法についての知識を有する.
 1. 心機能低下、不整脈時の心作動薬
 2. 心不全および高血圧時の利尿剤
 3. 敗血症や高血圧時の血管作動薬
 4. 心循環器系疾患に対するカルシウムチャンネル拮抗剤

I. その他
以下について、その適応と使用法についての一般的知識を有する.
 1. ヒスタミン受容体拮抗薬
 2. 抗うつ薬
 3. 抗痙攣薬
 4. インシュリンおよび経口糖尿病薬
 5. 制吐剤
 6. ステロイド
 7. 胃腸管系作用薬


Ⅹ.放射線治療

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 放射線治療の原理や実際の方法に精通する。また、その知識は放射線治療医と共同で外部照射や密封小線源治療計画の立案や治療の実践ができる程深くなくてはならない。

行動目標
A. 放射線治療の基本的要素
以下の事項を理解する.
 1. 放射線と物質との相互作用
  (Compton 散乱、電子対創生, 光電吸収)
 2. 生体組織の放射線感受性と抵抗性
 3. 放射線の照射時間、照射線量、分割法の関係(TDF: time, dose, fractionation)
 4. 容積線量
 5. 外部照射の原理と機器
 6. 密封小線源治療の原理と機器
  a. 腔内照射
  b. 組織内照射
  c. 腹腔内組織照射
 7. 放射性同位元素
   半減期、放射線の種類とそのエネルギー、および使用法
 8. 粒子線
   電子線、中性子線、陽子線、重粒子線

B. 放射線生物学
以下の事項を理解している.
 1. 放射線の直接的効果および間接的効果
 2. 細胞生存曲線および致死的障害の概念
 3. 種々の放射線における生物学的効果比(RBE: relative biological effect)および線エネルギー付与(LET: linear energy transfer )
 4. 細胞の放射線感受性の変化
  a. 酸素増感効果
  b. 細胞周期の変化
  c. 放射線増感剤
 5. 放射線被爆後の回復と組織の修復
 6. 放射線効果からの防御
 7. 臓器別の相対的放射線感受性(正常組織の許容線量)
 8. 名目標準線量(NSD: nominal standard dose )の定義と使用

C. 放射線測定と線量計測法
以下の概念と使用法について理解している.
 1. 線源―皮膚間距離(SSD: source skin distance)
 2. 線源―軸間距離(SAD: source axis distance)
 3. 後方散乱、吸収、減衰
 4. 以下の機器用の定線量曲線の計算
  a. 外部照射機器(orthovoltagae and high energy)
  b. 腔内照射器具
  c. 組織内照射
 5. 種々の線源からの深部線量の計測
 6. 各種放射線の深部線量百分率曲線
 7. X 線照射の半陰影(penumbra)
 8. 照射野のサイズ(多照射野、スプリット照射野)
 9. 楔状フィルター使用による照射
 10. 治療計画のシミュレーション
 11. 子宮頸癌治療におけるA 点、B 点およびミリグラム時間(mgH)

D. 放射線治療の合併症(早発性および遅発性)
各臓器における合併症とその予防および治療について理解し、実践できる。
 1. 消化管
 2. 泌尿器系
 3. 皮膚
 4. 骨
 5. 骨髄
 6. 腎臓
 7. 肝臓
 8. 中枢神経系
 9. 放射線壊死
 10. 放射線発癌


XI.各疾患における評価と治療法

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 一般医学および婦人科腫瘍学に関する十分な知識と情報を有し、これに基づいて、腫瘍患者の治療前評価、治療、および管理を適切に行うことができる.。必要に応じて、他領域の専門医と適切に相談し、その協力を得ることができる。

行動目標
 すべての婦人科腫瘍の治療前評価、治療、および管理について、必要な方法論を述べることができる。

A. 治療前評価
 1. 末梢血液検査
 2. 凝固系検査
 3. 肝機能検査
 4. 腎機能検査
 5. 肺機能検査
 6. 心機能検査

B. 治療前準備
以下の治療前準備を適切に行うことができる。
 1. 呼吸機能および循環機能の適正化
 2. 体液、電解質、栄養状態の適正化
 3. 感染症に対する適切な抗生剤投与
 4. 深部静脈血栓症、肺塞栓症に対する適切な薬剤投与および下大静脈フィルター設置

