2023年4月現在、新型コロナの第8派がほぼ終息し、
ニュースのトップを飾る頻度が減りました。
5/8には感染症法上の取り扱いが、
2類相当 → 5類相当に格下げされることも決まっています。
「もう、新型コロナはふつうの風邪になった」
と安心してよいのでしょうか?
今までの経緯を振り返ることにより、
今後、新型コロナとどうつき合っていくべきか、
考えてみたいと思います。
情報・データは主に森内浩幸先生(長崎大学小児科教授)の、
WEBレクチャー視聴時のメモから書き起こしました。
ポイントを列挙すると、
・新型コロナの進化株は感染力が強くなっているが、必ずしも弱毒化していない。
・オミクロン株においても、季節性インフルエンザより致死率が高い。
・mRNAワクチンはCOVID-19の重症者・死亡数を確実に減らした。
・ハイブリッド免疫(ワクチン接種後の自然感染)が最強。
・mRNAワクチンは当初の高い感染予防効果は期待できなくなったが、重症化予防効果は一定期間期待でき、その維持には追加接種が必要。
・重症化しない年代(高齢者以外)に対するワクチン追加接種の必要性は減少した。
・重症化しない年代でも基礎疾患のある人にはワクチンは強く推奨される。
・日本を含むアジアではオミクロン株によるけいれん・急性脳症の頻度が高く要注意。
▢ 新型コロナウイルスの進化をみんな勘違いしている?
〇 感染力が増す
✖️弱毒化する
・・・武漢株 → アルファ株 → デルタ株、までは病原性が強くなった
オミクロン株で初めて弱毒化したが、今後もこの傾向が続くかどうか予測不能。
歴史上、他のウイルスの進化を見ても弱毒化が進んだものは多くない。
▢ ウイルス感染症の致死率の比較
・エボラウイルス:90%(ザイール)〜50%(スーダン)
・インフルエンザ
(H5N1)60%
(スペイン風邪)2.5%
(2019新型)0.4%
(季節性)0.01-0.09%
・新型コロナウイルス
(デルタ株)1.2-1.6%
(オミクロン株)0.13%
→ オミクロン株が弱毒化したと言っても、
まだ季節性インフルエンザより致死率は高い。
▢ 新型コロナウイルスの致死率:高齢者とそれ以外の比較
60歳未満 60歳以上
(オミクロン株) 0.01% 1.99%
(デルタ株:BA1/2) 0.08% 2.5%
(季節性インフル) 0.01% 0.55%
▢ 新型コロナワクチンは役に立ったのか? → YES!
・2020〜2021年の1年間に世界中で約2000万人の命を救ったと推計(Lancet)
・2020〜2022年の2年間に米国で326万人を救命し、約2000万人の入院を減らし、
かつ1億2000万人の感染を減らした。
・ワクチン接種率が高い国ほど致死率が低い。
(日本)接種率 80% → 致死率 0.01%
(イスラエル)接種率 64% → 致死率 0.04%
(英国)接種率 71% → 致死率 0.06%
・米国ではワクチン接種率が高い州と低い州では致死率が2倍異なっている。
(上位10州)接種率 73% → 死亡率 0.07%
(下位10州)接種率 52% → 死亡率 0.14%
▢ デルタ株では低く抑えられた日本の高齢者死亡が、なぜオミクロン株で増加?
