欧米の起立性調節障害は循環器疾患として扱われていますが、
日本では循環器疾患+心身症という扱いです。
なぜそうなってしまったのか・・・
その原因は起立性調節障害の診断基準に、
「イヤなことを見たり聞いたりすると気分が悪くなる」
という項目があるのです。
循環器疾患と関係ない内容ですよね。
それに、イヤなことを見たり聞いたりすれば、
気分爽快になる人なんているのでしょうか?
それはさておき、
心身症という疾患は心療内科・精神科にもまたがる概念で、
内科疾患中心に診療する小児科医には不得手です。
しかし小学生・中学生が意を決して心療内科・精神科を受診しても、
「使える薬がありません」と門前払いを食らうのが現実です。
何とかならないものか・・・と私は漢方薬に活路を見出すべく模索中です。
起立性調節障害の患者さんは「朝起きられない」症状が定番ですが、
夜更かし(眠れない)&朝起きられない、つまり“睡眠障害”という視点からの診療、
つまり睡眠医療からのアプローチという記事が目に留まりましたので紹介します。
<ポイント>
・日本には軽症例を含め約70万人の起立性調節障害患者がいると推定され、これは中高生の約10%に相当し、その86%で朝の起床困難が認められると報告されている。しかし朝適切な時刻に起きられない症状はこれまで治療が難しかった。
・起立性調節障害の主症状である起立時の血圧低下や血圧の維持困難については、血管にある交感神経を刺激して血圧を上げる作用がある「ミドドリン」が処方されるが、睡眠の問題には効果がない。これまで入眠を助ける薬はあったが「朝適切な時刻に起床できない」という症状は治療が非常に困難とされてきた。近年、睡眠医療からのアプローチで、治療薬による起床時刻の調節が期待できるようになってきたが、多くの患者が最初に受診する小児科では、こうした治療法がほとんど浸透していない。
・若年層に多くみられる、極端な夜更かしと遅起きは「睡眠・覚醒相後退障害(DSPS)」という別の病気と定義される。睡眠医療の立場から見ると、起立性調節障害の患者の大部分は併存症としてのDSPSとも診断が可能と考えられる。これに対して、抗精神病薬の「アリピプラゾール」によって起床困難の改善が期待できるとする報告を、岡山大学大学院精神神経病態学教室の高木学教授が2014年に医学誌に公表した。
・アリピプラゾールは神経伝達物質の1つ「ドーパミン」の量を調節する作用がある。さらに近年、アリピプラゾールは直に脳の視交叉上核(外部からの刺激がなくとも、ほぼ24時間サイクルの「概日リズム」をつかさどる“最高位”の体内時計)に作用していることが明らかとなった。DSPSの場合には、同核からのシグナルが強く、かつ後ろにずれているため、日常の明暗サイクルに合わせるのが困難になっている。遅れてしまっていた視交叉上核のシグナルから離脱して普通の生活リズムに合わせやすくなるのが、アリピプラゾールの作用メカニズムと考えられている。
・アリピプラゾールは精神科領域の薬のため不安に思われるかもしれないが、早起きを促すために使う量は精神疾患の場合の10~20分の1という微量のため過剰な心配は無用である。一生服用を続けなければならないということもない。起立性調節障害やDSPSの原因となる発育の遅れていた脳内の部位が体の成長に追いつく20歳過ぎごろには、服薬をやめられる可能性が高い。
・DSPSと起立性調節障害は概念としては別の疾患である。一方は睡眠・覚醒、もう一方は血圧の問題が主ではあるものの、相互に併存しているケースは非常に多くみられる。血圧も睡眠も脳の視床下部という領域でコントロールされており、その領域の機能不全というか、体の発育の部位による“時差”が症状の背景にあるのではないか。
▢ 起立性調節障害に睡眠医療を―思春期の「朝起きられない」問題、薬で改善の可能性
(2024年03月21日:メディカルノート)より一部抜粋(下線は私が引きました);
思春期に多くみられ、長期の不登校や引きこもりの引き金になることもある起立性調節障害。多くが睡眠の問題を同時に抱えているが、特に朝適切な時刻に起きられない症状はこれまで治療が難しかった。近年、睡眠医療からのアプローチで、治療薬による起床時刻の調節が期待できるようになってきた。ところが、多くの患者が最初に受診する小児科では、こうした治療法がほとんど浸透していないという。思春期の「朝起きられない」問題に対する薬を使った治療の方法や効果、治療薬によって覚醒が“正常化”するメカニズムなどについて、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の神林崇教授への取材を基にまとめた。
▶ 薬による睡眠治療が「よい循環」のきっかけに
13歳ころから頭痛と倦怠感、立ちくらみが出現して小児科を受診。約半年後に起立性調節障害と診断された14歳女性の症例である。