C. 患者および家族に診断と治療法を説明し、十分な理解を得た上で同意を得ることができる。
 1. エビデンスに基づいた標準的治療を説明できる。
 2. 臨床試験、とくにランダム化比較試験の説明ができる。

D. 各疾患における治療前評価、治療、および管理
婦人科悪性腫瘍の各疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法について説明できる。

 1. 外陰
 以下の疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法を説明できる.
また各項に掲げた問題点について、エビデンスに基づいて討論することができる。
 a. 外陰上皮内腫瘍

 b. 初期浸潤扁平上皮癌

 c. 浸潤扁平上皮癌
  (1) 外陰切除の方法と範囲、および再建術に関して
  (2) 鼠径リンパ節郭清の方法と範囲に関して

 d. 浸潤腺癌(Bartholin 腺由来腺癌等)

 e. 悪性黒色腫

 f. Paget 病
  (1) 切除範囲の決定に関して
  (2) 下床腺癌の存在とその治療に関して

 2.
 以下の疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法を説明できる.
また各項に掲げた問題点について、エビデンスに基づいて討論することができる。
  a. 腟上皮内腫瘍
  b. 扁平上皮癌
   (1) 占拠部位による転移形式と治療法の差異に関して
   (2) 手術療法と放射線療法の選択に関して
  c. 腺癌
  d. 他臓器癌の腟転移

 3. 子宮頸部
 以下の疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法を説明できる。また各項に掲げた問題点について、エビデンスに基づいて討論することができる。
  a. 子宮頸部上皮内腫瘍
   (1) 種々の保存的治療方法に関して
   (2) HPVタイプによる自然史の差異に関して
   b. 頸癌Ia 期
   (1) 扁平上皮癌Ia 期の診断方法に関して
   (2) 扁平上皮癌Ia1 期の標準的手術および妊孕性温存手術に関して
   (3) 脈管侵襲を伴う扁平上皮癌Ia1 期の治療に関して
   (3) 扁平上皮癌Ia2 期の転移リスクと標準的手術に関して
   (4) 腺癌Ia 期に対する標準的手術に関して

   c. 頸癌Ib~IIb 期
   (1) Ib1 期癌に対する治療法の選択に関して
   (2) Ib2~IIb 期癌に対する治療法の選択に関して
   (3) 術後追加治療法とその適応に関して
   (4) 化学療法同時併用放射線療法に関して
   (5) ネオアジュバント化学療法とその適応に関して

   d. 頸癌III~IV 期
   (1) IIIa 期癌に対する治療法の選択に関して
   (2) IIIb 期癌に対する治療法の選択に関して
   (3) IVa 期癌に対する治療法の選択に関して
   (4) IVb 期癌に対する治療法の選択に関して
   (5) chemoradiation に関して
   (6) ネオアジュバント化学療法とその適応に関して
   (7) 骨盤除臓術とその適応に関して
   (8) 寛解導入化学療法とその効果に関して

 e. 再発癌の治療
   (1) 放射線療法の適応に関して
   (2) 放射線治療後のcentral recurrence に対する手術療法に関して
   (3) 骨盤除臓術とその適応に関して
   (4) 化学療法の選択に関して

 4. 子宮体部(上皮性腫瘍)
 以下の疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法を説明できる. また各項に掲げた問題点について、エビデンスに基づいて討論することができる。
  a. 子宮内膜増殖症
   (1) 組織分類による管理法の選択に関して
   (2) ホルモン療法とその効果に関して

  b. 体癌I 期
   (1) 妊孕性を温存した治療法の可能性に関して
   (2) 標準的な手術療法に関して
   (3) 摘出標本による再発リスク評価と術後追加治療に関して

  c. 体癌II~IV 期
   (1) 手術術式の選択に関して
   (2) 摘出標本による再発リスク評価と術後追加治療に関して
   (3) 遠隔転移例に対する集学的治療に関して

  d. 再発癌の治療
   (1) 手術療法の選択に関して
   (2) 放射線療法の適応に関して
   (3) 化学療法の効果に関して

 5. 子宮体部(間質性腫瘍)
 以下の疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法を説明できる。 また各項に掲げた問題点について、エビデンスに基づいて討論することができる。
  a. 癌肉腫
   (1) 標準的な手術療法に関して
   (2) 放射線療法の効果に関して
   (3) 化学療法の効果に関して

  b. 平滑筋肉腫
   (1) 術前診断法に関して
   (2) 術後治療法とその効果に関して

  c. 内膜間質肉腫
   (1) 低悪性度内膜間質肉腫の腫瘍進展形式とその治療に関して
   (2) 低悪性度間質肉腫に対するホルモン療法に関して
   (3) 高悪性度内膜間質肉腫に対する化学療法に関して

