小児アレルギー科医の視線

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「食物アレルゲンの検査(IgE抗体)陽性だから除去してください」は正しい?

2024年11月13日 15時19分24秒 | 予防接種
食物アレルギーを心配して受診する患者さんは、
数字で白黒つけたいと血液検査(特異的IgE抗体)を希望されます。

また、乳幼児に給食を提供する保育園からは、
「保育園で出すすべての食材のアレルギー検査をしてください」
なんてとんでもない要求もありました。

アレルギー検査で陽性でも、
実際に食べて症状が出るとは限りません。
食べて症状が出なければそれが真実です。

ですから当院では、
「食べても症状が出ない食材は検査しない」
という方針です。

これがなかなか理解されず、
「検査してくれなかった」
と悪い口コミを何度書き込まれたことか…(T_T)。

ちょっと複雑ですが、解説を試みてみます。

1.アレルゲン・コンポーネント

一つの食材に存在するアレルゲン(アレルギーの原因成分)は一つではありません。
たいてい複数のアレルゲンが存在し、
その一つ一つを“アレルゲン・コンポーネント”と呼んでいます。

そして各コンポーネントは、アレルギー反応を起こす力も異なります。
つまり、
このコンポーネントに反応するヒトは激しい症状を起こし、
こちらのコンポーネントに反応するヒトは軽い症状で済む、
あちらのコンポーネントに反応する人は症状が出ない、
という現象があり得るのです。

さらに各コンポーネントは、その食材に同量含まれているわけではありません。
多かったり、少なかったり。

アレルギー検査に用いるアレルゲンは、
その食材をすりつぶして抽出したモノなので、
多量含まれれば陽性に出やすいし、
少量しか含まれなければ陽性に出にくい、
という事情もあります。

以上、単純でないことがおわかりいただけたと思います。
すると以下のような現象に遭遇することがあります;

例1)アレルギー検査(特異的IgE抗体)陽性だけど、食べても無症状。
 → アレルゲン性のないコンポーネントに反応するタイプ。

例2)アレルギー検査(特異的IgE抗体)弱陽性だけど、微量食べるとアナフィラキシー。
 → 症状が強く出るアレルゲン・コンポーネントに反応するヒトで、
 かつそのコンポーネントは食材に少ししか含まれていないので強陽性になりにくい。

2.検査試薬は生のアレルゲンから抽出している

アレルギー検査に用いる試薬は、生の食材から抽出しています。
しかし我々は、その食材を生のまま食べるとは限りません。

そしてアレルゲンは加熱・加工により変性し、
アレルゲン性が弱くなることがよくあります。

例えば「コメ」。
ふつう、炊いて食べます。
生で食べるヒトはいないですよね。
しかし検査試薬は生のコメから抽出したモノなので、
アレルギー反応を起こさない成分を検出している可能性があります。

3.IgG4抗体の存在

アレルギー症状を引き起こす血液中の抗体は「IgE抗体」です。
でも血液中にはこのIgE抗体の反応を邪魔する抗体が存在し、
それが「IgG4抗体」です。
英語では blocking antibody,  日本語では“遮断抗体”とか呼ばれます。

アレルゲンが二つのIgE抗体と結合すると、アレルギー反応が始まります。
でもそれを邪魔するIgG4抗体が存在し、
アレルゲンがIgG4抗体と結合してしまうと、
IgE抗体をたくさん持っていても反応できません。

血液検査ではIgE抗体だけ測定しています。
IgG4抗体は保険適応がないので検査できません。

つまりIgE抗体だけを測定しても、
その人がアレルギー反応を起こすかどうか、正確にはわからないのです。

このIgG4抗体は「食べることによって産生される」抗体です。
ですから、「少量食べても無症状、たくさん食べると症状が出る場合」は、
少量が出ない程度の量を食べ続ける方が有利、
IgG4抗体が増えてくればいずれたくさん食べられるようになる(耐性獲得)可能性が高くなります。
少量食べられるのに「検査が陽性だから完全除去」では治りが遅くなります。

4.腸管消化吸収能力の発達

アレルゲンとして作用するたんぱく質の分子量は1万〜7万程度とされています。
これより大きくても小さくても、IgE抗体が捉えることができないので、
アレルギー反応が起こりにくい、つまり症状が出にくいことになります。

乳児期は消化吸収能力が低いためたんぱく質が分解しきれず、
アレルゲンとして作用しやすい分子量のまま吸収されてしまいます。

しかし1歳以降はその能力が発達し、
1歳半の離乳食完了頃には大人と同じものを食べられる、
すなわち大人と同程度の消化吸収能力になるため、
アレルゲンとして作用しやすい分子量よりさらに小さく分解されて吸収されるようになります。

するとIgE抗体があっても反応する大きさのアレルゲンが入ってこないのですから、
アレルギー反応は起こらず、アレルギー症状は出ません。


…以上の4つの理由により、特異的IgE抗体陽性でも症状が出ない状況があり得るのです。
アレルギー検査の評価方法は単純ではないことがおわかりいただけたでしょうか?

最後に最新の食物アレルギーの治療・管理方法を紹介します。
基本原則は「正しい診断による必要最小限の原因食物の除去」です。

では「正しい診断」とは?
 → 食べて症状が出ること(食物負荷試験を含む)+ 特異的IgE抗体陽性

では「必要最小限の除去」とは?
 → 食べると症状が出る食物だけを除去、
 原因食物でも症状が出ない程度の量を食べ続ける

ということです。

同じ食物アレルギー患者さんの中でも、
重症度は異なり食べられる量も異なります。

例えば「卵」。
卵アレルギー患者さんの中で症状が出てしまう卵白量は、
 微量(0.2-0.3g) → 5%
 少量(4g)     → 50%
 中等量(20g)  → 90%
というデータがあります。
逆に上記の数字以外のヒトは卵アレルギーと診断されているけど食べられます。
つまり卵アレルギー患者さんの95%は微量(0.2-0.3g)食べても無症状、
そして10%の患者さんは20g(卵半分)食べても大丈夫。

例えば「牛乳」。
牛乳アレルギー患者さんで症状が出てしまう量は、
 微量(0.1-0.2mL) → 5%
 少量(4mL)     → 50%
 中等量(50mL)  → 90%
であり、牛乳アレルギー患者さんの95%は微量(0.1-0.2mL)を飲んでも無症状です。

ただし、あなたが上記のどれに当てはまるか自己判断して食べる・飲むのは危険です。
主治医に相談してください。
なぜかというと、食物アレルギーにアトピー性皮膚炎や気管支喘息を合併している場合、
それらの治療を十分に行うことが食物アレルギー診療の前提だからです。

さて、この項目のテーマである、
「食物アレルゲンの検査(IgE抗体)陽性だから除去してください」は正しい?
の答えは、
「検査で陽性だけでは除去が必要かどうか判断できません」
「食べて症状が出るヒトにのみ検査に意味があります」
となります。


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