治療前は、22時ごろに布団に入ってもなかなか寝付けず、朝は9~10時まで起きることができないため学校に行けずにいた。入眠を助ける「メラトニン」と、起床を調節するために低用量の「アリピプラゾール」で治療を開始した。投与3日目から22時には入眠、朝は7時に起床できるようになり、1カ月後には休日を除いて睡眠習慣が固定され、頭痛がなければ朝から登校できるようになったという。
「治療を始めてから週に2、3回は朝から登校できるようになったとのことです。すぐに朝シャキッと起きて毎日学校に行けるわけではありませんが、朝起きるのが少し楽になり、よい循環のきっかけになるのではないかと思います」と神林教授は治療の効果を解説する。
▶ 中高生の約10%が起立性調節障害と推定
日本小児科学会は、軽症例を含め約70万人の起立性調節障害患者がいると推定している(「小児期発症慢性疾患を有する患者の成人期移行に関する調査報告書」<2016年5月>)。これは中高生の約10%に相当する。患者は立ちくらみ、失神、倦怠感、動悸、頭痛などの症状がみられるほか、朝の起床困難や夜の入眠困難など睡眠に関する問題を併発している場合も多く、起立性調節障害の86%で朝の起床困難が認められると報告されている。
若年層に多くみられる、極端な夜更かしと遅起きは「睡眠・覚醒相後退障害(DSPS)」という別の病気と定義される。神林教授は「睡眠医療の立場から見ると、起立性調節障害の患者の大部分は併存症としてのDSPSとも診断が可能と考えられる」という。
起立性調節障害の主症状である起立時の血圧低下や血圧の維持困難については、血管にある交感神経を刺激して血圧を上げる作用がある「ミドドリン」が処方されるが、睡眠の問題には効果がない。これまで入眠を助ける薬はあったが、「朝適切な時刻に起床できない」という症状は治療が非常に困難とされてきた。しかし、抗精神病薬の「アリピプラゾール」によって起床困難の改善が期待できるとする報告を、岡山大学大学院精神神経病態学教室の高木学教授が2014年に医学誌に公表した。同時期から神林教授もアリピプラゾールの有効性に気付き、治療を始めていたという。
神林教授らの研究グループはDSPS患者に対して2~4週間、アリピプラゾールを用いて治療したところ、12人の患者の平均で就寝時刻が1時42分から0時36分に、起床時刻が9時36分から7時24分にそれぞれ早まり、睡眠時間が8.2時間から6.9時間に短縮されたという研究結果を2018年に発表している。
▶ 思春期に遅起きになる理由
思春期ごろに就寝・起床時刻が遅くなることは多くの人が経験しているのではないだろうか。
研究によると、小学校から中学校にかけて成育に伴い睡眠時間が減少し、就寝時刻も遅くなっていく。第二次性徴とともに睡眠時間が長くなる場合があるものの、その伸び方は個人差が大きい。一方で就寝時刻は成長とともにさらに遅くなるため、結果的に起床時刻は遅くなる。加えて、就寝の2~3時間前には「睡眠禁止ゾーン」と呼ばれる覚醒度の高い時間帯があり仕事や勉強がはかどりやすいのだが、勢いに任せていると容易に夜更かしができてしまう。そして、その反動で起床時刻も遅くなってしまうことになる。
DSPSと起立性調節障害は概念としては別の疾患である。一方は睡眠・覚醒、もう一方は血圧の問題が主ではあるものの、相互に併存しているケースは非常に多くみられる。「両方合わせて『若年性起床困難症』という病名を考慮してもよいのではないかと考えています。血圧も睡眠も脳の視床下部という領域でコントロールされています。その領域の機能不全というか、体の発育の部位による“時差”が症状の背景にあるのではないかと思います」と、神林教授は言う。
<睡眠医療の観点から推奨される治療薬>
早寝対策:メラトニン(メラトベル)1~2mgを眠前に(15才以下)
レンボレキサント(デエビゴ)2.5~5mgを眠前か不眠時頓用に
早起き対策:アリピプラゾール(エビリファイ)を0.5mg(体重60kg未満)、1mg(同60kg以上)朝か昼に
早寝対策:メラトニン(メラトベル)1~2mgを眠前に(15才以下)
レンボレキサント(デエビゴ)2.5~5mgを眠前か不眠時頓用に
早起き対策:アリピプラゾール(エビリファイ)を0.5mg(体重60kg未満)、1mg(同60kg以上)朝か昼に
▶ 受診する医療機関の探し方
思春期の睡眠問題で生活や学業に支障が出ている場合、どのような医療機関を受診すればよいのだろうか。
起立性調節障害が疑われる場合、小児科を受診するケースが多いという。起立性調節障害を専門にしているクリニックなどもあるが、いずれも睡眠医療の観点からの治療はほとんどまだ浸透していないという。
「血圧の問題があっても、適切な時刻に起きて服薬できなければ治療に支障をきたします。受診先を探す場合、日本睡眠学会のウェブサイトに『認定専門医療機関』の一覧が掲載されています。そのうち『機関A』の施設を受診してください」と神林教授はアドバイスする。
▶ 新型コロナ後遺症による過眠にも効果