 6. 卵管および腹膜
 以下の疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法を説明できる。 また各項に掲げた問題点について、エビデンスに基づいて討論することができる。
  a. 卵管癌
   (1) 術前診断法に関して
   (2) 標準的な手術療法に関して
   (3) 化学療法の効果に関して

  b. 腹膜原発腺癌
   (1) 術前診断法に関して
   (2) 標準的な手術療法に関して
   (3) 化学療法の効果に関して

 7. 卵巣
 以下の疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法を説明できる。 また各項に掲げた問題点について、エビデンスに基づいて討論することができる。
  a. 上皮性境界悪性卵巣腫瘍
   (1) 標準的な手術療法に関して
   (2) 妊孕性温存手術に関して
   (3) 腹腔内に進展した境界悪性腫瘍の治療に関して
   (4) 腹膜偽粘液腫の管理に関して

  b. 上皮性卵巣癌I 期
   (1) 標準的な手術療法に関して
   (2) 妊孕性温存手術の適応に関して
   (3) 術後化学療法の適応に関して

  c. 卵巣癌II~IV 期
   (1) cytoreductive surgery とその意義に関して
   (2) interval debulking surgery とその意義に関して
   (3) second-look operation とその意義に関して
   (4) 化学療法レジメンの選択に関して
   (5) second-line 化学療法の選択に関して

   d. 再発卵巣癌
   (1) 化学療法の選択方法に関して
   (2) 手術療法および放射線療法の適応に関して

   e. 胚細胞性腫瘍
   (1) 各腫瘍の術前鑑別診断に関して
   (2) 手術における妊孕性温存の考慮に関して
   (3) 術後化学療法およびその適応に関して
   (4) 未分化胚細胞腫における腫瘍進展形式に関して
   (5) 未熟奇形腫の組織学的grade 評価に関して

   f. 性索間質性腫瘍
   (1) 顆粒膜細胞腫の管理法に関して
   (2) セルトリ・間質細胞腫の管理法に関して

   g. 転移性卵巣癌
   (1) 術前診断法に関して
   (2) 原発部位による卵巣腫瘍形態の差異に関して
   (3) 合理的な手術療法に関して

 8. 絨毛性疾患
 以下の疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法を説明できる。 また各項に掲げた問題点について、エビデンスに基づいて討論することができる。

 a. 胞状奇胎
  (1) hCG 値の推移による奇胎娩出後の管理に関して
  (2) 侵入奇胎の臨床的診断に関して
  (3) 侵入奇胎に対する化学療法に関して

 b. 絨毛癌
  (1) 絨毛癌の臨床的診断に関して
  (2) 臨床的絨毛癌に対する化学療法に関して
  (3) 肺転移、脳転移、肝転移に対する集学的治療に関して
  (4) 再発絨毛癌、難治性絨毛癌に対する化学療法に関して

 9. 妊娠に合併した各種の悪性腫瘍
 以下の疾患について、その治療前評価、治療、および管理方法を説明できる。 また各項に掲げた問題点について、エビデンスに基づいて討論することができる。
  a. 婦人科腫瘍
   (1) 子宮頸部上皮内腫瘍の管理に関して
   (2) 子宮頸部浸潤癌の治療に関して
   (3) 卵巣腫瘍の鑑別診断と手術適応に関して

  b. 乳癌

  c. 消化器癌

  d. その他の臓器の悪性腫瘍


XII.手術

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 婦人科悪性腫瘍の各疾患に対する診断的および治療的手術療法を適切に行うことができる。

行動目標
以下の項目に関する知識を有し、各術式の経験を積む。

A. 解剖学および生理学
以下の項目に関する解剖学的・生理学的知識を有し、適切に説明することができる。
 1. 腹腔内および骨盤内臓器の動脈および静脈路
 2. 腹腔内および骨盤内臓器のリンパ系路
 3. 骨盤内および骨盤内臓器の神経路
 4. 骨盤内の諸靭帯と空隙
 5. 骨盤底支持装置
 6. 外陰の動脈および静脈路
 7. 外陰のリンパ系路
 8. 外陰の神経路

B. 術前準備
以下の術前準備を適切に行うことができる。
 1. 呼吸機能および循環機能の適正化
 2. 体液、電解質、栄養状態の適正化
 3. 適切な自己血の貯血
 4. 感染症に対する適切な抗生剤投与
 5. 深部静脈血栓症、肺塞栓症に対する適切な薬剤投与および下大静脈フィルター設置
 6. 消化管手術が予測される場合の術前処置
 7. 尿路手術が予測される場合の尿管カテーテル挿入