・日本のワクチン接種は開始が遅れたが、
2回接種は最終的に欧米諸国を抜き去った。
・しかし3回目接種は先進国中絶望的に低い数字にとどまった。
→ このタイミングでオミクロン株が流行した。
高齢者への直近の接種率の差が大きな違いを生んだ。
▢ 新型コロナのような新興・再興感染症がふつうの風邪になる二つの経路+ONE
・自然感染による集団免疫獲得 → 多くの犠牲者を生む。
・ワクチンによる集団免疫獲得 → 犠牲者は少ない。
・ワクチン接種+自然感染によるハイブリッド免疫 → 犠牲者は少ない。
▢ ワクチンによる入院防止効果は減衰するが追加接種で取り戻せる
・オミクロン株流行期の高齢者の入院防止効果は、
接種後5ヶ月で30-40%まで落ちた。
・しかし追加接種(ブースター)で70%台まで回復した。
・もともと入院することがまれな若年者では効果が見えてこない・・・。
▢ 新型コロナワクチンの役割の変化
・当初、感染予防効果が90%以上だったため、
ワクチン接種により集団免疫を確立し、流行を終息させることが期待された。
・しかしオミクロン株登場により、感染防止効果が弱く持続も短くなり、
流行拡大阻止が期待できなくなった。
重症化阻止効果は期待できるが持続期間が短くなった
(ハイリスク者には繰り返し接種が必要)。
・重症化リスクのある人には重要なワクチンのままであるが、
重症化リスクのない人には繰り返し接種の意義が薄れた。
・ワクチン接種により重症化リスクを抑えた後、
自然感染するハイブリッド免疫が望ましい。
▢ ワクチンを接種すべきか止めるべきか、考えるべき要素
・ワクチンの有効性や安全性。
・予防目的の感染症の(その人にとっての)重症度、罹る可能性の大小。
▢ パンデミック当初子どもの感染が少なかった理由
・受容体(ACE2)やTMPRSS2の発現は大人より約2割低い。
・肺活量が小さいため、ウイルスの排出も吸い込みも少ない。
▢ 今、子どもの感染が増えてきた理由
・未感染・ワクチン未接種で免疫を持たない割合が大きい。
(大人は既感染やワクチン接種済みで免疫を持っている割合が大きい)
・子どもの鼻粘膜上皮細胞では、
大人のそれと比べて武漢株やデルタ株のウイルスは優位に増えにくかったが、
オミクロン株では大人同様よく増えるようになった。
▢ 従来の感冒コロナウイルス
・感冒コロナは風邪の原因ウイルス全体の15%を占める。
・4種類:NL63、229E、OC43、HKU1
・4-6歳までに4種類全部に全員感染する。
・COVID-19もほぼすべての子どもが感染するはず。
→ ふつうのかぜウイルスになる条件
▢ COVID-19感染者致死率の年齢別変化
・Jカーブを描く。
・7歳が最もリスクが低い。
・米国の報告(2021-2022年):乳児で死亡数が多く、1-14歳で最も死亡率が少ない。
・2歳頃まで下気道・肺の発達が続き、
2歳未満では解剖学的・生理学的に呼吸不全に陥りやすい
(2歳未満の下気道感染症は後遺症を残す可能性あり)。
▢ 4歳未満の小児におけるCOVID-19と他の感染症の致死率の比較
(COVID-19)0.00070%
(インフルエンザ)0.0073%
(RSV)0.1%
(ロタ胃腸炎)0.00017-0.0015%
(麻疹)(1歳未満)3.03%、(1-4歳)1.63%
・・・怖い順に、麻疹 > RSV > 季節性インフルエンザ > COVID-19 > ロタ
▢ 子どもと大人の免疫の違い
COVID-19の重症度は上気道粘膜における自然免疫力と逆相関する。
(子ども)
・自然免疫が強く新しい病原体への対応可能。
・獲得免疫はナイーブでこれから。
・全身性の過度な免疫応答は起こりにくい。
(大人)
・自然免疫が弱く新しい病原体への対応が不得手。
・獲得免疫は完成している。
・全身性の過度な免疫応答を起こしやすい。
▢ 免疫老化(Immunosenescence)
特徴)
・特異的抗原に対する免疫応答の低下
・炎症反応の亢進傾向(Inflamm-aging)
臨床像)
・病原体に対する易感染性
・ワクチン効率の低下
・炎症反応の慢性・遷延化
★ 小児期のBCGや麻疹ウイルスなどに対する免疫記憶は、
生涯にわたって保持される。
その一方、老齢期における新規の感染症では、
病態回復が遅く炎症が遷延し、
特異的免疫記憶も成立しにくい。
▢ COVID-19の重症化では何が起こっているのか?