起立性調節障害やDSPSと直接関係はないが、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の後遺症としてまれに過眠になるケースがあり、そうした症状の起床時刻調節にもアリピプラゾールは効果が期待できると神林教授はいう。「新型コロナの後遺症は症状が多岐にわたり、こうしたケースはほとんど知られていないのではないかと思います。比較的若い人に多く、新型コロナ感染後に1日14~15時間寝てしまうようになった方が、アリピプラゾールで治療したところ朝起きて学校に行けるようになったというケースがありました。思い当たる症状がある方は、同じように睡眠学会の認定専門医療機関を探して受診してみるとよいでしょう」。
▶ アリピプラゾールが覚醒を促すメカニズム
アリピプラゾールがなぜ覚醒を促すのか、そのメカニズムについても解明が進んでいる。
アリピプラゾールは神経伝達物質の1つ「ドーパミン」の量を調節する作用がある。脳内でドーパミンが過剰に放出されているときにはそのはたらきを抑えることにより鎮静などの作用が現れる。逆に不足しているときにははたらきを補い、気分を向上させるなどの方向で作用するとされる。DSPSの治療に用いるような低用量ではドーパミンが活性化されることで長時間の睡眠を短縮する効果があると考えられるという。
ただ、これだけではなぜ朝の起床を早めるのかは説明できない。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の李若詩・日本学術振興会特別研究員らによって行われた実験で、アリピプラゾールは直に脳の視交叉上核に作用していることが明らかとなった。視交叉上核は、外部からの刺激がなくとも、ほぼ24時間サイクルの「概日リズム」をつかさどる“最高位”の体内時計である。しかし、DSPSの場合には、同核からのシグナルが強く、かつ後ろにずれているため、日常の明暗サイクルに合わせるのが困難になっている。
生物の体内時計は1つだけではなく、脳のほかの部位や体細胞にも存在する。普段は視交叉上核からのシグナルに同期しているが、それがアリピプラゾールの投与により弱くなれば光の明暗や食事、親に起こされるなどの刺激で正しいサイクルに同調しやすくなる。「遅れてしまっていた視交叉上核のシグナルから離脱して普通の生活リズムに合わせやすくなるのが、アリピプラゾールの作用メカニズムと考えられます」と神林教授は説明する。
アリピプラゾールは統合失調症や双極性障害(躁うつ病)など精神疾患の治療薬として承認されているため、使用に不安を感じることがあるかもしれない。神林教授は「早起きを促すために使う量は、精神疾患の場合の10~20分の1という微量です。もともと大量に長期間服用しても大きな弊害は認められていないので心配はないと思います。アリピプラゾールは精神疾患にも用いられる薬ですが、起立性調節障害は精神疾患ではありません」と話す。
また、一生服用を続けなければならないということもない。起立性調節障害やDSPSの原因となる発育の遅れていた脳内の部位が体の成長に追いつく20歳過ぎごろには、服薬をやめられる可能性が高いという。神林教授は「医師と相談しながら薬の量を調節して様子を見て、状態がよくなっているようなら徐々に減らしていくことが大切です。加えて、これまで起立性調節障害で実践されてきた非薬物治療との組み合わせが非常に重要になると考えています」と指摘する。
・・・
このような記事を読むたびに、
という思いが頭をもたげてきます。
昔読んだ、栃木県足利市にある「ココファームワイナリー(※)」創設者である川田昇氏が書いた本に、
こんなエピソードが載っていました。
「体の大きな自閉症の青年が親に連れられて入所希望の面接に来た」
「入室して興奮気味の青年はいきなりズボンとパンツを下ろしてペニスを出し、
親の方を向いた」
「母親がそれをしごき射精して落ちついた」
「いつもこうなんです、こうしないと暴れて大変なんです、と母親」
「ここで受け入れてもらえなかったら、帰りに一家心中します」
「その青年の入所を認め、彼はブドウ作りの農作業に従事した」
「1年後にはたくましい農夫になっていた」
「もちろん、人前で自慰行為をすることはなくなっていた」
「人間は太陽が昇ったら体を動かして労働し、
腹が減ったら食事を取り、
日が暮れたら疲れ果てた体を休めるために眠る、
というリズムが基本であり、
これが狂っていると体がおかしくなるのではないか」
※ ココファームワイナリー:障害者がブドウを作りワインをつくっている施設。
この高品質なワインが沖縄のサミットで使われて全国に名が知れ渡った。
つまり私の言いたいことは、
眠れなくて起きられなくて不登校状態になっている若者には、
肉体労働をして体のリズムを再構築するリハビリテーション・プログラムが必要なのではないか、
ということです。
私は小児科医なので、夜尿症児も診療しますが、
夜尿症治療の第一歩は「生活指導・生活改善」です。
それでもダメだったら初めて薬物治療を考慮します。
私の起立性調節障害に対するイメージは、
「自分の体の使い方を教えられていない、
自分の体の使い方がわからない子どもたち」
です。