C. 患者および家族に手術術式を説明し、十分な理解を得た上で同意を得る。
 1. 手術の術式とその合理性を説明できる。
 2. 輸血の可能性とリスクを説明できる。
 3. 術中および術後の合併症とそのリスクを説明できる。

D. 婦人科手術
以下の手術の適応を理解し、手術を安全・確実に遂行し、術後管理ができる.
 1. 腹式手術
  a. 付属器摘出術
  b. 腟上部切断術
  c. 単純子宮全摘出術
  d. 準広汎子宮全摘出術
  e. 広汎子宮全摘出術
  f. リンパ節郭清(経腹的、経腹膜外的)
   (1) 骨盤内
   (2) 腹部大動脈周囲
  g. 大網切除術
  h. 悪性付属器腫瘍に対するcytoreductive surgery
  i. 骨盤除臓術
   (1) 前方
   (2) 後方
   (3) 全
 2. 腟式
  a. 円錐切除術
   (1) cold knife 法
   (2) leep surgery またはレーザー手術
  b. 単純子宮全摘出術
  c. 腟切除術
   (1) 部分切除
   (2) 全切除
 3. 外陰摘出術
  a. 外陰部分切除術
     b. 単純外陰摘出術
  c. 広汎外陰摘出術
  d. 鼠径リンパ節郭清術

E. 消化管手術
以下の手術の適応を理解し、外科医の協力の下で、手術を安全・確実に遂行し、術後管理ができる。
 1. 胃瘻造設術
 2. 小腸切除および吻合術
 3. 小腸瘻造設術
 4. 虫垂切除術
 5. 結腸切除および吻合術
 6. 人工肛門造設術
 7. 直腸切除およびHartman pouch 造設術
 8. 直腸低位前方切除術
 9. その他脾摘術、肝部分切除術、腸管バイパス手術、腸瘻修復術等

F. 泌尿器手術
以下の手術の適応を理解し、泌尿器科医の協力の下で、手術を安全・確実に遂行し、術後管理ができる。
 1. 膀胱部分切除術
 2. 膀胱全摘出術
 3. 膀胱腟瘻閉鎖術
 4. 膀胱尿管新吻合術
 5. 膀胱皮膚瘻造設術(永久的、一時的)
 6. 尿管吻合術
 6. 尿管皮膚瘻造設術
 7. 回腸・大腸導管造設術
 8. 尿道切除術

G. 再建術
婦人科腫瘍の手術に伴う正常組織の欠損を修復する再建手術法の適応を理解し、必要に応じて施行を考慮することができる。
 1. 外陰等の皮膚再建術、造腟術
  a. 分層皮膚移植法(split-thickness skin graft)
  b. 皮弁法
  c. 筋皮弁法
 2. 骨盤底の被覆
  a. 大網の使用
  b. 筋肉弁の移動法

H. 腹腔内、後腹膜腔膿瘍の切開とドレナージ
この合併症に対して、内科的、外科的な管理ができる。

I. 術中合併症の管理
以下の合併症の診断と管理を適切に行うことができる.
 1. 大血管損傷
 2. 尿路損傷
 3. 腸管損傷
 4. 神経損傷
 5. 凝固障害
 6. 輸血後反応
 7. 肺塞栓症
 8. 心停止

J. 術後合併症
以下の合併症の診断と管理を適切に行うことができる。
 1. 術後出血
 2. 無気肺
 3. 肺塞栓症
 4. 高血圧
 5. 不整脈
 6. 心筋梗塞
 7. うっ血性心不全
 8. 腎不全
 9. 電解質異常
 10. 急性胃炎・胃潰瘍
 10. 腸閉塞
 11. 精神異常
 15. 創傷合併症(感染、創離開)
 16. 感染症
 17. リンパ嚢胞
 18. 膀胱腟瘻
 19. 尿管腟瘻
 20. 直腸腟瘻


XIII.その他

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 婦人科悪性腫瘍の管理に関連する分野における知識と技術を有する。

行動目標

A. 以下の事項についての知識を有し、実践できる。
 1. 胸腔、腹腔ドレーンの留置
 2. 一時的あるいは永続的中心静脈ルートの確保
 3. 気管内挿管

B. 以下の事項を熟知し、説明できる.
 1. 医学に関する法律
 2. インフォームドコンセント
 3. 臨床試験
 4. 施設内倫理委員会、IRB 承認の手続きと過程
 5. 施設内癌登録

C. 以下の事項についてその原理を理解し、管理に応用できる.
 1. 医師の医療行為における患者、家族との関係に関する医学的倫理

 2. 緩和医療(家庭、施設に於ける)
  a. 内科的対応
    疼痛、腸管閉塞等に対する
  b. 外科的対応
    疼痛、腸管閉塞等に対する
  c. 放射線治療的対応
    神経痛、骨痛、骨折の予防

 3. ホスピス管理

 4. 死、およびその過程での対応

 5. 代替療法について


「CTに有用性」 脳内出血死、9年前の提言生かせず 奈良・妊婦転送死亡で (毎日新聞)