・病初期:ウイルスの増殖が活発 → 抗ウイルス療法で対応
・重症化:ウイルスがほとんどいなくなり炎症反応が蓄積したところで起こる
→ 抗炎症療法
▢ 重症化リスクの高い子ども → ワクチン接種を推奨
・先天性心疾患
・肥満
・重度の神経学的障害
・慢性呼吸不全
・Down症候群、その他の染色体異常
・重度の発達障害
・小児がん、その他の免疫不全疾患
▢ 厚労省『新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き』における【小児の重症度】より
(システマティック・レビュー)
・重症化率は、基礎疾患ありで5.1%、なしで0.2%。
・重症化の相対リスク比は1.79、死亡の相対リスク比は2.81。
・基礎疾患のない患者における重症化因子では、肥満の相対リスク比が2.87。
▢ 子どものCOVID-19の致死率、日米比較
(日本)0.0007%(0-9歳)、0.0004%(10-19歳)
(米国)0.0122%(0-17歳)
・・・理由として考えられることは、米国では、
・肥満の子どもが多い。
・重篤な併発症である小児他系統炎症性症候群(MIS-C)がヒスパニック系・アフリカ系の子どもに多い。
・Minorityの子どもは医療へのアクセスが悪い?
▢ オミクロン株の子どもの臨床像
・オミクロン株になっても子どもの重症化はまれであるが、軽症化もしていない。
・感染者数の激増により重症患児は増加。
・MIS-Cは減ったが急性脳症は増えた。
・アジアの子どもはけいれん・急性脳症に注意。
・現時点では季節性インフルエンザに匹敵する死亡数。
(米国での5歳未満の検討)オミクロン株ではデルタ株と比べて、
・救急外来受診が29%⇩
・ICU収容が68%⇩
・人工呼吸が71%⇩
(イスラエルでの検討)
・オミクロン株では、アルファ株やデルタ株の場合と比べてMIS-Cの発生頻度が低い(1/13-14)。
(米国の報告)
・オミクロン株の流行により、クループ症例が激増した。
(カナダの研究)オミクロン株になり、
・嗅覚・味覚障害は激減。
・熱、全身症状、下気道炎は増加。
・予後に優位差はないが、点滴やステロイド投与が増えた。
(日本の報告:成育医療センター)
・オミクロン株になり、酸素が必要な症例が倍増。
・年長児でもけいれんを起こす例が増えた。
(香港の検討)
・オミクロン株BA.2と季節性インフルエンザを比較したところ、脳炎・脳症がリスク比が1.8倍。
(日本の検討:日本集中治療医学会)
・小児の重症・中等症COVID-19(第7波)の入室理由上位は、けいれん25.0%>急性脳症19.2%>肺炎19.2%。
(米国の報告)20歳未満の死因の第8位にCOVID-19がランクイン、感染症では季節性インフルエンザを抑えて第1位。
(日本における小児の死亡)
・2022年1月時点では、10歳未満0、10歳台4名。
・2023年3月時点では、10歳未満39例、10歳台20名。
★ 2019年の季節性インフルエンザによる小児死亡数は65名、そのうち
1-4歳:32名(第5位)、5-9歳:14名(第5位)
・・・インフルエンザ並!
▢ 小児(20歳未満)のCOVID-19死亡例50例の検討(日本:2022年1-9月)
・来院時心肺停止:22例(44%)
・発症から心肺停止までの日数:中央値1日(70%は2日以内)
・死亡に至る経緯:
中枢神経系異常(急性脳症など)38%
循環器系異常(急性心筋炎など)18%
呼吸器系異常(急性肺炎など) 8%