2006年11月21日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

分娩時に母児の異常事態が起きた場合に、分娩施設内で速やかに適切な処置ができることが非常に重要です。分娩時の異常はいつ起こるか全く予測ができませんから、分娩施設では24時間体制で適切な処置ができる体制を整備しておく必要があります。

産科医の当直日数を週1回以下にして、当直の翌日は非番にできるような勤務体制にするためには、産科の常勤医は10人程度は必要です。新生児科医、麻酔科医も院内に常駐している必要があります。

現状の不十分な医療提供体制のまま放置すれば、基幹病院の常勤医達が疲れ果てて大挙して現場から離脱してしまい、事態はますます悪化するばかりだと思います。

****** 毎日新聞、2006年11月21日

奈良・妊婦転送死亡:脳内出血死、9年前の提言生かせず----「CTに有用性」

 ◇旧厚生省研究班「CTに有用性」

 妊産婦に異常事態が起きた場合、分娩(ぶんべん)施設内で速やかに処置できるよう、医師数や検査機能の充実など体制整備を求める提言を、旧厚生省研究班が97年にまとめていたことが分かった。全国約200人に及ぶ妊産婦の死亡原因を詳細に分析して導き出した報告。だが今年8月に奈良県の妊婦が脳内出血で死亡した問題では、分娩施設や搬送システムの体制不備など地域の産科救急体制の危機が浮き彫りになり、9年前の貴重な提言が生かされなかった形だ。【根本毅】

 「妊産婦死亡の原因の究明に関する研究班」(班長、長屋憲・吉祥寺南町診療所院長)の報告によると、91-92年の妊産婦死亡は230人に上った。調査できた197人の死因は、子宮破裂などによる出血性ショックが74人で最も多く、次いで脳出血が27人だった。

 死亡例の分析で、転送された施設(大学病院を除く)の産婦人科の平均医師数は、常勤が4・4人、当直は0・6人。麻酔科医なども少なく、「十分な24時間体制とはあまりに懸け離れた現状」と指摘した。一方、死亡した妊産婦の分娩を当初扱った施設は、より体制が貧弱で「マンパワーや検査機能の不備が死亡に大きく影響した」と分析した。

 脳出血では、頭痛を訴えたのに診断・搬送が遅れた例もあった。診断について「頭痛や血圧上昇、意識消失があると、産婦人科医の多くは妊娠中毒症や子癇(しかん)発作と考え、その治療を優先させる。これは現時点では正しい」とした。その上で、CT(コンピューター断層撮影)の有用性に触れ、「どの症状なら脳出血を疑い、画像診断(CT)すべきかガイドラインを示す必要がある」と提言した。

 今回の奈良のケースでも夜間、脳外科医と麻酔科医が不在で、産科医と内科医計2人で対応。報告書の指摘と同じように頭痛や意識消失などの症状があったが、失神や子癇発作と判断し、CTは撮らなかった。

 長屋院長は「9年前と変わらず、全身管理の専門家や設備がほとんどない状態で大多数の分娩が扱われていることが最大の問題。こんな危険な環境での分娩は、日本ぐらいなものだ」と早急な改善を訴える。

(毎日新聞、2006年11月21日)


助産師の活用(助産師の集約化)

2006年11月19日 | 飯田下伊那地域の産科問題

全国の多くの病院で分娩取り扱いを中止し、その結果、一部の医療機関に分娩が集中しています。分娩件数が急増している病院では、当然、助産師の仕事量が増えるので、助産師を大幅に増員する必要があります。

若い新卒の助産師は、まだ実務経験を全く積んでないので、現場でバリバリ働けるようになるのは就職してから数年経過してからです。

一方、分娩の取り扱いを中止した病院に勤めている助産師で、助産業務以外の一般の看護業務に従事している者も少なくないです。彼女達は、別に研修など受けなくても、助産師として現場ですぐに大活躍できます。彼女達の貴重な経験と技能を有効に活用できないのは、大きな社会的損失だと思います。

最近、分娩取り扱いを中止した近隣の医療機関から、多くの助産師が集団で当科に移って来てくれました。彼女達は、当科に移籍した当日から、現場でバリバリ大活躍しています。「上の子の時に他の病院でお世話になった助産師さんに、今回もまたお世話になった」と感激する妊婦さんも少なくないです。


出産時事故:患者に「無過失補償」導入へ 民間保険を活用 (毎日新聞)

2006年11月17日 | 出産・育児

コメント(私見):

脳性麻痺に関する「無過失補償制度」(医師の過失がなくても妊婦が補償を受けられる制度)を早急に創設すべきという主張に反対する者はいないと思いますが、その保険料を、公的負担にすべきか、患者負担にすべきか、医師(病院)負担にすべきか、について盛んに議論されてきました。

今回の報道によれば、『現在、35万円の出産育児一時金を2~3万円増額して分娩料を増額しやすくして、医師の保険料負担による民間保険で、脳性麻痺に関し「無過失補償制度」を2007年度中に創設する方針が固まった』ようです。

脳性麻痺は、分娩管理が進歩した現代であっても、一定の頻度(新生児千人に2~4人)で必ず発生します。ですから、単に確率の問題でどの妊婦にも同様に発生しうるわけですから、たまたま分娩に立ち会った医師の責任に帰する問題ではなく、本来は、患者負担(または公的負担)による「無過失補償制度」で救済すべき問題と考えられます。

****** 毎日新聞、2006年11月17日

出産時事故:患者に「無過失補償」導入へ 民間保険を活用

 政府・与党は17日、新生児が脳性まひで生まれてくるなど出産時の事故に関し、医師の過失を立証できなくとも患者に金銭補償する「無過失補償」制度を、07年度に創設する方針を固めた。民間保険を活用、保険料負担は医師に求めるが、負担増対策として健康保険から支払う、現在35万円の出産育児一時金を2~3万円増額する。新生児1人につき2000万~3000万円の一時金を補償する方向で調整する。

 財源に関し、日本医師会は税負担を求めているが、与党は「国が直接かかわる話ではない」として、親に支払う出産育児一時金を活用することにした。一時金を増やせば、やがて出産費がアップし、その分医師の収入増につながるため、医師に保険料を負担してもらう構想だ。

 民間保険会社に新たに「無過失補償」の商品を企画してもらい、産科医が任意加入する形をとる。保険料の決め方などの詳細は今後詰める。先天性異常の場合は、補償対象としない。将来的には、自動車損害賠償責任保険のような強制加入の制度に移行することを想定している。

 政府は、出産育児一時金を37万円にアップすれば、医師全体で約200億円程度の増収となり、事故一件につき2000万円の補償が可能になるとみている。政府は補償金に税投入はしないが、民間保険会社の支払い審査、原因分析といった事務費の半額、数億円を「少子化・医師不足対策」名目で税負担する。

 医療事故に絡む民事訴訟件数は年々増えており、04年は1110件と10年前に比べ倍増している。なかでも産科(143件)は、件数こそ内科などに次ぐ4位だが、医師1000人当たりでは11.8件と最も多い。このことが産科医のなり手不足を招いている、との指摘がある。無過失補償をすることで、被害者の救済に加え、医師不足対策にもなるというのが政府・与党の判断だ。【吉田啓志】

(毎日新聞、2006年11月17日)

****** 参考

「無過失補償制度」の産科医療への導入について

日医が「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置

「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化を提言(日本医師会)

医療ADR(裁判外紛争解決)について

医療不審死、究明機関設置へ(読売新聞)

出産時の医療事故、過失立証なくても補償…政府検討へ(読売新聞)

産科における無過失補償制度の創設

お産の事故に「保険」制度 産科医不足解消ねらい厚労省


救急医療について

2006年11月15日 | 地域医療

コメント(私見):

医師はそれぞれ自分の専門領域がありますが、その専門領域とは関係なく、救急医療機関で救急当番医を担当した以上は、救急専門医と同等の責任を負うとの判決です。

救急当番医として救急医療の現場に立った以上は、目の前にいる緊急処置を要する瀕死の状態の患者さんに対して、その場でできる最善と考えられる処置を実施しなければなりません。自分の専門領域以外の疾患に対する処置をしなければならないような場合も当然ありうることです。

自分のできる最善と考えられる処置を実施したとしても、治療の結果が悪ければ、結果責任を問われて多額の賠償金を支払わねばならないということになってしまえば、今後は、あぶなくて救急専門医以外は誰も救急医療に携わることはできなくなってしまいます。

******

大阪高等裁判所平成15年10月24日判決(平成14年(ネ)第602号損害賠償請求控訴事件

以下、引用文:
 『そうだとすると,被控訴人Eとしては,自らの知識と経験に基づき,Eにつき最善の措置を講じたということができるのであって,注意義務を脳神経外科医に一般に求められる医療水準であると考えると,被控訴人Eに過失や注意義務違反を認めることはできないことになる。G鑑定やH鑑定も,被控訴人Eの医療内容につき,2次救急医療機関として期待される当時の医療水準を満たしていた,あるいは脳神経外科の専門医にこれ以上望んでも無理であったとする。
 しかしながら,救急医療機関は,「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」などが要件とされ,その要件を満たす医療機関を救急病院等として,都道府県知事が認定することになっており(救急病院等を定める省令1条1項),また,その医師は,「救急蘇生法,呼吸循環管理,意識障害の鑑別,救急手術要否の判断,緊急検査データの評価,救急医療品の使用等についての相当の知識及び経験を有すること」が求められている(昭和62年1月14日厚生省通知)のであるから,担当医の具体的な専門科目によって注意義務の内容,程度が異なると解するのは相当ではなく,本件においては2次救急医療機関の医師として,救急医療に求められる医療水準の注意義務を負うと解すべきである。
 そうすると,2次救急医療機関における医師としては,本件においては,上記のとおり,Fに対し胸部超音波検査を実施し,心嚢内出血との診断をした上で,必要な措置を講じるべきであったということができ(自ら必要な検査や措置を講じることができない場合には,直ちにそれが可能な医師に連絡を取って援助を求める,あるいは3次救急病院に転送することが必要であった。),被控訴人Eの過失や注意義務違反を認めることができる。』

参考:救急の黄昏新小児科医のつぶやき


女性医師が働きやすい病院

2006年11月11日 | 地域周産期医療

今や、全国的に、産婦人科の新入局医師の七割以上が女性医師であるという現実があり、それは、患者側、女性医師側のニーズに基く結果として、現在の状況となっているわけですから、産婦人科における女性医師の処遇改善は緊急の課題だと思われます。

現在、多くの病院の産婦人科医の構成は、部長クラスは年配男性医師、若手は女性医師ばかりというパターンが多いです。今後、部長クラスの定年退職ラッシュと若手女性医師の離職が同時進行で進んでゆくと、加速度的に産婦人科医が減っていくことも予想されます。

集約化で病院あたりの産婦人科医数を増やして常勤医の負担軽減を図ったり、院内保育園を設置したり、ワークシェア制度などの多様な働き方を可能にするなど、あの手この手のさまざまな女性医師引きとめ策が必要だと思います。

今後は、女性医師が働きやすい病院でなければ、産婦人科医を集められなくなると思います。


理想の体制築けるか

2006年11月09日 | 地域周産期医療

どの分娩でも、突然、何の前触れもなく、予測不能の異常事態が発生する可能性がありますから、産科病棟では24時間体制で母体や胎児の異常事態に適切に対応できる体制を整えておく必要があります。

母体や胎児の状況によっては、一般病院では対応できず、高次病院に緊急母体搬送せざるを得ない場合も少なからずあります。今、日本各地で地域の周産期医療システムが崩壊の危機にあり、早急な地域の総力を挙げての対応が求められています。

地域の状況はそれぞれ全く違いますから、それぞれの地域の状況にマッチした対策は地域ごとに全く違って当然だと思います。

例えば、当医療圏の場合は、県の中でも辺境の地に位置し、県唯一の総合周産期母子医療センターまでの距離は百数十kmもあり、おまけに当医療圏内の周産期2次医療機関は1施設(当院)しかありません。近隣では他に母体搬送を受ける施設はなく、辺境の地の防波堤として、どんな荒波が押し寄せて来ようとも、とりあえず、すべて受けて立たねばなりません。多くの病院がある大都市圏とは置かれた状況が全く違います。

地域のみんなで知恵を絞って、各地域の実情に応じた有効な対策を検討していく必要があります。


産科・小児科で集約化の是非など検討がスタート(医療タイムス社、長野)

2006年11月07日 | 地域周産期医療

周産期2次医療体制の整備では、産科医、小児科医の確保だけではなく、麻酔科医の確保も非常に重要です。

いくら産科医と小児科医が一つの病院に集約化されたとしても、麻酔科医がいない病院では重症の救急患者を受けることはできません。周産期2次医療施設にとって、麻酔科医の存在は非常に重要です。

産科医や小児科医の不足は、地域住民にとっての一大事として大いに世間の取り沙汰となっていますが、実は麻酔科医不足も非常に深刻な状況にあります。麻酔科医が病院からいなくなってしまえば、もはやその病院では周産期2次医療は提供できなくなってしまいます。

麻酔科医が地域にとってなくてはならない貴重な存在であることを、地域住民の方々にもっと認識していただきたいと思います。

****** 医療タイムス、長野、2006年11月6日
(発行元に当ブログへの記事転載の承諾を得ました。)

産科・小児科で集約化の是非など検討がスタート

~県産科・小児科医療対策検討委が初会合

 県が設置した「県産科・小児科医療対策検討会」は2日、初会合を開き、県内の産科・小児科医療の提供体制について3人の委員による現状報告と意見交換を行った。会長には小西郁生・信大医学部産科婦人科学教授を互選した。

 今後、12月の次回会合に向け、近く産科・小児科それぞれの分科会で対策を検討する。その後、厚生労働省が通知で示した医療資源の集約化・重点化の検討期限とされる来年3月までに、分科会と検討会を交互に開いて検討を進め、集約化の是非やその方法を含めて県に提言する。提言は県地域医療対策協議会での審議を経て、県保健医療計画に反映する。

「2次産科医療が崩壊の危機」 ~金井・信大産科婦人科講師

 産科の体制について県内の現状を報告した金井誠委員(信大医学部産科婦人科学講師)は、本県の分娩の特徴として、病院が73%を占め、このうち2次病院での出生が過半数の53%に上ると指摘。これら2次病院は2~3人体制の施設が多く、この中で平均300~500件に上る分娩のほかハイリスク妊娠への対応、外来、婦人科手術まで広範に対応しているとし、「2次医療の提供なくして1次医療はありえない。その2次病院から産婦人科医がここ3年で29人立ち去った。2次の崩壊は全ての産科医療の崩壊につながる」と警鐘を鳴らした。

 その上で、今後の課題として、医療紛争問題と過重労働問題の解決が不可欠と指摘。特に過重労働問題に対しては、施設あたり産婦人科医師数の増加に向け、勤務条件の他科との同一化、報酬面での優遇、過重労働でない産婦人科医師や助産師を活用したサポートシステムが考えられるとした。

 山崎輝行委員(飯田市立病院産婦人科科長)は、飯伊地域で昨年スタートした産科問題懇談会の取り組みを解説。分娩を飯田市立病院に集約化したことで、飯伊地域の年間分娩数1800~2000件のうち同院の分娩は従来の約2倍にあたる1200件に達しているとし、「医師数や助産師数を増やし、なんとかやっているが、さらに医師を増員しないと厳しい状況。いずれにせよ1医療機関では解決できない問題」と訴えた。

「入局者減で拠点化もやむを得なくなる」 ~小池・信大小児科教授

 馬場淳委員(信大医学部小児医学助手)は、小児科の現状について解説。信大小児科では、新医師臨床研修制度の影響で例年5~6人の入局者がここ3年間は1~2人にとどまっている一方「信大は各医療圏の小児科医数を保ちつつ、大学から医師を出してがんばっている」とした。ただ、女性医師で結婚や出産、過酷な労働条件による退職者も多く「今後小児医療を今の水準で維持するのは非常に難しい。女性医師が辞めない労働環境が必要」と主張した。

 小池健一委員(信大医学部小児医学教授)も「努力してきたが、今後は医師不足がさらに厳しい。これから数年間で、ある程度の(規模の)病院で外来型に切り替えざるを得ないところが出るのもやむを得ない状況」「県の主導で小児救急体制も整備されつつあるが、現在の方法では維持できなくなる可能性もある。今後の大きな課題」と苦しい状況を語った。

「麻酔科医も加えて」「内科医をサポート役に」

 検討会では、産科・小児科それぞれの報告を受け、各委員が意見を述べた。「小児科、産科だけでなく麻酔科医がいなければ集約化といっても意味がない。会議に麻酔科医も加えるべき」(森哲夫委員=国立病院機構長野病院小児科医長)、「(こども病院と5の地域周産期センターとして拠点化されている)新生児医療の形を小児医療一般に広げたい。こども病院を基幹病院にし、多くの病院を外来型にするなどしないと小児科医はやっていけない」(宮坂勝之委員=県立こども病院長)、「後期研修医が集まるよう、大学とこども病院、基幹病院が力を合わせて方策をとる必要がある」(長沼邦明委員=飯田市立病院副診療部長)、「内科医も小児科を見ることができる。病院のコンビニ化で急増している夜間の患者を小児科医以外の医師がサポートする方法はできないか」(塚田昌滋委員=岡谷市病院管理者・市立岡谷病院長)、「勤務医の深刻な勤務環境と女性医師のサポートの2つを解決しないと、産科・小児科の問題は解決しない」(菅生元康委員=長野赤十字病院副院長兼第一産婦人科部長)、「『集約化』というと地域に反対されてしまうが、そのままにしていたら何も変わらない。危機の中である時期に我慢する、協力し合う、ということの重要性を、各病院長や事務長、首長、地域住民に、いかに伝えられるかがカギ。それがうまくいけばなんとかなる」(金井委員)などの意見が出された。

 今後、これらの意見を踏まえ、2つの分科会で対応策を検討する。それぞれ▽集約化の是非▽医師を減らさないための方策▽医師を増やすための方策▽女性医師の就業支援策▽助産師の活用策ーなどが検討されるものとみられる。

(医療タイムス、長野、2006年11月6日)
発行元に当ブログへの記事転載の承諾を得ました